この項目では、安部公房の小説について説明しています。
本作を原作とする映画については「砂の女 (映画)」をご覧ください。
鈴木茂の楽曲については「砂の女/微熱少年」をご覧ください。
砂の女
訳題The Woman in the Dunes
作者安部公房
国 日本
言語日本語
ジャンル長編小説
発表形態書き下ろし
刊本情報
出版元新潮社
出版年月日1962年6月8日
装幀香月泰男
総ページ数218
受賞
第14回(1962年度)読売文学賞
1967年度最優秀外国文学賞
『砂の女』(すなのおんな)は、安部公房の書き下ろし長編小説。安部の代表的作品で、現代日本文学を代表する傑作の一つと見なされているだけでなく、海外でも評価が高い作品である[1][2]。海辺の砂丘に昆虫採集にやって来た男が、女が一人住む砂穴の家に閉じ込められ、様々な手段で脱出を試みる物語。不思議な状況設定を写実的に表現しながら、砂の世界からの逃亡と失敗を繰り返していた男がやがて砂の生活に順応し、脱出の機会が訪れても逃げない姿に、市民社会の日常性や、そこに存在する人間の生命力の本質と真相が象徴的に描き出されている[2]。
1962年(昭和37年)6月8日に新潮社より刊行され、翌年1963年1月23日、第14回(1962年度)読売文学賞を受賞。1964年(昭和39年)には、作者自身の脚本により勅使河原宏監督で映画化された。翻訳版は E. Dale Saunders 訳(英題: The Woman in the Dunes)をはじめ、チェコ語・フィンランド語・デンマーク語・ロシア語等の二十言語で翻訳され、1968年(昭和43年)1月18日にはフランスで1967年度最優秀外国文学賞(英語版)を受賞した[1][2]。 安部は、『砂の女』執筆のきっかけについて、弘前大学での講演旅行の車中で週刊誌を読んでいたところ、飛砂の被害に苦しめられている山形県酒田市に近いある海辺の部落(浜中)の、グラビア写真を見た。安部は、その瞬間に「いきなり〈言葉〉の群が、何処からともなく芽をふき、生い茂り、たちまちぼくの意識を完全に占領してしまっていた」と振り返っている[3]。 なお、『砂の女』は、短編小説『チチンデラ ヤパナ』(1960年)を長編化したもので、第一章の1から7の半ばまでは『チチンデラ ヤパナ』と重なっている[1]。安部は、同年9月1日に新潮社出版部の谷田昌平から、『チチンデラ ヤパナ』を発展させた「純文学書下ろし長編小説」の執筆依頼を受け、2年近くかけて『砂の女』を完成させた[4]。 安部は、砂の研究に生涯をかけたあるヨーロッパ人について言及し、砂の神秘や砂の魔力を、「とらえずにはいられないという、人間精神の根底にひそむあるものを、たくまずして暗示しているのではないでしょうか」と述べ[5]、自身もそういった本を書いてみたいという思いで、『砂の女』を書き始めた。また、〈砂〉について以下のように語った後、小説『砂の女』では「現代のなかの砂」を描き、映画『砂の女』では「砂のなかの現実」を描いたものといえると解説している[5]。「砂」というのは、むろん、女のことであり、男のことであり、そしてそれらを含む、このとらえがたい現代のすべてにほかありません。だが、小説を書きあげても、「砂」はまだ私をとらえたまま、はなしてくれようとしませんでした。 ? 安部公房「砂のなかの現実」[5] また、『砂の女』で追求した〈自由〉の主題について安部は、以下のように語っている。鳥のように、飛び立ちたいと願う自由もあれば、巣ごもって、誰からも邪魔されまいと願う自由もある。飛砂におそわれ、埋もれていく、ある貧しい海辺の村にとらえられた一人の男が、村の女と、砂掻きの仕事から、いかにして脱出をなしえたか――色も、匂いもない、砂との闘いを通じて、その二つの自由の関係を追求してみたのが、この作品である。
作品成立・主題