砂防堰堤
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砂防堰堤(新潟県妙高市長野県信濃町にまたがる関川1号砂防えん堤)

砂防堰堤(さぼうえんてい、英語:Check dam)とは、河川に設置されるダムの一種。「砂防ダム」(さぼうダム)と称されることもある。特に土石流による土砂災害被害の軽減や河床の過度な洗堀を防止することを目的として設置されるダムである。
砂防堰堤と治山堰堤

日本においては砂防法に基づき国土交通省が管轄し、各地の地方整備局や都道府県の土木系の部署が建設するものを「砂防堰堤」、森林法に基づき林野庁が管轄し、各地の森林管理署や都道府県の林業系の部署が建設するものと「治山堰堤」(治山ダム)などとして分けるが、管轄する役所が違うだけで構造物の形はほぼ同じである(以下、特に区別する必要がない限り治山ダムも含めて説明する)。治山堰堤の方は「保安林を健全に生育させるために河川の勾配を緩くするためにダムを建設する」という目的で建設されるので、後述のようにメンテナンス面の考え方に砂防堰堤との違いがある。

また、砂防堰堤や治山堰堤の呼び名についても「堰堤工」、「谷止工」、「床固工」などと呼び分ける場合があるが、構造物の形はほぼ同じである。ダムを建設することによって河川の縦断勾配が変化するが、この変化の度合いが大きいものを谷止工、度合いの小さなものを床固工などと言ったりする。また、床固工の場合は下記の袖部天端の勾配を持たせず袖部が水平である場合が多く、見た目にも若干違いがある。
構造
堤体

砂防堰堤の形は多くで中央部が低くくびれたTシャツのようになっており、中央の低くなった所を水通し(Tシャツでいう首を通す部分、放水路とも呼ばれる)という。水通しの左右はやや高くなっており、これをダムの袖部という(Tシャツでも袖の部分)。袖部には流水を水通しに集める働きがある。また、渓流部に設けられるダムの多くは、袖部の上部(天端部分)は水通しに向かって勾配を付ける。これは水通しの処理能力を超えた流水があった時にも、極力堤体中央部に流水を集めることで袖を打ち込んでいる両岸斜面を流水で浸食されて決壊するという致命的な事故を防ぐ構造上の工夫である。

堤体の横断面は台形であるが、水通しから土石が流れ落ちることでコンクリートや鋼材といった部材が損傷するため、安定計算の許す限り垂直に近い急傾斜に作ることで土石の衝突による損傷を減らすように設計する。安定計算では堤高や重量、完成時点での堤体にかかる土圧と水圧のバランスなどが考慮される。

堤体の高さはダムの貯砂容量に直結する。渓流内に堆積する土砂を受け止め切れるか、土石で満杯になったときに上流側の渓流の勾配を十分緩和することができるかなどで決定する。堤体の厚みは水通しの高さにおける厚みで評価され、渓流内に堆積する転石の大きさを根拠に決定される。土石流の直撃を受けないと判断される場合は堤体の厚みを薄くする場合があり、副堤などではこの考え方で作ることも多い。

天端部分に傾斜を設けることが多い

砂防堰堤の堤体は垂直に近い急傾斜で作られる。

砂防堰堤の上流は堆砂により勾配が緩和される

堆砂敷に森林が成立し山と同化した砂防堰堤(治山ダム、京都府

水通し

水通し部分の断面は上底が下底より長い台形型とすることが一般的で、まれに長方形とするものがあるほか、特に流量の多い場所では階段状にすることがある。貯水するダムに見られるゲートなどの洪水調節機能は原則としてない(まれに灌漑用水などの取水のために工夫を施したダムもみられる)。水通しの断面積は最大洪水量を通過させることができるように決定される。前述のように最大洪水量を超えた場合でもある程度は耐えられるように袖部などに工夫を持たしている。

水通しとは別に堤体には大きな水抜き穴も設けられるのが一般的である。これは施工時や浚渫等のメンテナンス時に活用される。

水通しから排水する砂防堰堤(フランス

階段状の水通しと袖部を持つ砂防堰堤(兵庫県六甲山)

水通しは上底の長い台形である(岐阜県

流木対策と見られる独特な水通しを持った砂防堰堤(長野県)

