真珠夫人
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真珠夫人
作者
菊池寛
日本
言語日本語
ジャンル長編小説
発表形態新聞連載
初出情報
初出『大阪毎日新聞』・『東京日日新聞1920年6月9日号-12月22日号(全196回)
刊本情報
出版元新潮社
出版年月日1920年11月(前篇)
1921年1月(後篇)
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『真珠夫人』(しんじゅふじん)は、菊池寛長編小説1920年(大正9年)6月9日から12月22日まで『大阪毎日新聞』『東京日日新聞』に同時連載された[1][2]。菊池にとっての初めての新聞小説であり、初めて試みた通俗小説でもある[1][2]。発表当時から2000年代に至るまで、数度にわたり映画テレビドラマ化されている。

日本の通俗小説に新風を吹きこんだ『真珠夫人』の大ヒットは、菊池の作家活動の大転機となっただけでなく、当時の文壇や文学者たちの生活に画期的な変革をもたらした[1][3]
概説

菊池寛にとって初の本格的な通俗小説であり、その人気は新聞の読者層を変え、のちの婦人雑誌ブームに影響を与えたという。男を弄ぶ妖婦でありながら、義理の娘を妹のように愛する優しさを持つ処女の主人公・瑠璃子は読者の心を掴んだ[4]。瑠璃子の人物造型は、当時の道徳観に染まらない「新しい女」としては設定の不徹底や矛盾もあるが、作者である菊池の「道徳と節度」が見られると川端康成は評している[3]

『真珠夫人』は、まだ作品が新聞連載中に河合武雄一座によって大阪浪速座で舞台化されたことも、人気に拍車をかけた要因の一つでもあった[5]。この舞台では、『大阪毎日新聞』の読者5,000名が抽選で無料招待される企画が前宣伝として大々的に報じられて、劇場の本花道を取り払うほどの大勢の観客を収容して成功を収めた[5]
あらすじ

渥美信一郎は、湯河原で療養中の新妻の見舞いに行く途中、自動車事故に遭う。信一郎は助かるが、相乗りしていた青年青木淳は瀕死の状態となり、豪華な腕時計を「たたき返してくれ」、「ノート」、「瑠璃子」と言い残してノートを託し絶命する。青木の葬儀で見聞きした情報を頼りに、信一郎は妖艶な美女で未亡人の壮田瑠璃子を訪ねる。瑠璃子は腕時計を見て動揺した様子を見せるが、それをごまかして腕時計を預かり、信一郎を音楽会に誘う。青木のノートには愛の印としてもらった腕時計が他の男にも贈られているのを知って自殺を決意したことが書かれていた。

数年前。
貿易商として財を成した壮田勝平は自宅で催した園遊会で、子爵の息子杉野直也と男爵の娘・唐沢瑠璃子から成金ぶりを侮辱され激怒し、奸計を巡らす。瑠璃子の父で貴族院議員の唐沢光徳男爵の債権を全て買い取りさらに弱みを握り、瑠璃子に結婚を迫る。自殺をはかった父親に瑠璃子は「ユージットになろうと思う」と押しとどめ、恋人の直也には復讐のため結婚しても貞操を守るという手紙を出す。壮田と結婚した瑠璃子は、父の見舞いを理由に実家にとどまったり、壮田には「お父様になって」とねだったりして体を許さない。壮田の先妻との息子で白痴の勝彦も手なずけ、寝室の見張りをさせた。壮田は瑠璃子を葉山の別荘に連れ出し、嵐の夜に関係を結ぼうとするが、瑠璃子を追ってきた勝彦が部屋に飛び込んできて父親に襲いかかった。壮田は息子との格闘で転倒し打ちどころが悪く心臓麻痺を起して、我が子の勝彦と美奈子の将来を瑠璃子に託し息をひきとる。壮田の急死の罪悪感と豪奢な生活は瑠璃子を妖婦へと変えていた。

現在。
信一郎は瑠璃子と音楽会に出席。帰りの自動車の中で瑠璃子はメリメの「カルメン」を引き合いに男性が浮気するのに比べて女性が心変わりするのを非難する風潮に対する憤りを語る。引き込まれた信一郎は誘われるがまま、次の日曜壮田邸を訪れる。そこは才気ある若い男性たちが居並ぶ瑠璃子のサロンだった。不愉快になった信一郎は退出するが庭園で青木の弟・稔を見かけ瑠璃子への不信感をつのらせる。帰宅した信一郎の家には瑠璃子からの迎えの自動車が止まっていた。壮田邸に戻った信一郎は誘惑する瑠璃子に男性への態度を非難、さらに青木のノートを突き出すが、逆に瑠璃子は男性が女性を弄ぶことが許され、女性が同じことをすると「妖婦」「毒婦」と非難されるのは男性のわがままだと激しく反発。信一郎は瑠璃子の言葉に心打たれながらも青木の弟だけは除外するよう頼むが瑠璃子は拒絶する。

