LOH症候群(late-onset hypogonadism)とは、男性ホルモン(テストステロン)の部分的欠乏によって起こる症候群[1][2]。加齢男性性腺機能低下症候群(PADAM(partial androgen deficiency of the aging male))とも呼ばれる[1]。女性の更年期症候群に対する男性の加齢疾患なので男性更年期障害と呼ばれる[3][4]。日本においては加齢に伴う変化として、長らく診療の対象外とされていたが、21世紀になり急激な高齢化社会の出現を背景に治療対象として見なされるようになった。欧米では 1980年代より老年病学
や生殖内分泌学の観点から注目されていた[1]。治療として男性ホルモン補充療法が行われるが、特にアメリカでは盛んで2014年の段階で、約400万人が治療を受けているとされる[5][6]。発症時期は一定しないが、概ね40代後半?50代前半以降、加齢などによりテストステロンが低下することにより発生する[7]。実態は低テストステロン症候群であり、生殖能力の低下のみならず精神症状を含めた全身的な症状が認められる。インスリン感受性が悪化しメタボリック症候群を発現しやすくなる。2型糖尿病患者に高頻度で見られ骨粗鬆症、心血管疾患、内臓脂肪の増加、耐糖能異常、高脂血症のリスクが増加することが知られている。特に20代から40代でテストステロンが低い場合は、2型糖尿病、メタボリック症候群のリスクが増大する[8]。
男性も精巣のライディッヒ細胞やアロマターゼ(芳香化酵素)によって血中濃度で5 - 70ピコグラム/ミリリットルのエストロゲンを生成し、50歳を過ぎても閉経した後生殖期の女性より高いレベルの濃度を維持する[9]。加齢によるテストステロンの減少とともに、男性も閉経した女性と同様にエストロゲン欠乏の作用が生じるとも推測されている[9]。女性の更年期障害に比較し男性の更年期障害は一般に認知度は低い[10]。また、日本で「Aging Male 研究会」が設立された当時には、マスメディアが男性更年期障害を大きく取り上げたことから、診療に不慣れな診療現場に男性更年期障害を訴える患者が殺到したが、その中にはうつ病など精神科領域の患者も多く含まれていたことなど診療現場で混乱が生じた。このため、日本泌尿器科学会内分泌・生殖機能・性機能専門領域部会から学術委員会に対してのガイドライン作成の要請に基づき、日本泌尿器科学会と日本Aging Male研究会
によるガイドライン作成のためのワーキンググループが組織された[1]。テストステロン減少により様々な症状が起こる[8][11][12]。 まず、診断は性腺機能を評価することから始める。特に血中テストステロンの生化学的な多様性や特性を十分に把握し、検査値を分析する。LOH 症候群患者は不定愁訴にて受診する場合が多く、うつ病を中心とした精神疾患との鑑別が重要である[1]。 Heinemannらによる Aging males? symptom(AMS)スコア[13]が広く用いられている[1][12]。AMSスコアは17項目からなる質問形式のスコアで、5段階の自己評価を記入する形式となっている[1]。
精神症状[8]
集中力の低下、無気力、不安感、頭のもやもや感、イライラ感、うつ、疲労感、不眠、記憶力の低下
身体症状[8]
不眠、精力低下、多汗、勃起障害・性機能低下、筋力低下、筋肉痛、ほてり、発汗、頭痛、めまい、耳鳴り、頻尿、Morning erectionの消失
診断