貯砂容量に余裕があり水抜き孔から排水する砂防堰堤

雪崩が通過した砂防堰堤

材質

ダムの材質ではコンクリートが最も多く、ダムはコンクリートの重量で自立している(重力式コンクリートダム)。これは生コン工場での大量生産によるコスト面の低さ、型枠さえ組んでしまえば誰にでも扱いやすいという施工性の高さ、数十年は耐える耐久性などの点で多くの場所で最適となるからである。ビルなどと違いダムは一般に鉄筋は使わずに無筋コンクリート構造物に分類されるが、打設面と打設面の間(打継目)を連結するためだけに短い鉄筋(挿筋などと呼ばれる)を用いる場合が多い。なお、この鉄筋すら用いず上下の打設面を凹凸状に組み合わせることで連結し完全な無筋構造物としたものもある(型枠保持のためのセパレーターなどコンクリートが固まるときに内部に残される微小な金属部品を除く)。

ただし、コンクリートの重量に耐えられない軟弱地盤の箇所や不等沈下の程度の大きい場所、コンクリートダムが貯水することで地下水位が変位し、ダム周辺の斜面で地すべりを誘発するような個所では、多少の変形に耐え排水性にも優れる鋼材などで作った枠の中に石を詰め込むタイプ(鋼製枠、鋼製自在枠などと呼ばれる)なども使われる。鋼製枠では現場で発生した残土や転石を内部に詰めることができるものも存在し、残土処理や生コン工場の場所にとらわれない点からもメリットが大きいが、コスト面でコンクリートには及ばず主流の工法にはなっていない。また、鋼材の腐食がダムの強度に大きく影響するので、酸性度の強い温泉地帯などでも一般に使用されない。鋼製枠によく似たものに木材を使った枠や、鉄線を編んだ籠を使う蛇篭(フトン籠ともいう)で作られたダムもあるが、腐食や強度の面で劣り鋼製枠やコンクリートのような大きなダムには使われず小さいものにとどまる。

1950年代くらいまではコンクリートが高価かつ、技術のある石工が多く人件費も安かったこともあり、石積による石垣タイプなどもよく見られた。石だけを使った空積方式の他に目地にコンクリートを使った練積方式もみられる。

コンクリート製の不透過ダムは貯水性が高い

北海道美瑛町の観光名所「青い池」は砂防堰堤への貯水で生まれた名所である

ダムへの貯水が一因となり大規模な地すべりが発生したバイオントダムイタリア

参考:石を詰めた蛇篭(英:gabion)。これで小さなダムを作ることもあるが、ダム直下に洗堀防止のため置くことのほうが多い。

福山藩の砂留と呼ばれる石積みの砂防堰堤(広島県

石積みの砂防堰堤(ドイツ)

丸太2本を並べて作った簡易な砂防堰堤(エチオピア

流木対策

土石流発生時には土砂だけでなく大量の流木が運搬されることによる被害も発生している。直撃を受けることによる被害のほか、河川内の橋脚に流木が詰まることにより、橋の場所から洪水が発生したり、水圧によって橋げたが落橋する原因にもなることもある。

土石だけでなく流木に対策の重点を置いたダムもある。古くは中央部を金属製で鎧戸状のバットレスダムタイプにしたもので、土石の直撃には弱いが流木をせき止めることを期待して建設される。また、既存のコンクリートダムに鋼材などを付けることで土石だけでなく流木対策を施したものもしられる。土石と流木対策に加えて普段の土砂の流下や水生生物の移動を妨げないスリットダム(透過型堰堤などとも呼ばれる)もある。鋼材や木材を用いた比較的低コストでできるものから、コンクリートで巨大な柱を作り上げる大規模なものもある。

大量の土砂と流木が発生した渓流(広島県)

流木が橋脚に詰まり損傷・洪水が発生(日本)

バットレスタイプのダム

流木対策にもなるスリット型砂防堰堤

流木対策に重点を置いたとみられる鋼材スリットダム

流木対策のスリットダム(スイス

コンクリート柱のスリットダム(ポルトガル

コンクリート柱を持つスリットダム(新潟県

配置

荒廃の激しい渓流は数年から数十年にわたって複数のダムを入れて階段のようにすることが多い。この場合、下流に作られたダムの堆砂敷によって上流のダムを洗堀から守る働きもある。

階段状に多数配置された砂防堰堤(富山県立山)

両岸に伸びる側壁と洗堀防止に貯水した大きな水叩きを持つ砂防堰堤

砂防堰堤建設までの流れ

以下に日本における一般的な流れを説明する。
申請

荒廃した渓流を持つ市町村長が都道府県(民有地の場合。国有地の場合は国)に対して事業の要望書を提出する。都道府県や国では事業を行うほどの荒廃具合かどうか、費用便益比(B/C比)、砂防指定地や保安林への指定に対し、土地の所有者が同意しているかどうかなどで事業への着手を判断する。


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