百葉箱(ひゃくようばこ、ひゃくようそう[注 1]、英語: Instrument shelter)とは、気象観測のために設置する温度計などの観測機器を日射から遮蔽するとともに雨や雪から保護するための装置(箱)[2]。百葉箱や雨量計などを設置した気象観測のための場所を「露場(ろじょう)」という。
歴史大阪市営地下鉄のホーム上にある百葉箱
(2007年3月・淀屋橋駅)
気温(大気温度)の測定方法の標準化、つまり測定時の環境への配慮がきちんと行われるようになったのは、19世紀に入ってからである。それでも正確な測定のためのいろんな問題があった。屋外で測定されるようになって大きな問題となったのは、まず昼間の太陽放射の影響をどう防ぐかだった。当時は気温の測定者が各自それぞれ独自の工夫をしていたようである。
18世紀前半に特にイギリスで広く使われたのが、イギリスの気象学者グレーシャー(James Glaisher)が開発したグレーシャー・スタンド(Glaisher stand)と呼ばれる日よけ用の屋根がついたオープン型スタンドである[3]。これは彼がグリニッジ天文台の気象部長の時に考案した物で、温度計はスタンドの遮光板の裏側につけられていたが、一定時間ごとに人手で回転させねばならなかった[4]。
それで考えられたのが、1863年にスコットランドの灯台設計者トーマス・スティーブンソン(Thomas Stevenson)が発明した、スティーブンソン・スクリーン(Stevenson Screen)である。これは一種の2重のよろい窓を持った木箱で、太陽光を遮蔽しながら風通しも考慮された。日本ではこれは百葉箱と呼ばれている。スティーブンソン・スクリーンは窓や換気法が順次改良されていった。イギリス気象学会(Britain’s Meteorological Society)で1873年に各種の遮光板や気象観測箱が比較検討された結果、スティーブンソン・スクリーンが気温観測のための使用が推奨された[5]。それ以来世界で長年使われている。
ところが、スティーブンソン・スクリーンの測定値に疑問を持ったのがスコットランドの気象学者ジョン・エイトケン(John Aitken)で、彼はスティーブンソン・スクリーンを綿密に調査して、箱が持つ熱慣性による放射の影響に気づいた[6]。
現在では、放射の影響があるためスティーブンソン・スクリーンの利用は減って来ている(気象庁では百葉箱を既に使っていない)が、技術的には単純であることから、世界各地ではまだ使われている所も多い。現在では、放射の影響を小さくするために、内外の放射の影響を与えにくいハウジング材の利用、ハウジング本体の小型化、センサーの小型化、通風量の増大などが図られている[4]。 日本では1872年3月、工部省測量司が各種観測事業を計画し、1874年6月、イギリスから最新の一揃えの各種観測機器が到着した。百葉箱はアレクサンダー・バッカン『気象学便覧Handy Book of Meteorology (1867)』によろいど箱Louvre Boared Box for Thermometersとして紹介されていた。1874年1月、測量司は内務省に移管され、機器は葵町の庁舎地(現在のホテル・オークラ
日本
こうした通風筒に電気式乾湿計を組み込んだ装置を、現代版の百葉箱と称することもある[9]。近年ではデータを自動送信することで人間が目視・筆写する必要がないものも登場している。
変わったところでは、大阪市営地下鉄の地下にあるプラットホーム上にも百葉箱が設置されている。利用者や電車の運行頻度の増加が、駅構内の温度環境にどう影響するかを把握するのが目的で、最初の区間である御堂筋線が開業した翌年の1934年に淀屋橋駅に初めて設置され、大阪のみならず全国の地下冷房整備などの計画立案にも貢献してきたが、技術の進歩により測定機器を百葉箱に収める必要がなくなり、2012年以降撤去が進んだ[10]。しかし、利用者から撤去を惜しむ声が多く寄せられたことなどを受け、大阪市営地下鉄の後身となる大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)では、安全に支障のない範囲で、一部の駅にて百葉箱を保存している[11]。 一般的なスティーブンソン式の百葉箱では、より正確な気温を計測するため、以下のような工夫がなされている。
仕様と種類
仕様
良質の木材で製作される[2]。熱を中へ伝えにくくするためである。
放射熱をなるべく遮断できるよう外側は白色で塗られている[2]。
外気温を正確に測るには通風が必要なため、側面は二重の鎧戸、天面と底面はすのこ張りの二重構造である[2]。
側面の鎧戸には双葉式と単葉式がある。
屋根には両屋根式と片屋根式がある。
扉側から直射日光が入らないように設置する[2]。扉は北半球では北向きに、南半球では南向きに設置されている。
百葉箱を設置する場所の地面は芝生またはその地域に自然の地表面とする[2]。
各地点の観測データの相互比較のため、世界気象機関では地上1.25-2.0m(日本の気象庁では1.5m)の高さで測定することを基準としている[2]。