磁界調相結合
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1990年にJohn Boysらによって発明されて実用化された、磁界調相結合の最も基本的なワイヤレス電力伝送システム[要出典]。これは 2nd-resonance 技術と呼ばれる[1]一次側巻線側からンピーダンスを観測すると、対になった二つの共振(並列共振周波数と直列共振周波数)が観測される。

磁界調相結合(じかいちょうそうけつごう、: Magnetic phase synchronous coupling)、もしくは共振誘導結合(きょうしんゆうどうけつごう、: Resonant inductive coupling)[2][3]とは、疎結合になっている二つのコイル(一次コイルと二次コイル)の二次側が共振するとき、二つのコイルの間に強い結合が生じる現象をいう。

磁界調相結合における最も基本的な構成は、一つの駆動コイルを一次側に、一つの共振回路を二次側に設置するものである[4][1][5]。この場合、二次側の共振状態を一次側から観測すると、対になった二つの共振が観測される[6][3]。このうち片方は反共振(英語版)周波数(並列共振周波数、右図のピーク 1)と呼ばれ、もう片方は共振周波数(直列共振周波数、右図の谷 1′)と呼ばれる。二次側の反共振周波数(並列共振周波数)は二次コイルの自己インダクタンスと共振コンデンサとの共振であり、共振周波数(直列共振周波数)は二次コイルの短絡インダクタンスと共振コンデンサとの共振である[7]。一次コイルが二次側の共振周波数(直列共振周波数)で駆動されるとき、一次コイルに流れる電流によって生じる磁界の位相と二次コイルに流れる電流によって生じる磁界の位相が揃うことにより、磁界位相が同期する。その結果、主磁束(相互磁束)の増加により二次コイルに最大電圧が発生し、熱発生は抑制され、効率が向上する。磁界調相結合はテスラコイルCCFLインバータ回路のなどの共振変圧器に応用され、ワイヤレス電力伝送における磁界共振の本質的な原理でもある。
概要

磁界調相結合は疎に磁気結合されたコイル間における近接場(英語版)ワイヤレス電力伝送の原理を説明する現象である。二次側に共振回路が構成され、この共振回路の共振周波数(直列共振周波数)と一次側の駆動周波数が一致するように調整することで一次コイル側の力率が改善されて効率の良い電力伝送が実現される。この原理は共振変圧器として知られ、コアで結合された高Q値コイルと、LC回路を構成するためのコンデンサで構成される変圧器において利用されている。共振変圧器は高周波回路におけるバンドパスフィルタとしてや、最近のLLCスイッチング電源などにおいて広く用いられている。

磁界調相結合を利用したワイヤレス電力伝送システムでは、送電側の駆動回路と受電側のLC回路とは大きな空隙(ギャップ)を介して離れた機器に対して電力伝送を行う。送電側の機器に組み込まれた送電コイルが空間的隔たりを越えて共振する受電コイルへと電力を伝送する。この意味ではワイヤレス電力伝送の送受電コイルも広義の共振変圧器と考えられる。この技術は古くは1993年から実用化が始まり[8]、現在では携帯電話タブレット型コンピュータなどの携帯機器に、コンセントとワイヤーで繋ぐことなく遠隔的に電力供給および充電を行なうために開発が進められている。

2006年にWiTricityによって提唱された磁界共振方式では基本的な磁界調相結合システムに加えて一次側にも共振回路が追加され、共振の電力伝送強度の向上が図られている。これによりWiTricityの磁界共振方式は一次側の共振コイルと二次側の共振コイルとが共鳴して結合していることが特徴となっている。WiTricityの説明によれば、共振による電力伝送はコイルに交流電流減衰振動リンギング)を起こさせることで働くとされる。これにより振動する磁界が生じる。一次側共振器のコイルは共振のQ値が高いので、コイルに流入したエネルギーは比較的ゆっくりと何サイクルもかけて減衰振動する。ここに共振する二次コイル(二次側共振器)を近づけると相当な距離があっても一次側共振器がエネルギーを散逸する前に二次側共振器がエネルギーのほとんど取り込んでしまう。機器同士の距離が波長の 1/4 の距離以内にある限り、使用される磁界は主に非放射性の近接場(エバネッセント波とも)となり、送電器から無限遠へと放射されるエネルギーはわずかであると説明されている。

