相殺
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この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。

相殺(そうさい)とは、相手に対して同種の債権をもっている場合に、双方の債権を対当額だけ消滅させる行為。日本法では、民法第505条以下に規定がある。債権同士が消滅するとも債務同士が消滅するともいえるが、債権と債務は表裏の関係にあり、どちらで考えても結果的には差はない。

民法について以下では、条数のみ記載する。
目次

1 概説

2 相殺の要件

2.1 相殺の積極的要件(相殺適状)

2.2 相殺の消極的要件(相殺禁止事由)


3 相殺の方法

4 相殺の効果

4.1 一般的効果

4.2 連帯債務及び保証

4.3 債権譲渡と債務者からの相殺の関係


5 相殺と当事者の合意

6 民事訴訟における相殺

7 脚注

概説

例えば以下のような場面を想定する。AはBからテレビを10万円で買った。このとき、AはBに対して代金10万円を支払うべき債務を負ったことになる。一方でBは以前Aからコンピューターを15万円で購入していたが、代金はまだ支払っていなかった。このとき、BはAに対して代金15万円を支払うべき債務を負っている。つまり、AとBはお互いに対して代金支払債務を負っている。ここで実際に金銭を支払ってもよいが、それは面倒なだけである。そこでお互いの債務を対当額で消滅させる、つまり相殺することで決済を簡略化できる。つまりBは自己の債務(15万円)とAの債務(10万円)を差し引きして、残った5万円だけAに支払えばよい。もしも双方が負う債務の金額が同額であれば、相殺の時点で互いの債務が消滅することになる。以上が典型的な相殺の例である。

なお、相殺する側の債権を自働債権(じどうさいけん)、相殺される側の債権を受動債権(じゅどうさいけん)という。上述の例でBから相殺を主張した場合、Bの債権(10万円、Aから見れば債務)が自動債権であり、Aの債権(15万円、Bから見れば債務)が受動債権となる。

相殺は互いの債権を弁済する手間を省き、決済を簡略化する。また、両当事者のうち資力のある債権者だけが支払いを余儀なくされる不公平を解消し、それがひいては相殺の担保的機能をもたらす。相殺の担保的機能とは、相殺を弁済を確保する手段として利用することである。相殺をうまく駆使することにより、土地などの物的担保や何らかの先取特権をもたない一般の債権者であっても、他の債権者に先駆けて弁済を受けることができる(事実上の優先弁済となる)。

相殺の担保的機能を利用した典型例として、銀行による預金担保貸付がある。銀行が預金者に対して貸付をする際にその預金者が有する預金債権について債権質(権利質の一種で、債権について設定される質権)を設定し、かつ返済が不可能となった場合には相殺適状を生じさせ(期限の利益を失わせて直ちに弁済期を到来させる、など)、預金債権と貸付金を直ちに相殺する相殺予約がされるものである。

この相殺の担保的機能は債権回収の方法として応用される。多重債務に陥っている債務者に対する債権を債権譲渡によって取得し、これを自働債権としてその債務者が有する債権と相殺することで事実上の優先弁済が受けられるのである。
相殺の要件
相殺の積極的要件(相殺適状)

相殺ができるために必要とされる一般的な要件を相殺適状(そうさいてきじょう)といい、相殺されるべき両債権が以下のすべてを満たしている必要がある。

当事者双方が同種の債権を対立させていること(505条
1項本文)

双方の債務が弁済期にあること(第505条1項本文)

ただし、受働債権の期限の利益を放棄できる(136条2項本文)ため、自働債権が弁済期にあれば相殺が可能である。受働債権に弁済期の定めがない場合も同様である。


債務が相殺できるものであること(505条1項但書)

相殺の消極的要件(相殺禁止事由)

相殺適状を満たしていても、以下の場合には相殺をすることが許されない。これを相殺禁止事由という。

当事者間に相殺を禁止または制限する合意がある場合(505条
2項)

相殺禁止特約を付けた場合など、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には相殺できない。2017年の改正前の民法505条2項では「反対の意思表示」となっていたが、2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で具体化された[1]

このような特約は善意無重過失の第三者には対抗できない(505条2項)。2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で善意から善意無重過失に変更された[1]。重大な過失なく特約を知らずに債権を譲り受けた者は相殺できる。


法律上、相殺が禁止されている場合

不法行為債権等を受働債権とする相殺

悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務(509条1号)

2017年の改正前の民法509条は「債務が不法行為によって生じたとき」と定めていたが、その趣旨は現実の給付による被害者の救済と不法行為の誘発の防止であることから、2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)では適用範囲を明確にするため、同条1号として「悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」を受働債権とする相殺の禁止が定められた[1]。本条1号の「悪意」とは積極的に相手を害する意思があった場合をいう[2]

不法行為の加害者(不法行為による損害賠償債権の債務者)の側から相殺を主張することは許されない。一方、不法行為の被害者(不法行為による損害賠償債権の債権者)から相殺を主張することはできる(最判昭42.11.30)。


人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(509条2号)

2017年の改正前の民法509条は「債務が不法行為によって生じたとき」と定めていたが、2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で被害者救済のためには、生命・身体の損害を理由とする損害賠償請求権の場合は、不法行為に基づく損害賠償債権だけでなく債務不履行に基づく損害賠償債権(医療過誤や安全配慮義務違反など)についても相殺禁止の対象とすべきとされた[1][2]


相殺禁止の除外

以上の場合であっても、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたものであるときは相殺できる(509条ただし書)。


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