睡眠
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「眠り」はこの項目へ転送されています。村上春樹の小説については「眠り (村上春樹)」を、陰陽座の曲については「」を、ニールセンの作品については「眠り (ニールセン)」を、クールベの絵画については「眠り (クールベの絵画)」をご覧ください。

睡眠(すいみん、: somnus、: sommeil、: sleep)とは、眠ること、ねむり。「脳の意識レベルが低下して、視覚や聴覚などの感覚情報が脳に認識されなくなった状態」を指す[1]

日本睡眠学会などでは、「対象を哺乳類に限定すれば、人間や動物の内部的な必要から発生する意識水準の一時的な低下現象、これに加えて、必ず覚醒可能なこと」と定義している[2][3]
概要

ヒトは通常は昼間に活動し、夜間に睡眠をとる[4]。動物では夜間に活動し、昼間に睡眠をとるものも多い[4]夜行性)。

ヒトにとって睡眠は不可欠であり[5]睡眠欲生理的欲求の一つで、体が眠りを必要とするときは眠気(英語版)が現れる。睡眠不足は心身にとってストレスとなり、不眠症など睡眠に関する様々な問題は睡眠障害と総称される。ヒトは身体を横たえて眠る(寝る)ことが一般的で、そのための部屋を寝室、道具(布団)を寝具と呼ぶ。

睡眠について研究している櫻井武は、「睡眠」とは、にある「覚醒」とは別のオペレーションモードで、さらにレム睡眠ノンレム睡眠に分かれ、脳はこの3つのモードを切り替えて使っている。睡眠は「メンテナンスモード」であり、脳とからだの覚醒に必要なメンテナンスモードで、睡眠時には睡眠特有の伝達物質が働き睡眠を稼働させていると説明する。ただ、ノンレム睡眠時に脳の老廃物を洗い流すグリンパティックシステムに関しては、実際に起きている現象論的には正しいが研究が進んでいない仮説であるとしている[6]

また、セントルイス・ワシントン大学で神経生物学を研究するポール・ショーは、「環境に反応する方法を進化させるまでは、初期の生物は『反応』しませんでした。私たちは睡眠を進化させたのではなく、覚醒を進化させたのだと思います」という推測を述べている[7]

ヒトの睡眠中は、急速眼球運動(REM=レム)が生じ、ノンレム睡眠であるステージIからステージIVの4段階と、レム睡眠を、周期90 - 110分で反復する[8]。睡眠は、心身の休息、身体の細胞レベルでの修復、また記憶の再構成などにも深く関わっているとされる。下垂体前葉は、睡眠中に2時間から3時間の間隔で成長ホルモンを分泌する。放出間隔は睡眠によって変化しないが、放出量は多くなる。したがって、子供の成長や創傷治癒、肌の新陳代謝は睡眠時に特に促進される。

睡眠時に脳波を観察していると徐波が現れる、すなわち、深いノンレム睡眠が起こるのは哺乳類の大部分と鳥類に限られ、爬虫類両生類魚類では睡眠時に徐波が現れないことが知られている[9]。なお、哺乳類の中でもカモノハシハリモグラなどの単孔類のような原始的な哺乳類の眠りは、それ以降の哺乳類の眠りとは異なっている[9]
睡眠中の状態

睡眠中は刺激に対する反応がほとんどなくなり、移動や外界の注視などの様々な活動も低下する。一般的には、閉眼して意味のある精神活動は停止した状態となるが、適切な刺激によって容易に覚醒する。このため睡眠と意識障害とは全く異なるものである。またヒトをはじめとする大脳の発達したいくつかの動物では、睡眠中にと呼ばれるある種の幻覚を体験することがある。

