砒化水素
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アルシン
ヒ素の水素化物。本稿で詳述する。(
英語: arsine)

帝政ロシアにおける長さの単位。(英語: arshin)。アルシン (単位)を参照。

カナダのプロボクサー、ヨアキム・アルシン

アルシン


IUPAC名

アルサン(系統名)
別称ヒ化水素
水素化ヒ素
識別情報
CAS登録番号7784-42-1 
EC番号232-066-3
特性
化学式AsH3
モル質量77.9454 g/mol
外観無色気体
密度4.93 g/l, 気体、1.640 g/mL (?64 ℃, 液体)
融点

?117 °C, 156 K, -179 °F
沸点

?62.5 °C, 211 K, -81 °F
への溶解度0.07 g/100 ml (25 ℃)
酸解離定数 pKa25
構造
分子の形三角錐形
双極子モーメント0.20 D
熱化学
標準生成熱 ΔfHo+66.44 kJ mol−1
標準モルエントロピー So222.78 J mol−1K−1
標準定圧モル比熱, Cpo38.07 J mol−1K−1
危険性
EU分類非常に強い可燃性 (F+)
猛毒 (T+)
有害 (Xn)
環境への危険性 (N)
NFPA 704442
RフレーズR12, R26, R48/20, R50/53
Sフレーズ(S1/2), S9, S16, S28, S33, S36/37, S45, S60, S61
引火点可燃性気体
関連する物質
関連する水素化合物アンモニア
ホスフィン
スチビン
ビスムチン
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

アルシン(英語: arsine)とは、化学式が AsH3 と表される、ヒ素水素化合物である。水素化ヒ素(英語: arsenic hydride)や、ヒ化水素 (英語: hydrogen arsenide) とも呼ばれる。
性質

アルシンの化学式はAsH3であるため、その分子量は、77.95である。アルシンの常圧における融点は-116 ℃、沸点は-62 ℃なので、常温常圧では気体として存在する。なお、気体のアルシンに色は無い。

立体構造アンモニアに近いが、水素の結合角はアンモニアのそれよりも小さく直角に近い。極性溶媒に溶け易く、有機溶媒に溶け難い。しかし、窒素の電気陰性度が3.0のアンモニアとは異なり、ヒ素の電気陰性度は2.0なのに対して、水素の電気陰性度は2.1と、極性が弱いためアルシンは水素結合を作らない。

アルシンは還元作用を示し、例えば、硝酸銀水溶液に通ずるとを遊離する。なお、その標準酸化還元電位は以下の通りである。 As   + 3 H +   + 3 e − = AsH 3   , {\displaystyle {\ce {As\ +3H^{+}\ +3{\mathit {e}}^{-}=AsH3\ ,}}} E º = -0.225 V 2 AsH 3   + 12 AgNO 3   + 3 H 2 O ⟶ 12 Ag   + As 2 O 3   + 12 HNO 3 {\displaystyle {\ce {2AsH3\ + 12AgNO3\ + 3H2O -> 12Ag\ + As2O3\ + 12HNO3}}}

濃厚な硝酸銀水溶液では、ヒ化銀を含む黄色の複塩 Ag3As·3AgNO3 が沈殿する。このように、そもそも還元性を示す物質なので、強力な酸化剤とは、爆発的に反応する。したがって、引火し易く、爆発に至る場合もあるので、取り扱いには注意を要する[注 1]

なお、酸素との反応、すなわち、燃焼すると、及び三酸化ヒ素を生じる。

そもそもアルシンは比較的不安定な化合物であり、熱・光・水分によって分解され、ヒ素と水素を生じる。
毒性

ヒトに対してアルシンは猛毒であり、アメリカ合衆国産業衛生専門家会議(英語版、イタリア語版)(ACGIH)の勧告によるアルシンの許容濃度は、時間加重平均濃度にて 0.005 ppmである。アルシンを大量に吸入した場合、血液・腎臓に影響が出て、最悪の場合には死に至る。

アルシンの曝露された結果の症状は、数時間から数日遅れて現れる場合もあるため、その間は医学的な経過観察が必要とされる。
合成

例えば、ヒ化カルシウム(英語版、ドイツ語版、オランダ語版、ロシア語版)に希硫酸を作用させると発生する。 Ca 3 As 2   + 3 H 2 SO 4 ⟶ 2 AsH 3   + 3 CaSO 4 {\displaystyle {\ce {Ca3As2\ + 3H2SO4 -> 2AsH3\ + 3CaSO4}}}

この合成法によって合成したアルシンは、ニンニクに似た特徴的な臭気を持つとされるが、このニンニク臭は、不純物のテルルによる匂いだとも言われる。

また、ヒ素を含む試料に、触媒として亜鉛を加えて、そこに希硫酸を作用させるとアルシンが発生する。このようにして発生させたアルシンを、水素ガスと共に燃焼させて、その炎を冷たいガラス、または、磁製皿に触れさせると、単体のヒ素が付着し、光沢のある「ヒ素鏡」ができる。これはマーシュ法と呼ばれるヒ素の検出法の1つである。

なお、これは積極的な合成法ではないものの、シェーレグリーンと呼ばれる顔料を、カビバクテリアが分解すると、アルシンが発生し得る。
用途

ヒ化ガリウム(GaAs)やヒ化インジウム(InAs)等の化合物半導体の原料として重要である。アルシンを原料としての半導体製造においては、有機金属気相成長法(MOCVD)やガスソース分子線エピタキシー法(GS-MBE)が用いられる。原料ガスとしてアルシンを管内に送り込む方法で、均等に層を積み上げる成長工程を担う[2]
有機アルシン

有機化学において、水素化ヒ素を親化合物とし、一般式が RR1R2As(各置換基は H または有機基)と表される一連の誘導体も、俗に「アルシン」と呼ばれる。トリフェニルアルシン((C6H5)3As)などは、配位子としての用途がある。
脚注
注釈^ 危険性とその対処については国際化学物質安全性カード[1]にまとめられている。アルシンのTLV(暴露限界)は、0.005 ppm(TWA)である。

出典^ “ICSC 0222 - アルシン”. 2024年1月5日閲覧。
^ “MOCVD装置”. 大陽日酸. 2016年9月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年11月14日閲覧。


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