発芽
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ヒマワリの種子発芽パパイヤの種子発芽

発芽(はつが、英:germination)とは、植物の種子むかごなどから芽が出ること、また、胞子花粉などが活動を始めることを指す用語である。似た用語に萌芽(ほうが)があるが、これは通常樹木冬芽切り株からの芽生えのことを指す。
種子の発芽地上性の発芽様式(左)と地下性の発芽様式の模式図ヨーロッパイチイの種子の発芽。地上に現れてすぐの実生(一番左)は、胚軸の頂端がかぎ状になっている。また種皮が地上で脱落しているため、この実生は地上性である。アブラナ属の1種の種子発芽。幼根が出ている。マツ属実生は地上生(epigeal)であるココナッツの発芽は地下性(hypogeal)である

種子の発芽は、種子が吸水して、胚組織の一部である幼根(のちにとなる器官)が種皮を破って現れるまでの一連の過程を経て行われる[1]。また発芽によって発生した幼植物のことを実生(みしょう)という。土壌中にある種子は、のちに茎となる胚軸が土を押し上げて地上に現れるが、その際に幼芽が傷つかないように、頂端がかぎ状になって幼芽を保護している[2]。また発芽途中の段階では、幼芽は種皮に包まれている。芽が地上に出た後、かぎ状になっていた部分はまっすぐに伸び、幼芽が子葉となる[2]。なお幼芽から種皮が外れるタイミングは2通りあり、地上に芽を出したあとに脱落する地上性の実生(英:epigeal germination)と、地中ですでに幼芽が種皮から離れる地下性の実生(英:hypogeal germination)とがある[2]。この特徴は植物を分類するうえで使われることがある。

外見的には、幼根が種皮を破って出現するか、あるいは土壌から芽あるいは根が出現した段階で、種子が発芽したと認識できるが、実際にはその段階に至るまでに、種子の成熟や休眠など、種子内部での複雑な生理学的変化を経ている[1]。一般的には、それらの生理学的な過程を経たあと、環境条件(光、水分、温度など)が適切な場所に置かれると種子は発芽するが、そのような外的環境以外にも、他の生物による被食などが発芽に大きな影響を及ぼす場合もある。
種子の成熟

種子が発芽力をもつためには、通常多少の成熟期間を必要とする。どの程度成熟期間が必要かは種によって異なり、形態的には未熟に見える段階ですでに発芽力を持つ植物(イネ科など)や、形態的には成熟したように見えても、その後一定の日数を経過しないと発芽力を獲得しない植物(ウリ科ナス科など[3])などがある[4]。種子の発育と発芽力の獲得については多くの研究があり[5]、例えばレタスの種子は開花後8日ですでに発芽力を持ち、10-12日後には発芽率が非常に高くなることが知られている[6]。一方カラタチのように開花後90-100日が経過しないと発芽力を獲得せず、120-130日後になって高い発芽率を示す、成熟の遅い種も知られている[7]

種子の成熟過程は、「登熟」「追熟」「後熟」の3つの過程に大きく分けることが出来る[8]。登熟過程は開花、受粉後、果実が採取されるまでの期間を指し、その期間に種子の形態形成が進行し、脂質[9]デンプン[10]、タンパク質[11]などの貯蔵物質の蓄積や含水量の減少、休眠誘導などが起こる[8]。この登熟過程では、種子の生長を調整する物質であるオーキシンジベレリンサイトカイニンなどの急激な増減がみられ、登熟過程が終了する頃にはそれらの濃度は低下している[12]

追熟過程は、通常果実が採集された日から種子が採集されるまでの日数を指し[8]、その期間にさらなる貯蔵物質の蓄積や発育の進行が見られる[13]。ただし十分な登熟期間を経ている場合は、追熟期間がなくても良好な発芽率を示す場合も多い[13]。また追熟期間の発育量には温度などが大きく関係しており、低温より高温で発育がより進行することなどが知られている[14]

追熟後も発芽力を獲得できない種子は、発芽可能となるために後熟過程を経る必要がある[15]。後熟過程では胚の形態形成や肥大成長が起こり、形態的に成熟することによって発芽力を得るが、開花から種子採取までの日数によって、後熟過程で得られる発芽力の強さも大きく異なる[16]。例えばホオズキでは、開花後70日が経過してから採取した種子と、50-60日が経過してから採取した種子では、後者のほうが長い後熟期間を経ないと高い発芽率を示さないことが知られている[17]
休眠の解除アブシジン酸は発芽を抑制する働きがある。ジベレリンA3。低温処理などによって増加し、発芽の促進に働く。詳細は「休眠」を参照

一部の種を除いて、種子植物種子は、登熟を経て十分に成熟すると水分含量が少なくなり、種子内の代謝活性が著しく抑制される[18]。この状態を休眠といい、生育可能な環境で確実に発芽するために獲得した能力であると考えられている[19]。特に冷帯や温帯の種では、種子が生産されて秋ごろにすぐ発芽する種はほとんど無く、大半の種は冬の低温によって休眠を解除してからでないと発芽できない種子を生産する[20]。このような休眠性をもつのは、霜や低温、乾燥といった生育に不適な環境である秋から冬に発芽せず、気温が上昇し生育に好適である春に発芽するためである[20]

休眠状態にある種子は胚の生長が抑制または停止されるため[19]、発芽が起こるにはまず休眠を解除(打破)する必要がある。休眠を解除する要因には以下のようなものがある。

成熟過程の一部である後熟過程によって、休眠が解除されることが知られている[21]。後熟過程は、種子が好適な温度条件などが整った環境に置かれると進行し、胚の肥大成長や発芽抑制物質であるアブシジン酸などの減少、発芽促進物質の増加などが起こる[22]。なお休眠性を持たない種子は後熟過程をもたないものと考えられている[5]

多くの種子は、低温条件下に一定期間置かれると、休眠が解除される(春化)。休眠解除に低温処理を必要とする種子では、低温条件に置かれると発芽抑制物質であるアブシジン酸が減少し、発芽促進物質であるジベレリン様物質が増加することが知られている[23]

イネペカンなど高温処理によって休眠覚醒が促進される例も報告されている[24]。高温処理では、発芽抑制物質の分解促進や、包皮組織の変性による抑制物質の種子外への放出促進などが起こるものと推測されている[24]

特に温帯で生育する種の中に、休眠の覚醒に湿層処理(湿った環境に一定期間置かれること)が必要となる種子をもつものが存在する[22]。またこの処理を低温環境下で行う場合は低温湿層処理といわれ、多くの種で休眠を解除する要因として知られている[25]

種皮や果実が硬く、透水性のない種子のことを硬実種子というが、そのような硬実種子は種皮が腐食するなどして吸水性を獲得しなければ、休眠が解除されない。このような休眠を硬実休眠という[26]。実験的には濃硫酸などによる化学処理、あるいはヤスリ等による機械的な種皮の除去によって打破することが可能である[26]

なお、休眠が解除された種子、あるいは休眠性のない種子が発芽に不適な環境に置かれた場合、二次休眠に入り、その後発芽に好適な環境に置かれても発芽できなくなることがある[19]
発芽に必要な条件リョクトウの発芽を早送りで撮影した映像

休眠が解除された種子が発芽するには、発芽に適した水分や温度、光などといった条件を満たした環境に種子が置かれる必要がある[18][27]


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