短期的には睡眠は栄養の摂取よりも重要である。マウスの実験では、完全に睡眠を遮断した場合、約1 - 2週間で死亡するが、これは食物を与えなかった場合よりも短い。極端な衰弱と体温調節の不良と脳では視床の損傷が生じている。ヒトの場合でも断眠を続けることで、思考能力の低下や妄想幻覚が生じ、相当期間の強制で死に至ると言われている[10][11]
疲労の回復
睡眠によって、疲労が回復する[12][13]。脳内はグリンパティック系(英語版)(グリンパティックシステム、グリアリンパ系)と呼ばれる脳の老廃物を脳外へ排出する仕組みがある。これは睡眠中にグリア細胞が縮小し、その間に脳脊髄液が流れ込み老廃物を洗い流す仕組みとなっている[14][15]
記憶の定着
記憶の定着と索引付けは、睡眠中に行われる[16]
成長
寝る子は育つというように、深い眠りの最中に最も成長ホルモンが放出される[17][18]
家族などでどのように寝るかについて
就寝形態co-sleeping添い寝
睡眠時随伴症
睡眠時にあらわれる様々な症状を総称して睡眠時随伴症(英語版)という[19][20]。例として、いびき歯ぎしり(ブラキシズム)夜尿症睡眠時遊行症夜驚症、錯乱性覚醒(英語版)、寝言、睡眠関連うなり声(英語版)(カタスレニア)、レム睡眠行動障害などである[20]
睡眠時の行動など
寝癖、寝相(英語版)(寝返り)、夜間陰茎勃起現象
起床後
起床後には、睡眠慣性(英語版)(ねぼけ) と呼ばれる脳が活性化していない眠気を伴った状態になる場合がある。
ヒトの睡眠
睡眠のタイプ夜の8時間、穏やかに眠る人の音ヒプノグラム(Hypnogramm)の一例ヒプノグラムの一例。フランス語で表記。赤い部分はSommeil paradoxal(逆説睡眠)。破線で「Micro-reveil」とあるのは短時間の覚醒のこと。

20世紀になり、ヒトの睡眠は、脳波と眼球運動のパターンで分類できることが知られるようになった。急速眼球運動 (Rapid Eye Movement) を伴う睡眠をレム睡眠 (Rapid eye movement sleep、REM sleep)、ステージI - IVのように急速眼球運動を伴わない睡眠をまとめてノンレム睡眠 (Non-rapid eye movement sleep、Non-REM sleep)と呼ぶ[8]
ステージI(N1)
傾眠状態。脳波上、覚醒時にみられたα波が減少し、低振幅の電位が見られる。
ステージII(N2)
脳波上、睡眠紡錘 (sleep spindle) が見られる。
ステージIII(N3)
低周波δ波が増える(20% - 50%)。
ステージIV(N4)
δ波が50%以上。
レム睡眠(REM)


急速眼球運動 (Rapid Eye Movement) の見られるレム睡眠の脳波は、比較的早いθ波が主体となる。この期間に覚醒した場合、の内容を覚えていることが多い。レム睡眠中の脳活動は覚醒時と似ており、エネルギー消費率も覚醒時とほぼ同等である。急速眼球運動だけが起こるのは、目筋以外を制御する運動ニューロンの働きが抑制されているためである。全睡眠の20-25%を占める[8]

成人はステージI - REMの間を睡眠中反復し、周期は90-110分程度である[8]

入眠やステージI - IVとレム睡眠間の移行を司る特別なニューロン群が存在する。入眠時には前脳基部(腹外側視索前野)に存在する入眠ニューロンが活性化する。レム睡眠移行時には脳幹に位置するコリン作動性のレム入眠ニューロンが活動する。覚醒状態では脳内の各ニューロンは独立して活動しているが、ステージI - IVでは隣接するニューロンが低周波で同期して活動する。
睡眠のTwo Process model

睡眠のホメオスタシスはTwo Process modelというもので説明される[21]。そのComponentはProcess SとProcess Cで、前者は睡眠要求量を表し、後者は概日リズムを表す。睡眠要求量がある上の閾値に達すると眠くなり、寝ているうちにProcess Sは下がるがこれが下の閾値に達すると起きるというものである。2つの閾値をコントロールするのはProcess Cということが知られている。Cに関する研究は進んでいるが、何が睡眠要求量の実態になっているかは定説はない。最も安直に考えれば、SIS(sleep inducing substance)というものの濃度がその実態として挙げられ、探索がなされてきたが決定打はない。ただ、最近は物質の「量」というよりも「質」、つまりタンパク質の修飾状態などが活動により変化しそれがProcess Sなのではないかとうことが提唱されている[22]
生涯における睡眠の変化

