疥癬(かいせん、英: scabies)は、無気門亜目ヒゼンダニ科のダニ、ヒゼンダニ(学名:Sarcoptes scabiei var. hominis)の寄生による皮膚感染症。湿瘡(しっそう)、皮癬(ひぜん)ともいう。知られている皮膚疾患の中で、掻痒は最高度である。
通常疥癬と角化型疥癬に大別される[1]。
疥癬の分類 (国立感染症研究所)[1]。通常疥癬
(普通に見られる疥癬)角化型疥癬
(痂皮型疥癬)
ヒゼンダニの数数十匹以上100万から200万
免疫力正常低下
感染力弱い強い
主な症状丘疹、結節、疥癬トンネル厚いあか(垢)が増えたような状態
(角質増殖)
掻痒感強い不定
発症部位顔や頭や陰部を除いた全身全身
ヒゼンダニ病原体のヒゼンダニヒゼンダニの生活環(英語)
動物の種類によって、ヒゼンダニの種は異なる。ヒトに対しては、Sarcoptes scabiei var. hominis が関係する。ヒゼンダニの大きさは雌成虫で体長約400μm、体幅約325μmで肉眼では見えない。交尾を済ませた雌成虫は、皮膚の角質層の内部に鋏脚で『疥癬トンネル』と呼ばれるトンネルを掘って寄生する。疥癬トンネル内の雌は約2ヶ月間の間、1日あたり0.5-5mmの速度でトンネルを掘り進めながら、1日に2-3個、総数にして120個以上の卵を産み落とす。幼虫は孵化すると、トンネルを出て毛包に潜り込んで寄生し、若虫を経て約14日で成虫になる。雄成虫や未交尾の雌成虫はトンネルは掘らず、単に角質に潜り込むだけの寄生を行う。 交尾直後の雌成虫が未感染の人体に感染すると、約1ヵ月後に発病する。皮膚には皮疹が見られ、自覚症状としては強い皮膚のかゆみ(アレルギー反応)が生じる。皮疹には腹部や腕、脚部に散発する赤い小さな丘疹、手足の末梢部に多い疥癬トンネルに沿った線状の皮疹、さらに比較的少ないが外陰部を中心とした小豆大の結節の3種類が見られる。 非常に強い痒みが主要症状で、水疱性疥癬は小児に好発する。 身体所見として疥癬トンネルがあれば疑う。疥癬トンネルからの擦過物を顕微鏡で観察してダニ、虫卵、糞粒を認めることで確認する。 動物では症状が重い場合は体毛が抜け落ちたり数週間で衰弱死することがある[2]。 引っかき傷は黄色ブドウ球菌、溶連菌の感染が起こりやすく、膿痂疹を引き起こす。膿痂疹は、敗血症、糸球体腎炎、リウマチ性心疾患 重症感染の過角化型疥癬は、1848年にはじめてこの症例を報告したのがノルウェーの学者ダニエル・コルネリウス・ダニエルセン(ハンセン病の医師で、アルマウェル・ハンセンの義父)らであったため、時にノルウェー疥癬とも呼ばれるが、疫学的にノルウェーと関連があるわけではないため、過角化型疥癬と呼ぶことが提唱されている。何らかの原因で免疫力が低下している人にヒゼンダニが感染したときに発症し、通常の疥癬はせいぜい1患者当たりのダニ数が千個体程度であるが、過角化型疥癬は100万-200万個体に達する。このため感染力はきわめて強く、通常の疥癬患者から他人に対して感染が成立するためには同じ寝具で同衾したりする必要があるが、そこまで濃厚な接触をしなくても容易に感染が成立する。患者の皮膚の摩擦を受けやすい部位には、汚く盛り上がり、カキの殻のようになった角質が付着する。 第二次世界大戦前後、日本の刑務所に収容された政治犯、思想犯は劣悪な収容環境に置かれたため疥癬が蔓延。疥癬は同時に急性腎臓炎を併発することもあり、死に直結する病となった。終戦直前の8月には長野刑務所で思想家の戸坂潤が獄死した[3]ほか、終戦を迎えても受刑者の置かれた環境が変わらなかったため、同年9月に豊多摩刑務所で三木清が獄死している。 イベルメクチン、フェノトリンは、ともに卵には効果が薄い。初回投与時には卵であったものが孵化することを念頭に置き、1週間隔で2回投与する[5]。 従来使われていたベンゼンヘキサクロリド(γ-BHC)は、日本では2010年4月の化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律改正により、第一種特定化学物質に追加され、院内製剤用としての入手は不可能となった[5]。
ヒゼンダニ科ヒゼンダニ属
イヌセンコウヒゼンダニ Sarcoptes scabiei var. canis
ウシセンコウヒゼンダニ Sarcoptes scabiei var. bovis
ウマセンコウヒゼンダ Sarcoptes scabiei var. equi
ヒツジセンコウヒゼンダニ Sarcoptes scabiei var. ovis
ヒトヒゼンダニ Sarcoptes scabiei var. hominis
ブタセンコウヒゼンダ Sarcoptes scabiei var. suis
ショウセンコウヒゼンダニ属
ネコショウセンコウヒゼンダニ Notoedres cati
トリヒゼンダニ科トリアシヒゼンダニ属
トリアシヒゼンダニ Knemidokoptes mutans
キョウセンヒゼンダニ科キュウセンヒゼンダニ属
ウサギキュウセンヒゼンダニ Psoroptes cuniculi
ウマキュウセンヒヒゼンダニ Psoroptes equi
ヒツジキュウセンヒゼンダニ Psoroptes ovis
感染
症状と診断
足の疥癬
腕の疥癬
手の疥癬
手の指の疥癬
極度に角質増殖した手腕
合併症
鑑別
水疱性類天疱瘡 - 高齢者では似ることがあり診断が遅れる。
脂漏性皮膚炎 - 頭皮に生じた疥癬。(乳幼児および免疫不全宿主)
過角化型疥癬
歴史が著した『諸病源候論
治療法
内服薬
イベルメクチン(ストロメクトール錠) - 日本では、2006年8月に疥癬への保険適応となった。
外用薬
フェノトリン(スミスリンローション5%) - 合成ピレスロイド。2014年5月、日本でも医療用医薬品として発売された。
0.4%のパウダータイプやシャンプータイプは、シラミ駆除の一般用医薬品
イオウ末 - 沈降硫黄に流動パラフィンを研和、白色軟膏で5?10%に製する、院内製剤または薬局製剤で、保険適応。
イオウ・サリチル酸・チアントール軟膏 - 第十七改正日本薬局方収載品で、薬価収載されているが、製造中止となり販売されていない。
クロタミトン (オイラックスクリーム10%、など)- 保険適応はないが容認されている。上記に比較し、効果が弱い。
名称がオイラックスの外用薬でも、オイラックスHクリーム、市販のオイラックスA、オイラックスPZ軟膏・クリーム、オイラックスデキサS軟膏はステロイドが含有されているので使用してはいけない[4]。
ステロイド外用薬(副腎皮質ホルモン)は、皮膚症状が増悪するため禁忌である。
安息香酸ベンジル - 6?35%濃度でローションを調製し、使用する(保険適応外)[5]。
ペルメトリン - 合成ピレスロイド。世界で使用されているが、日本では認可されていない。