病院船
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この項目では、船の種類について説明しています。韓国のテレビドラマについては「病院船?ずっと君のそばに?」をご覧ください。
ハリケーンカトリーナの救援に参加する病院船「コンフォート」。準備の為入港する港で待機する米海軍スタッフ

病院船(びょういんせん、英語: hospital ship)とは、広義には戦争飢餓、大災害の現場で、傷病者に医療ケアのプライマリ・ケアを提供したり、病院の役割を果たすために使われる船舶。狭義にはそのうちジュネーヴ条約が適用されるもので、傷病者や難船者に援助を与え、治療と輸送を唯一の目的として、国が建造又は設備した船舶をいう[1]

通例、病院船は戦場における傷病者に対する医療を目的としているため、各国の海軍が運用している[1]。特異な例としては、スペインでは遠洋漁業の従事者の応急手当を目的としているため雇用・社会保険省が保有・運用している[1]日本では第二次世界大戦期まで運行されていたが戦後は運航されていない[1]

治療機能を持たず、救急車のように搬送に特化した「救急艇」も存在する[2]
歴史

戦場において傷病兵への医療活動を行う船は、古代ローマ時代には存在していた[3]

近代においては、1850年代のクリミア戦争イギリスフランスが病院船を運用したことが知られる。1860年代アメリカ南北戦争では、「レッドローバー」(1859年就役)が南北両軍の傷病兵を治療した。このころ、赤十字活動の勃興とともに、病院船の戦時国際法上の地位も確立されていった。

その後、第一次世界大戦第二次世界大戦などでは、いくつかの国で客船を改装した病院船が整備され、運用された。イギリスの「ブリタニック」、日本の「氷川丸」などが活躍した。しかし、両大戦では国際法を無視した攻撃が行われ、犠牲者を出す事態も発生したほか、国際法を逆手に不法に兵員や軍需物資の輸送に用いられた例もあった。

21世紀に入っても、アメリカ海軍によって病床数1,000床のマーシー級病院船2隻、すなわち「マーシー」と「コンフォート」が運用されており、これらが世界でもっとも大型の救命救急の船舶として知られる。ブラジルペルーといった南アメリカ諸国では、河川砲艦の設計に準じた河川病院船も存在しており、有事には本来の任務に用いるが、むしろ、平時における医療機関に乏しい地域への巡回医療活動に用いられているものもある。同様の巡回医療に用いられている病院船として、インドネシア海軍の病院船「Dr. スハルソ」がある。

ブリタニック

モーリタニア

氷川丸

国際法
条約の適用

先述のように、狭義の病院船はジュネーヴ条約が適用される、傷病者や難船者に援助を与え、治療と輸送を唯一の目的として、国が建造又は設備した船舶をいう[1]。条約上、病院船には軍用病院船、救済団体の病院船、中立国救済団体の病院船がある。

軍用病院船は「傷者、病者及び難船者に援助を与え、それらの者を治療し、並びにそれらの者を輸送すること」を唯一の目的としなければならない(ジュネーブ第2条約第22条[4]

スペインの「エスペランザ・デ・ラ・マール」(約5,000t)や「ファン・デ・ラ・コーサ」(約2,600t)は軍務に就いておらず条約の適用を受ける狭義の病院船ではない(条約の適用を受けないため船体は独自のデザインを用いている)[1][5][注 1]。一方、イギリスやフランスにみられる軍艦に医療機能を付加した艦船は医療専用船でないため条約の対象外である[1]

近代戦時国際法のもとでは、病院船は一定の標識を行い、医療以外の軍事活動を行わないなどの要件をみたすことで、いかなる軍事的攻撃からも保護される。今日では1949年のジュネーヴ第2条約が病院船に関する明文規定を定めている。
基本的要件

時期によって若干の変遷はあるものの、「ジュネーブ第2条約(海上傷病者保護条約)[4]」に基づく基本的要件は以下の通りである。

船体の塗装 - 船体外面は全て白色としなければならない。

赤十字標識 -できる限り大きい濃色の 赤十字(または赤新月)を船体の各側面及び水平面に表示し、メインマストに白地に赤十字の旗を掲げなければならない。

非武装 - 船内の秩序維持、傷病者の護衛のために必要な小火器[注 2]を除くあらゆる武装の禁止[注 3]

軍事的活動の禁止 - 兵員・軍需物資の輸送、軍事情報の発信などには利用してはならない。無線暗号通信の使用(送受ともに)も禁止される[注 4]

交戦国への通知 - 病院船が使用される10日前にその船名及び細目[注 5]が紛争当事国に通告されなければならない。
.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{display:flex;flex-direction:column}.mw-parser-output .tmulti .trow{display:flex;flex-direction:row;clear:left;flex-wrap:wrap;width:100%;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{margin:1px;float:left}.mw-parser-output .tmulti .theader{clear:both;font-weight:bold;text-align:center;align-self:center;background-color:transparent;width:100%}.mw-parser-output .tmulti .thumbcaption{background-color:transparent}.mw-parser-output .tmulti .text-align-left{text-align:left}.mw-parser-output .tmulti .text-align-right{text-align:right}.mw-parser-output .tmulti .text-align-center{text-align:center}@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{width:100%!important;box-sizing:border-box;max-width:none!important;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow{justify-content:center}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{float:none!important;max-width:100%!important;box-sizing:border-box;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow>.thumbcaption{text-align:center}}平素の国内使用の状況、船体がグレーとなっている。ワヒディン・スディロフソド級病院船のジュネーブ第2条約適合処置前後の景況

病院船がジュネーブ第2条約上の保護を受ける条件は上記の通りであるが、病院船として条約に適合するために運用の制限がかかる事を嫌い、病院船と同様の機能を持ちながら病院船としては登録していない国[注 6]や、平素の運用時には上記条件を満たさず、紛争地帯への派遣の際に条約適合の船体整備を行う国[注 7]も存在する。緑のストライプが入ったアメリカのヘブン級病院船ベネボレンス赤帯が施されたオビ級病院船エニセイ(2012年撮影)
緑と赤のストライプ

第二次大戦期の病院船は船体に細いストライプが入るが、これは「ジュネーヴ条約の原則を海戦に応用する条約」(1899年)第5条で以下のように規定された[6]

軍用病院船は幅1メートル半の緑色の標識を施す。

救済団体および中立国救済団体の病院船は幅1メートル半の赤色の標識を施す。

帯色の規定は1949年のジュネーヴ第2条約で廃止されたが、国によっては引き続き採用した。
病院船の保護

病院船の保護は人道的任務から逸脱して敵に有害な行為を行うために使用された場合でない限り消滅しない(保護を消滅させる場合も合理的な期限を定めた警告が発せられ、かつ、その警告が無視された後でなければならない)[7]

実際には保護されるべきはずの病院船が、敵艦から意図的に攻撃を受ける事件もあった(「ぶゑのすあいれす丸」撃沈事件、「オプテンノール」拿捕など)。過失による撃沈を防ぐために病院船は夜間も明かりを灯し病院船であることを主張した。純白の美しい外観、病院船という任務目的からか、付近の味方艦船乗員の心理的安堵感が増し、気が緩んだ隙に病院船周囲を周回している敵の潜水艦に撃沈されるという凄惨な例もあった[8]


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