新生児では断続的に1日あたり16時間の睡眠をとり、2歳児で9 - 12時間、成人は(健康な人では)一晩で6 - 9時間の睡眠を必要とする[4]。パターンの推移としては、乳幼児期における短時間の睡眠を多数回とるというパターンから、成人になるにつれ一度にまとまった睡眠をとるというパターンへと推移していく。

高齢になると、昼間に何度も居眠りし夜間は数時間しか眠らないというパターンになる[4]。睡眠の深さも浅くなり、ノンレム睡眠が完全に消失していることもある[8]。高齢者が睡眠不足や不眠で悩まされやすくなるのはこのためである。ただし、個人差があるため必ずしも全ての高齢者で睡眠が短くなっているわけではない。
環境からの影響「概日リズム」および「騒音が健康へ与える影響(英語版)」も参照

人間が加齢とともに早寝早起きの就寝スタイルに移行するのは、概日リズムの位相の前進による影響という説がある[23]。しかし、生物時計の研究では、生物時計を司る神経細胞は加齢とともに減少する傾向にあるものの、生物時計の概日周期は加齢による影響はほとんど見られないという[23]。竹村尊生は人間の就眠慣習が前進する理由として、本来、睡眠の概日リズムと深部体温の概日リズムには一定の相関があるが、昼夜変化や時刻といったフリーラン・リズムに従う生活によって生理的相関が失われ、加齢によって位相が前進しやすい深部体温の概日リズムに従って就眠するようになる、と述べている[23]
睡眠と生体内物質

覚醒を維持する神経伝達物質には、ノルアドレナリンセロトニンヒスタミンアセチルコリンオレキシンなどがあるが、睡眠中はこれらの神経伝達物質を産生する神経細胞が抑制されている。その抑制には腹背側視索前野に存在するGABA作動精神系が関与しているとされる[要出典]。アセチルコリン作動性神経の一部はレム睡眠の生成にも関与している。

カルシウムイオンが細胞内に取り込まれることで脳が眠りにつくという研究結果もある[24]。理化学研究所・東京大学の上田泰己らは、CaMKIIαとCaMKIIβが睡眠促進リン酸化酵素であることを初めて同定し、睡眠のリン酸化仮説を提唱した[25][26][27][28][29]

2018年6月13日筑波大学柳沢正史教授らのチームの研究により、マウスの実験で脳内の80種類のタンパク質の働きが活性化することで眠気が誘発されることが発見されたと『ネイチャー』電子版に発表された。同チームは特定のタンパク質が睡眠を促すことで神経を休息させ、機能の回復につながるという見方を示し、睡眠障害の治療法開発につながる可能性を指摘した[30][31]
睡眠時間の長短「ロングスリーパー」および「ショートスリーパー」も参照

全米睡眠財団による推奨睡眠時間年齢必要時間
新生児 (0?3 ヶ月)14 - 17 時間[32]
乳児 (4?11 ヶ月)12 - 15 時間[32]
幼児 (1?2 歳)11 - 14 時間[32]
就学前 (3?5 歳)10 - 13 時間[32]
学童 (6?13 歳)9 - 11 時間[32]
青年 (14?17 歳)8 - 10 時間[32][33]
若年者 (18 - 25 歳)、中年者 (26 - 64 歳)7 - 9 時間[32]
老人 (65 歳以上)7 - 8 時間[32][34]

ヒトに必要な睡眠量には個体差があり、7 - 8時間の場合が多い。カリフォルニア大学サンディエゴ校のDaniel Kripkeらの『Sleep medicine』掲載論文[35]名古屋大学医学部大学院玉腰暁子の研究[36][37]によれば、1日の睡眠時間が7時間の人は他の人たちに比べて死亡リスクが低い。


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