相対年代
[Wikipedia|▼Menu]

相対年代(そうたいねんだい、relative age)とは、考古学地質学において、AはBよりも古いというように相対的な新旧関係で表記される年代[1]。「絶対年代」(地質学では「数値年代」「放射年代」)の対語。
さまざまな「年代」

考古学や地質学で一般的に利用される年代には以下のようなものがある。
相対年代 : 相互の新旧関係

絶対年代/数値年代 : 数字として出される年代

理化学的年代 : 自然科学的方法による年代

暦年代 : 究極に目指すべき年代

絶対年代とは、「他とくらべられない」「他とくらべる必要がない」という意味での「絶対」である。考古学における「旧石器時代」、「弥生時代」など、地質学における「白亜紀」「第四紀」などのような時代区分は元来、標識となる遺物・遺物群あるいは化石・化石群に由来する相対的な年代(相対年代)であるが、絶対年代では、このような標識を必要とせず、それだけで年代をあらわすことができる。
地質学における相対年代

地質学における相対年代は、主に層序化石の変遷によって定められる[注釈 1]

層序学においては、断層褶曲などによって地層の逆転が起こっていなければ、万有引力の法則にしたがって下にあるものほど古く、上にあるものほど新しいという地層累重の法則が利用される。つまり下から上にむかって堆積していくと考えるわけである。また、離れた地域間で異なる岩相をもつ地層の堆積年代を判断する手段として、示準化石と呼ばれる特定の化石を指標に用いることがあり、これは地層同定の法則をその根拠としている。
考古学における相対年代

考古学における相対年代は、考古資料遺物遺構遺跡)とくに遺物の形態等の諸特徴(型式)から型式学的研究法によってその変遷の状況をつかみ、層位学的研究法によって新旧関係を検証していくもので、両者を総合して相互の新旧を決めるものである[2]。そのため、考古学研究および発掘調査が開始された初期の段階では、日本では貝塚、西アジアではテル遺丘)、ヨーロッパでは洞窟遺跡など、多くの層が積み重なる遺跡が好んで調査された。

型式学的研究法は、同じ時代の同集団に属する人間がつくった人工物は、多少の変異はあるとしても互いに類似した共通の要素をもっている。したがって、適切な基準を選びながら遺物や遺構の分類を積み重ねてゆくと、最終的には同時代の同一地域でつくられたモノの一群を他から区別することが可能となる[2]。これら一群を他から分かつところの特徴が「型式」であり、新しい型式は古い型式をもとにして生み出されるので、これを新旧関係の検討に応用することができる。ただし、これには層位学的研究法などを併用して検証していく必要がある[2]京都市内の発掘調査風景 江戸時代の層の下に豊臣秀吉時代の盛土層、さらに、その下層には室町時代平安時代古墳時代弥生時代などの文化層がつづいている

層位学的研究法においては、地層(日本考古学では「土層」と言う)が撹乱されていない限り、地質学における地層累重の法則が応用されるが、人為的な遺構廃棄の痕跡である「切り合い関係」が確認されれば、それも新旧の判断に用いることができる[2]。また、同じ層に包含される遺物であっても年代幅がありうるので注意が必要であり、その点、短期間に埋め戻されたと推定されるゴミ捨て穴や追葬のないには、同時に埋められた多様な遺物がふくまれるので、相対年代決定における好資料となる[2]

今日では、広域テフラ(広域降下火山灰)を利用して広い地域にわたる相対年代を割り出すことが可能となった。降下火山灰の中にはその同定のカギとなる特殊な物質を含むものがあり,その同定を通して日本列島の広い部分を覆う後期旧石器時代姶良Tn火山灰(ATテフラ)や縄文時代鬼界アカホヤ火山灰(K-Ahテフラ)が相対年代を決めていく際の標準になることが判明した。また、より狭い地域に降下する火山灰の同定も飛躍的に進んだため、火山灰相互の新旧関係も精緻化している。これにより、遺構の内外で降下火山灰が検出された場合、その検出地点や検出状況によって、遺構・遺跡と火山灰降下時期との新旧関係、さらに遺構相互・遺跡相互の新旧関係を決めていくことができる。

