硬膜外麻酔
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硬膜外麻酔
治療法
腰部硬膜外カテーテルを挿入直後の状態。挿入部位はヨードチンキで消毒されており、創傷被覆材(ドレッシング)はまだ貼られていない。カテーテルの軸に沿って深さを示すマーク(縞模様)がある。
ICD-9-CM ⇒03.90
MeSHD000767
OPS-301 code ⇒8-910
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硬膜外麻酔(こうまくがいますい、: epidural anesthesia、epidural)とは、脊髄硬膜の外側に麻酔薬を投与することによる区域麻酔の一種である。硬膜外ブロック(: epidural block)とも表記され、同義語ではあるが、ペインクリニックでは硬膜外ブロックと表記されることが多い[注釈 1]

脊髄硬膜外腔局所麻酔薬オピオイドを投与することにより、周術期鎮痛を得るものである。脊髄くも膜下麻酔全身麻酔鎮静と併用されることが多い。カテーテルを留置して手術中と術後の鎮痛に使用される[2]無痛分娩の際にも行われる。ペインクリニックでは局所麻酔薬以外にステロイドが用いられることもある[3]。カテーテル留置にはツーイ針と呼ばれる鈍針が用いられる。1987年、昭和天皇が腹部手術を受けた際、硬膜外麻酔が行われ、日本における硬膜外麻酔普及の端緒となった[4]
解説麻酔法の分類。硬膜外麻酔は、区域麻酔の中では脊髄くも膜下麻酔に次いで、脊髄に近い部位に局所麻酔薬を投与する。

硬膜外麻酔は、脊髄またはその近傍の神経線維を介した信号の伝達を遮断することにより、痛みを含む感覚を喪失させる。そのために必要な薬剤の投与経路硬膜外投与: epidural administration)であり、脊髄周囲の硬膜外腔に薬剤を注入する。英語の硬膜外、epiduralは古代ギリシャ語の?π?「上」 + 硬膜dura materに由来する[5]。この投与経路は、局所麻酔薬鎮痛剤だけでなく、造影剤などの診断薬、グルココルチコイドなどの薬剤を投与するためにも用いられる。硬膜外投与では、硬膜外腔にカテーテルを留置し、治療期間中はその場所に留置され続ける。意図的な硬膜外投与の技術は、1921年にスペインの軍医フィデル・パジェス(英語版)によって初めて報告された。

硬膜外麻酔は出産手術の際の痛みのコントロールによく用いられる。米国では、出産の50%以上に硬膜外麻酔が用いられている。この技術は、出産や手術中の痛みを緩和するために、口や静脈路から鎮痛剤を投与するよりも効果的で安全であると考えられている。硬膜外注射は、脊髄の炎症性疾患等の治療のためにステロイドを投与するために用いられることもある。重度の出血性疾患、血小板の少ない人、注射予定部位の近くに感染がある場合には推奨されない。硬膜外投与による重篤な合併症はまれだが、不適切な投与による問題や、投与された薬の副作用は起こり得る。硬膜外注射の最も一般的な合併症は、出血、頭痛、不十分な疼痛コントロールなどである。出産時の硬膜外鎮痛は、分娩時の母親の運動能力にも影響を与える可能性がある。非常に大量の麻酔薬や鎮痛剤を投与した場合、呼吸抑制が起こることがある。

硬膜外注射は脊椎のどの部位でも可能だが、一般的なのは、胸椎または腰椎である。投与部位によって、影響を受ける神経が異なるため、痛みが遮断される部位が決まる。硬膜外カテーテルは、骨と靭帯の間に針を通し、硬膜に穴を開けないように硬膜外腔に送り込む。硬膜外腔への留置を確認するために、生理食塩水や空気を用いることがある。また、X線透視で注入部位を直接撮影し、正しい位置にあることを確認することもある。一旦留置されたカテーテルからは、薬剤が1回または複数回に分けて投与されることもあれば、一定期間にわたって持続的に注入されることもある。硬膜外カテーテルは、適切に留置された場合、数日間挿入されたままになることがあるが、通常、より侵襲性の低い投与方法(経口投与など)を用いることが可能となれば抜去される。
適応硬膜外注入ポンプにオピオイド(スフェンタニル(英語版))と麻酔薬(ブピバカイン)を入れ、施錠した状態で使用する。
出産時の疼痛緩和(無痛分娩)

無痛分娩では硬膜外麻酔が、よく用いられる[6]。 これは通常、局所麻酔薬オピオイドを硬膜外注射するもので日本の医療従事者からはepiduralを略して「エピ」と呼ばれる事もある。英語圏ではepidural analgesiaのうち、単にepiduralと呼ばれることも多い。硬膜外麻酔は、経口または静脈内からのオピオイドや出産における他の一般的な鎮痛方法よりも効果的である[7]。 硬膜外麻酔投与後、妊婦は痛みを感じないかもしれない(日本語の「無痛」という言葉が示すように必ずしも無痛ではない)が、圧迫感はあるかもしれない[8]

硬膜外鎮痛は、静脈内鎮痛や経口鎮痛と比較して、より安全で効果的な陣痛の緩和方法と考えられている。硬膜外鎮痛と経口麻薬を比較した研究の2018年のコクランレビューでは、硬膜外鎮痛の利点として、より良い鎮痛効果、新生児にオピオイド拮抗薬であるナロキソンを用いる例が少ないこと(硬膜外麻酔が行われなかった場合、オピオイドが使われることがあり、母体から胎児に移行して呼吸抑制を惹起する)、母親の過呼吸のリスクが減少することなどが挙げられた[7]。硬膜外麻酔の欠点としては、胎児仮死(英語版)による帝王切開件数の増加、陣痛の遷延、子宮収縮(英語版)を促すためのオキシトシンの必要性の増加、低血圧や筋力低下のリスク増加、発熱などがあった[7]。しかし、同レビューでは、帝王切開分娩率全体には差がなく、出生直後に新生児への悪影響があるというエビデンスもなかった。さらに、硬膜外麻酔を用いても、長期的な腰痛の発生は変わらなかった[7]。硬膜外麻酔の合併症はまれだが、母体には頭痛、めまい、呼吸困難、痙攣などが生じる可能性はある。胎児には徐脈、体温調節能力低下、母体に投与された薬物への暴露の可能性がある[9]

硬膜外麻酔が母体に投与される時間による転帰の全体的な差はなく[10]、特に帝王切開率、器具による補助が必要な出産、陣痛の持続時間には変化がない。また、新生児のアプガースコアも硬膜外投与開始時期が分娩初期と後期で変化はない[10]。低用量の外来での硬膜外ブロック以外の硬膜外麻酔は、分娩中の母親の運動能力にも影響を与える。歩行や体位変換などの動作は、陣痛の快適性を向上させ、合併症のリスクを減少させるのに役立つことがある[11]
周術期の鎮痛

硬膜外鎮痛は、経口ないし全身投与のオピオイドを用いる必要性を減少させ[12]、術後の呼吸器合併症、胸部感染症[13]輸血の必要性[14]心筋梗塞のリスクを低減するなど、手術後にいくつかの利益をもたらすことが証明されている[15]。手術後に全身性鎮痛薬の代わりに硬膜外鎮痛薬を用いると、交感神経系の遮断により、全身性オピオイド療法で起こる腸の運動低下が起こりにくい[14][16]脊髄くも膜下麻酔が用いられる手術には、下腹部手術、下肢手術、心臓手術[注釈 2]、会陰手術などがある[14][17][18]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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