壮田美奈子は、父親が亡くなったあと瑠璃子を姉のように慕い、瑠璃子も美奈子を可愛がっていた。瑠璃子は美奈子を娘らしく育てるためサロンには近づけず、自分の行いを見せないようにしていた。19歳になった美奈子は両親の墓参りで見かけた学生に心惹かれるが、彼が瑠璃子のサロンに通っていると知り動揺する。瑠璃子は美奈子を夏の箱根旅行に誘う。当日、2人の前に付き添いとして現れたのは美奈子が心惹かれた学生青木稔だった。3人は箱根に逗留するが、ある日の夕方美奈子は稔に誘われ2人きりで散歩に出かける。稔に結婚について訊かれた美奈子は嬉しい気持ちになるが、美奈子が結婚するまで瑠璃子は再婚しないという噂を気にしているとわかり落胆する。後日、美奈子は稔が瑠璃子に思いをぶつけ求婚しているところを見てしまう。瑠璃子は美奈子が結婚するまではとはぐらかし、明後日返事すると約束。

約束の日、ホテルを出た3人は丸縁眼鏡の男とすれ違う。瑠璃子は美奈子の前で稔の求婚を断る。稔は逆上して瑠璃子を罵りその場を去る。瑠璃子は自分の行いで美奈子の初恋を傷つけ、かつての自分と同じ思いをさせてしまったことを美奈子に謝り泣き出す。美奈子も瑠璃子の心遣いに感動し抱き合う。ホテルに戻った稔は眼鏡の男、信一郎に声をかけられ、兄のノートを見せられ瑠璃子に近づくなと忠告される。自分と兄が弄ばれたことを知った稔は、その夜瑠璃子の寝室に忍び込み彼女をナイフで刺し逃走し自らも湖に身を投じて自殺する。危篤状態で意識朦朧となった瑠璃子は直也の名を呼ぶ。帰国していた直也がホテルにかけつけると、瑠璃子は彼に美奈子を託し息を引き取る。その後美奈子は瑠璃子の肌襦袢に縫い付けられた直也の写真を発見。瑠璃子は男を弄びながらも処女のまま初恋を真珠のように守り続けていたと知る。

「真珠夫人」と題された美しい肖像画が二科展で絶賛される。それは瑠璃子の兄の光一による妹への手向けの絵であった。
登場人物
壮田瑠璃子(旧姓:唐沢)
華族の唐沢光徳の娘。母を亡くし兄が家を出たので父と二人暮らし。杉野直也とは相思相愛の仲だったが、壮田の策略で引き裂かれる。壮田亡きあとは豊富な財力と美貌で男を弄ぶ妖婦として自宅をサロンにし、女王のようにふるまっている。しかし美奈子の初恋の相手が自分が弄んだ青木稔と気づいてからは自らの行いを激しく後悔する。
壮田勝平
身分はないが、貿易商として成功、上流階級ともつきあうようになったいわゆる成金。直也と瑠璃子を憎み、瑠璃子と結婚するが、思い通りにならない瑠璃子に振り回される。葉山の別荘で卒倒、我が子の行く末を瑠璃子に託して死去。
杉野直也
華族の杉野子爵の息子。壮田のような成金を軽蔑し、園遊会で口論となる。瑠璃子との仲を引き裂かれると壮田邸に乗り込み発砲事件をおこすが、父親の嘆願で告訴を免れ、ボルネオに渡った。
唐沢光徳
瑠璃子の父。華族で貴族院議員を務め藩閥政治と戦っているが、このためあちこちに負債がある[注 1]。壮田の策略で金策に追われ、知人から預かった掛け軸を売り払ってしまうがこれも壮田の罠だったことを知り自殺をはかるが、瑠璃子に止められる。勝平と死別後の瑠璃子の行状については快く思っておらず、彼女の死の床に駆け付けるまでは疎遠となっていた。
唐沢光一
瑠璃子の兄。画家を目指していたが光徳に反対され勘当される。
壮田勝彦
壮田の長男で美奈子の兄。白痴であるが瑠璃子を「姉さん」と慕う。瑠璃子の頼みで毎夜寝室の前で番をする。父と瑠璃子が葉山へ行くと後を追い、夜中に別荘に侵入。勝平の死後は葉山に幽閉される。
壮田美奈子
壮田の娘で勝彦の妹。清純な少女で瑠璃子を姉のように慕う。瑠璃子の行いを知りショックを受けるが、自分への心遣いと父の罪を思い、瑠璃子をよりいっそう慕う。
青木淳
一高出身の大学生。瑠璃子に弄ばれ、自殺しようとさまよっていたところ自動車事故で死ぬ。
青木稔
淳の弟。瑠璃子を恋い慕っていたが、求婚を断られ、さらに兄も同じ目にあっていたと知り激怒。瑠璃子をナイフで刺したあと芦ノ湖で自殺した。
渥美信一郎
この物語の狂言回し。偶然瑠璃子の存在を知りその行いを止めようとするが、男と同じことを女が許されないのはおかしいという彼女の主張に同調する。せめて青木稔だけでも助けようとした行動が悲劇を生む。一高出身。
舞台

河合武雄一座公演

1920年11月6日 ? 28日 名古屋、大阪浪速座

脚本:川村花菱(7幕10場)



伊井蓉峰喜多村緑郎一座公演

1920年11月11日 ? 歌舞伎座本郷座常磐座


映画 (国活)

原作小説連載当時の1920年、いち早く国際活映が同社の「角筈撮影所」で撮影、同年11月28日浅草公園六区大勝館ほかで公開された無声映画熊谷武雄の出演以外の詳細は不明。
映画 (松竹キネマ)

1927年松竹キネマ制作の無声映画。
スタッフ

監督 -
池田義信

脚本 - 村上徳三郎

キャスト

栗島すみ子

鈴木伝明

藤野秀夫

武田春郎


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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