相対年代は考古学的な調査や研究の基礎になるものではあるが、あくまでも相互の新旧関係を決めるだけにとどまるので、文字資料のある時代(歴史時代)においては、それを絶対年代、さらには暦年代(実年代)に近づける努力が必要である。火山灰のなかには、北日本一帯に降下した十和田a火山灰(To-aテフラ)のように、『扶桑略記』に「延喜15年」(915年)の記事として「出羽国言上雨灰降高二寸…」という記載があり、暦年代がはっきりわかっているものもある[注釈 2]

このようなデータを集積し、それまで明らかになっていた相対年代とも比較照合することによって、さらに詳細な年代の解明へとつなげることができる。
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 数値年代は、放射年代測定によって求められるが、測定に用いた試料や測定方法により、得た値の吟味が必要である。そのため、「絶対年代」の用語は現在用いられず、「放射年代」ないし「数値年代」の語が用いられる
^ ただし、これについては暦年代として採用してよいか等さまざまな異論もある。

出典^ 大塚・戸沢(1996)p.190
^ a b c d e 横山(1988)pp.375-378

参考文献

横山浩一 著「考古学」、平凡社 編『世界大百科事典9 ケ-コウヒ』平凡社、1988年3月。.mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}ISBN 4-582-02200-6。 

大塚, 初重戸沢, 充則 編「相対年代」『最新日本考古学用語辞典』柏書房、1996年6月。ISBN 4-7601-1302-9。 

安藤広道 著「年代論的研究と理化学的年代測定法」、安蒜政雄 編『考古学キーワード』有斐閣有斐閣双書〉、1997年11月。ISBN 4-641-05860-1。 

関連項目

絶対年代

理化学的年代

暦年代










時間
主要概念

過去

現在

未来

未来学

永遠

単位と規格

クロノメトリー(英語版)

UTC

UT

TAI

ΔT

時間の単位















十年紀

世紀

ミレニアム

太陽年

恒星年

単位系

標準時

午前と午後

24時制

夏時間

太陽時

恒星時

時刻系

地球時

メートル時間

十進化時間

十六進化時間



グレゴリオ暦

ユリウス暦

ユダヤ暦

ヒジュラ暦

太陰暦

太陰太陽暦

ヒジュラ太陽暦

マヤ暦



閏秒

閏年


時計

時計学

時計の歴史

分類

原子時計

クロノメーター

日時計

天文時計

腕時計

水時計


編年 ・ 歴史

天文年代学

ビッグヒストリー

紀年法

年代記

地質学的時間(英語版)

時代区分

元号

即位紀元

年表

宗教 ・ 神話

ドリームタイム

カーラ(英語版)

カーラチャクラ

預言

時と運命の神(英語版)

時の車輪(英語版)

不老不死

永遠の若さ

哲学

A系列とB系列(英語版)

時間のB理論(英語版)

因果性

持続

全体主義(英語版)

永劫回帰

永遠主義(英語版)

事象(英語版)

部分主義(英語版)

現在主義(英語版)

時間的有限論(英語版)

時間的部分(英語版)

時間の非実在証明(英語版)

人間の経験と
時間の利用

会計期間

時間学(英語版)

会計年度

世代時間(英語版)

心的時間測定(英語版)

先延ばし

時間厳守

時制データベース(英語版)

期間

時間規律(英語版)

時間管理(英語版)

時間知覚

見かけの現在(英語版)

時間記録ソフトウェア(英語版)

生活時間統計(英語版)

時間通貨(英語版)

お金の時間的価値(英語版)

タイムレコーダー

勤務時間表(英語版)

昨日

分野別の時間

地質学

地質時代

年代帯(英語版)

累代










絶対年代

地史

物理学

絶対時間と絶対空間


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:37 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef