真性多血症
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真性多血症(しんせいたけつしょう:英名 Polycythemia vera)とは骨髄増殖性腫瘍(MPN)のひとつで、造血幹細胞の後天的な遺伝子異常がもたらす増殖によって血液中の赤血球数および循環血液量の絶対的増加をきたす疾患であり、また白血球血小板も増加し全血球が増加していることが多い。PVと略称され、「赤血病」とも通称される。vera はラテン語 verus = trueの女性単数主格
概要

絶対赤血球量の著明な増加が起こり、また白血球や血小板も増加していることが多い疾患である[註 1]。年間発症率は10万人あたり0.2-2人程度の稀な疾患であり、患者の多くは中高年男性であるが、少ないながらも若年者や女性も発症する。赤血球が増える原因は従来は不明であったが、2005年にJAK2キナーゼに関わる遺伝子の変異が発見され、2011年現在ではJAK2キナーゼに関わる遺伝子の変異によるエリスロポエチン受容体の異常が原因とされている。受容体の異常が原因であるために、他の多血症とは違い、赤血球を増やす因子であるエリスロポエチンの血中濃度は逆に低値であることが多い。血球が増え血液の粘度が高まることで様々な症状が現れ、無治療で放っておくと診断後の平均寿命は18ヶ月程度であるが、瀉血を中心にして抗がん剤や抗血小板剤を適宜使用する治療によって、多くの患者では通常の生活を送り永らえることができる疾患である。コントロールは比較的容易な疾患であるが、根本的な治療法は2010年時点ではない。
疫学

発症率は民族や年齢・性別で大きく異なり、また資料によっても大きくことなるが、欧米では人口100万人あたり5-26人、日本では100万人あたり2-20人程度[註 2]の発症率と考えられている[1][2]。一般にはアジア人に少なく欧米人に多いといわれるが、日本語のある内科学の教科書では日本人は100万人に2人、オーストラリアでは100万人に13人、欧米では100万人に8-10人としている[3]。男性に多い疾患[註 3]であり、また中高年に多く[註 4]診断時中央値は約60歳[4]であるが、男女年齢を問わず発症は起こりえる[4][5]
症状と血液学的所見長年にわたって真性多血症を患った77歳女性が先端紅痛症(肢端紅痛症)を合併した例。先端紅痛症は灼熱感を伴った指先など先端部皮膚の痛み(焼けるような痛み)、血管拡張による発赤、などがあり、特に暖かい環境で悪化する。手足の腫れも伴い介護無しでは歩くこともできないこの例はかなり極端な例であるが、真性多血症患者では入浴で体を暖めるとかゆみが出るのは珍しいことではない。真性多血症患者の血液。赤血球の大きさ・形が様々である。また、健康人の血液には現れることのない赤芽球が出現している。5つある有核細胞のうち核がいびつな細胞2つは正常な白血球。核が丸い細胞3つが赤芽球であり、健康人の血液には赤芽球は現れることはない。健康人の血液の光学顕微鏡写真、なお、上の写真との色の違いや拡大率の違いは撮影上の都合であり、実際の色は健康人と真性多血症患者の血液で違うわけではない。健康人と真性多血症患者の赤血球形状の違いを示すために例示した。

真性多血症では無症状のこともあるが、各血球が増え血液が濃くなり血液粘度が上昇して流れにくくなるため、中枢神経系の血液循環が障害されることで、頭痛、めまい、ほてり、のぼせ、耳鳴りの症状が起きることが多い。入浴後の全身のかゆみがよく見られ、血液の絶対量が増えるために赤ら顔や高血圧も一つの特徴である。血栓症や、逆に出血などの血管イベントが起こりやすく、脳梗塞心筋梗塞が起きると重大なことになりかねない[6]。また、自覚はしないことが多いが肝脾腫、特に脾腫は多い[7]。極端な例では2次性の尖端紅痛症を伴うこともある[8]

真性多血症は正確には循環赤血球量(RCM:Red cell mass)の絶対量が増加する疾患であり、National Polycythemia Vera Study Groupの診断基準も循環赤血球量で決められていたが、循環赤血球量を正確に測定するのは容易ではなく[註 5]、そのためRCMの代替として血液単位量あたりのHb量を用いても十分に相関することが分かっているのでWHO基準では男性でHb18.5g/dL、女性で16.5g/dL以上、あるいは各人の基礎値から2g/dL以上増加して、Hb17g/dL、女性で15g/dL以上になればRCMの増加とみなしてよいとされている[9]

血液では赤血球数の絶対的な増加に加え、幼若な白血球や赤芽球の出現が見られ、大小、楕円、涙滴状などの形態異常の赤血球も見られるようになる[10]。赤血球は正球性正色素性であるが、出血があったり、貯蔵鉄を使い果たすと小球性低色素性になる[註 6][11]

骨髄では三系統すべてでの過形成であり、診断時に線維化していることは稀である[10]。骨髄では赤血球系の著明な増加に加え、巨核球の巨大化、多分葉化、増加と集中などの異常が見られる[12]。線維化すると特発性骨髄線維症と同様の所見が見られる[12]
治療

真性多血症の治療の目的は第一にはヘマトクリット(Ht、赤血球容積率)を下げて血栓リスクを減らすことであり、赤血球量の増加や血液粘度上昇に伴う諸症状を緩和することである。血液粘度はHtが約50%あたりから急激に増すため[13]、Htを45%以下にコントロールすることが目標とされる[14]

そのために治療の第一選択は瀉血であり、状況に応じて化学療法(主に抗がん剤)や抗血小板剤も使われる[14]


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