磁界調相結合の応用の一つとしてCCFLインバータが挙げられる。他にも、スーパーヘテロダイン受信機において、各周波段を繋ぐ共振変成器が、中間周波数に同調する(英語版)ことにより受信機の周波数選択性を実現している[9]テスラコイル高電圧を発生させるための共振変圧器であり、ヴァンデグラフ起電機などの静電発電機よりもずっと大きい電流を発生させることができる[10]。磁界調相結合を応用した共振電力伝送は、大電力用途としては超伝導リニア[11]および無人搬送車[8]集電装置に採用されている。短距離(2メートル以内)ワイヤレス電力システムとして構想中の WiTricity や Rezence(英語版) および、既に実用化済みのQi、パッシブRFIDタグ、非接触スマートカード(英語版)などの動作原理も磁界調相結合の応用である。
共振結合p-p 型基本送電回路と受電回路。抵抗 Rs および Rr はコイルおよびキャパシタにおける損失を表わす。 Ls と Lr とは通常は 0.2 以下の小さな結合係数 k で結合している。

通常型の変圧器のような非共振結合インダクタは、一次コイルが磁界を生成し、二次コイルがその磁界からできる限りの電力を受けとる原理で動作する。このためには、磁界が二次コイルを通ることが必要となるので、ごく近距離に限られ、通常はフェライトなどのコアを必要とする。非共振の誘導結合では距離が大きくなると効率が大きく低下し、エネルギーの大部分は一次コイルの銅損として発熱により失われてしまう。

共振を用いることにより効率を劇的に向上させることができる。共振結合を使う場合、二次コイルに容量性負荷が接続され、LC回路が形成される。一次コイルの駆動周波数と二次コイルの共振周波数が一致する場合、コイル長の数倍の距離を隔てたコイル間でも相当のエネルギーを伝送しうる[12]。共振条件下では結合係数が増大すると説明されることが多いが、正しくない。
共振条件下での結合係数

コイル同士が疎結合された変圧器では、一次コイルを流れる電流により発生した磁束は一部しか二次コイルと結合せず、その逆も同じである。結合する部分を「主磁束」と呼び、結合しない部分を「漏れ磁束」と呼ぶ[13]。この結果、系が共振状態にない場合は二次コイルに現われる開放端電圧はコイル巻数比から予測される値よりも小さくなる。結合の度合いは「結合係数」と呼ばれるパラメータで捉えることができる。結合係数 k は変圧器の実際の開放端電圧比と、磁束の全てが結合していた場合の開放端電圧比との比率として測定可能である。ただしコイルに何らかの負荷が接続されている場合は磁束比は変化するが、これを結合係数が変化したとは言わない。k の値の範囲は 0 と ±1 の間である。無負荷状態において各コイルのインダクタンスは名目上 k:(1?k) の比率で主磁束を発生させるインダクタンス成分(相互インダクタンス)と漏れ磁束を発生させるインダクタンス成分(漏れインダクタンス)の二つに分けることができる。無負荷状態における主磁束と漏れ磁束との比は相互インダクタンスと漏れインダクタンスとの比に等しくなる。ところが負荷に電流が流れる場合は主磁束と漏れ磁束との比率は変化する。とくに容量性の負荷が存在する場合は一定の条件において主磁束が大幅に増加する。

結合係数は系の幾何配置の関数であり、二つのコイルの位置関係により定まる。結合係数は系が共振状態にあるかないかに関わらず一定である。共振状態においてコイル巻数比よりも大きな二次電圧が生じている場合でも結合係数は変化しない。すなわちこれは、結合係数は変化せずに主磁束が大幅に増加している状態である。

共振系は密結合、疎結合、臨界結合、過結合のどれかに分類される。密結合とは、通常の鉄芯変圧器のように結合係数がほぼ1の場合である。過結合とは、二次コイルが非常に近くコイル相互の結合の生成が反共振の効果により妨げられる状態であり、臨界結合とは通過帯における電力伝送と効率が最大となる状態である。疎結合とはコイルが互いに離れており、磁束のほとんどが二次コイルに届かない状態である。テスラコイルでは 0.2 程度の値が用いられ、より距離の大きい、たとえば誘導ワイヤレス電力伝送の場合は 0.01 を下回る場合もある。
電圧利得(P-P型)


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