睡眠薬
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睡眠薬(すいみんやく、英語: Hypnotic、Soporific、Sleeping pill)とは、不眠症睡眠が必要な状態に用いる薬物である。睡眠時の緊張や不安を取り除き、寝つきをよくするなどの作用がある。眠剤、睡眠導入剤、催眠薬とも呼ばれる。多くは国際条約上、乱用の危険性のある薬物に該当する。ハーバード大学医学部によると、睡眠薬や市販の睡眠改善食品を使用する前に、医師に相談する必要がある[1]

これらの薬による「睡眠」とは比喩であり、麻酔として使用された場合に意識消失を生じさせていることであり、通常の睡眠段階や自然な周期的な状態ではない。患者はまれにしか、麻酔から回復し新たな活力とともに気分がすっきりすることを感じない。この種類の薬には一般的に抗不安作用から意識消失までの用量依存的な効果があり、鎮静/催眠薬と称される[2]

化学構造により、ベンゾジアゼピン系非ベンゾジアゼピン系オレキシン受容体拮抗薬、バルビツール酸系抗ヒスタミン薬などに分類される。これはオレキシン受容体拮抗薬と抗ヒスタミン薬を除き、GABAA受容体に作用し、また薬剤間で効果を高めあう相加作用がある。作用時間により、超短時間作用型、短時間作用型、中時間作用型、長時間作用型に分類される。ほかの種類の睡眠薬にメラトニン受容体に作用する、メラトニンホルモンとメラトニン受容体作動薬とがある。バルビツール酸系の薬は治療指数が低く、現在では過量服薬の危険性を考慮すると使用は推奨されない[3]。バルビツール酸系の危険性のため、1960年代にはベンゾジアゼピン系が主流となったが、これにも安全上の懸念があり、1980年代に非ベンゾジアゼピン系が登場した。この非ベンゾジアゼピン系もベンゾジアゼピン系と大きな差が見られず、現在では薬物療法以外の方法に注目される[4]

副作用として、GABA受容体に作用する睡眠薬には依存形成のほか、服用後の記憶がない健忘(記憶障害)、記憶がない状態での車の運転などの夢遊行動、起床後の眠気、悪夢などがある。まれに一過性の健忘、脱抑制、自動行動などが組み合わさった奇異反応を生じる。健忘状態で自殺企図を行う事例があり[5]、助かった場合にしかそれが奇異反応であったことが判別しにくい。バルビツール酸系[6]、ベンゾジアゼピン系[7][8]、非ベンゾジアゼピン系とメラトニン作動薬[9]の使用は抑うつ症状を増加させる。1996年には、世界保健機関はベンゾジアゼピン系の「合理的な利用」は30日までであるとしている[10]。また自殺の危険性を増加させるため慎重な監視と、自殺の恐れ、物質依存、鬱病、不安では特別な注意が必要であり、処方するとしても数日から数週間としている[11]。しかし、長期間にわたる処方が行われる場合がある。睡眠薬の長期的な使用は死亡リスクを高めることが実証されている[12][13][14][15]。男女ともに、睡眠薬の使用が自殺の増加に結びついていることが明らかになっている[13]。また他害行為の危険性を高める薬剤がある[16]

睡眠薬の多くは規制対象物質である。1971年より向精神薬に関する条約が公布され、バルビツール酸系とベンゾジアゼピン系の多くは、乱用の危険性があるために、国際条約上の付表(スケジュール)IIIおよびIVに指定され流通が制限される。アメリカでは規制物質法にて同様に付表にて定められている。日本においても、国際条約に批准しているため麻薬及び向精神薬取締法において、第2種向精神薬にはバルビツール酸系のアモバルビタールペントバルビタール、ベンゾジアゼピン系のフルニトラゼパム、第3種向精神薬にはほかのベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系の多くが定められている[17]。第2種向精神薬は付表III、第3種向精神薬に付表IVに相当する。2010年に国際麻薬統制委員会は、日本でのベンゾジアゼピン系の消費量の多さの原因に、医師による不適切な処方があるとしている[18]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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