短鎖脂肪酸
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短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん、: SCFA、Short-chain fatty acid)は炭素数6未満の脂肪酸(fatty acid)で、C1ギ酸、C2酢酸、C3プロピオン酸、C4イソ酪酸、C4酪酸(ブタン酸)、C5イソ吉草酸、C5吉草酸(ペンタン酸)、C52-メチル酪酸を指す[1][2]。炭素数4以上では構造異性体を生じるため、同じ炭素数で複数の脂肪酸が存在する。炭素数6のカプロン酸なども短鎖脂肪酸に含める場合がある。一方、炭素数1のギ酸は含めない場合もある。
代謝

短鎖脂肪酸は、塩(salt)の形で炭素代謝(carbon metabolism)の中間物質としてしばしば生成する。例えば、ギ酸(formic acid)は炭素数1の最小のカルボン酸であるが、その塩であるギ酸塩(formate)は、各種生体物質の間で一個の炭素を単体もしくはメチル基の形でやりとりする一炭素代謝(1C metabolism)の一部を構成する[3]。また、炭素数3のプロピオン酸は、例えば炭素固定回路である3-ヒドロキシプロピオン酸/4-ヒドロキシ酪酸サイクルや3-ヒドロキシプロピオン酸二重サイクルによってプロピオニルCoAの形で生成する。これらの回路は一部の細菌や古細菌に見られる[4][5]。すべての短鎖脂肪酸に共通した生成経路は存在せず、各脂肪酸ごとに複数の代謝経路(同化および異化)により生成する。

最終生成物としての短鎖脂肪酸は、多くの場合細菌発酵(fermentation)によって生成する。動物の場合、自身では合成できない代わりに、腸内細菌が短鎖脂肪酸の合成を担っている[6]。酢酸を合成する細菌は特に酢酸菌(acetic acid bacteria; 主にアルファプロテオバクテリア綱のアセトバクター科、好気性)と呼ばれる。アルファプロテオバクテリア以外に、一部のベータプロテオバクテリアガンマプロテオバクテリアも類似の発酵を行うことができる[7]。酢酸菌は酸化的発酵(oxidative fermentation)と呼ばれる反応過程により酢酸を生成する[7]。ギ酸は、アリやオオハリナシミツバチ(stingless bee)など一部の昆虫によっても生合成されることが知られている[8][9]

短鎖脂肪酸は、より長鎖の脂肪酸のβ酸化によっても生成する。偶数炭素数の脂肪酸(C16パルミチン酸など)からはアセチルCoAが、奇数炭素数の脂肪酸(C17マルガリン酸など)からはプロピオニルCoAが生成する。これらの化学物質は加水分解酵素により酢酸およびプロピオン酸に変換される[10][11]
動物における役割
反芻動物

摂取した飼料が反芻胃内で微生物の発酵を受ける反芻動物において、発酵の際に生じる短鎖脂肪酸(主に酢酸、プロピオン酸、酪酸)は主なエネルギー源となる。反すう胃内で生成した酪酸の多くは反すう胃粘膜でβ-ヒドロキシ酪酸に換されるため、肝門脈に現れるのはおよそ10分の1となる。このとき生成されるβ?ヒドロキシ酪酸も反すう家畜にとってはエネルギー源となる。また、プロピオン酸の多くは肝臓糖新生に利用され、反芻動物の糖要求の多くはプロピオン酸からの糖新生によってまかなわれる。
ヒト

ヒトの大腸内でも腸内細菌が食物繊維(難消化性糖類)を発酵する際に短鎖脂肪酸を産生し、健康維持に欠かせない役割を果たしている。ヒトの場合、酢酸、プロピオン酸、酪酸の3種が代表的な短鎖脂肪酸である[12][13]。ヒトの体で短鎖脂肪酸が作られる部位は腸内細菌が多い大腸で、作られた短鎖脂肪酸は大腸から体内に吸収される。吸収された短鎖脂肪酸のうち、酪酸は大腸上皮細胞のエネルギー源として利用され、酢酸とプロピオン酸は肝臓や筋肉で代謝利用される[14]。また、短鎖脂肪酸の受容体が全身の様々な部位にあり、短鎖脂肪酸はこれらの部位の生体調節機能を果たしている。中には生活習慣病と密接な関係にあるものも多いことから、癌や肥満、糖尿病、免疫疾患を予防・治療する手段として活発に研究されている[15]。短鎖脂肪酸は体内に吸収される前の腸管でも重要な働きがある。短鎖脂肪酸は酸性の成分なので、短鎖脂肪酸ができると弱酸性の腸内環境になる。弱酸性であると悪玉菌の出す酵素の活性が抑えられるため、発がん性物質である二次胆汁酸や有害な腐敗産物ができにくくなり、腸内環境が健康に保たれる[16]。また、弱酸性になることでカルシウムマグネシウムなどの重要なミネラルが水溶性に変化するので、より体内に吸収しやすくなり、ミネラル不足を補うことができると言われている[14]
ヒトの健康とのつながり
有害物質からのバリア機能の強化


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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