男おいどん
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『男おいどん』(おとこおいどん)は、四畳半下宿である「下宿館」における主人公、大山昇太(おおやま のぼった)をはじめとする若者たちの青春群像を描いた松本零士漫画。『週刊少年マガジン』(講談社)誌上で1971年5月9日号から1973年8月5日号まで連載された。第三回講談社出版文化賞児童まんが部門受賞。最終シリーズは、未来の地球と宇宙が舞台となり、後の『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』、『宇宙海賊キャプテンハーロック』へと繋がってゆく金字塔的な作品である。
作品解説

老朽下宿で四畳半の部屋を借りて極貧生活を送る大山昇太を主人公とし、彼を取り巻く人々の生活を描いている。昇太の「上手くいかない、情けない若者の姿」が笑いと共感を呼び、本作は松本にとって初の大ヒット作品となった。

世界各国で出版されている同作者の主力となっているSF作品とは異なり、日本の集合住宅である四畳半部屋の住人を扱った『大四畳半シリーズ』の1作品である。本作は作品に描かれている人々の情や主人公の意気込みを描いた、人情味あふれる描写が特徴である。

また、この作品は、本郷の山越館[注 1]に下宿していた松本零士本人の回想録であるとみなされる場合も多く、作者の人間観を強く現わしている作品と考えられることもある[要出典]。松本は、自身のみでなく下宿仲間全員の生活を実体験として描いた作品であるとし、まさに男たるものの極限を体験した時代であったと述懐している[1]スター・システムを採用しているため、よく似た・もしくはほぼ同一キャラクターが他作品にもしばしば登場する。その結果、貧しいながらも誠実で、大抵は空腹ながらもエネルギッシュな、しばしばボロゆえの乱暴さとバイタリティーをもったキャラクターが各々の作品に登場している。

松本が本郷三丁目の下宿生活中、貧窮で風呂屋に行けなかったためにインキンタムシを患い[2]、薬局のすすめで「マセトローション」という薬を使うと嘘のように完治した事から、「これをみんなに知らせるべきだと。それまではただ『面白い漫画を描こう』とそればかりで、『何のために』が抜けていた」と気付き、本作を執筆するに至った。のちにマセトローションを製造販売する湧永製薬(当時は湧永薬品)の依頼により製品パッケージイラストを担当。昇太とトリさん、女性キャラの横顔が描かれている[3]

若い読者からの反響が大きく、男性のみならず、病状に悩まされていた女性読者からも手紙が届いた[4]。読者の一人に“森木深雪”という名の女性がおり、宇宙戦艦ヤマトのキャラクター・森雪の名前の元になった。

松本によると「正直こんな漫画が売れるとは思わなかった」という。なかなかヒットに恵まれず、しかし週刊マガジンという大きな舞台で描く事になり、半ば開き直って執筆を開始した。主人公が久留米出身の短足眼鏡であったり、ラーメンライスを好み、インキンタムシに苦しめられ、押し入れのパンツにキノコを自生させるなど、自身の体験談を元に描かれた自叙伝的な漫画であるが、ギャグとペーソスを交えた昇太の姿を執筆するうち「自分もこのような体験をしている」と多くの読者から似たような情けない男の体験談が寄せられ、それが多くのエピソードのヒントになったとインタビューで述べている(デートでオーケストラのコンサートに行った際に眠くなり、隣の彼女にばれない様に片目だけ閉じ、次に席を入れ替わってもう反対側の目を閉じていた等)。

ただ執筆を続けていくうちにどんどん話が広がっていってしまい「話が無限大になってしまった」ことから、「ケジメが付かなくなる」として松本の方から編集部に「連載をやめさせてくれ」と打ち切りを申し出たという。松本によれば自分から連載打ち切りを申し出たのはこの時が初めて[5]

80年代に一度実写版映画化の話があったが、主演の予定の配役が「郷ひろみ」だったため、原作者の松本が「郷さんに恨みはないが」と前置きした上で、「昇太はいつも郷ひろみのような二枚目を『ちきしょーちきしょー』とくやしがっていたのにそれじゃあ、あまりに昇太が可哀相だ」と納得しなかったため中止となった。しかし、同じく『大四畳半シリーズ』の1作品である『元祖大四畳半大物語』が1980年に実写映画化されている。
あらすじ

時は1970年代、場所は日本の東京、文京区本郷[注 2]

「無芸大食人畜無害」を信条とし、貧しくも概ね正直に浪人生活を送り続けるチビでガニ股・ド近眼・醜男・サルマタ怪人とまで呼ばれる大山昇太の周囲には、なぜか様々な女性があらわれては通り過ぎてゆく。彼の部屋の押し入れにはパンツ[注 3]が山積みとなっており、ろくに洗濯もしないため、雨が降ればサルマタケと称するキノコ(「ヒトヨタケ」を参照されたい)が生えるほどの状況で、あまりの貧困ゆえにサルマタケも食用にされる。珍しく親密になりかけた女性が現れても寂しい結末が待っている。新しいバイトが決まればことごとく失敗し失業を繰り返す。悲惨極まりない日々を過ごす不器用な昇太だが、案外前向きで逞しく、狭い自室を「大四畳半」と形容し、大家の老婆に叱咤され、同居する謎の鳥「トリさん」に愚痴をこぼし、好物のラーメンライスにありついては世話になるラーメン屋の夫婦に励まされ、いつか故郷に錦を飾らんと自身を奮い立たせる。
登場人物
主要キャラクター
大山昇太(おおやま のぼった)
おいどんという一人称をつかう主人公。東京・文京区弓町にある「下宿館」の2階の西向き四畳半の部屋に住む。はっきりとした年齢は分からないが、物語終盤で「おいどんももう若くない」とされている事から、作中では十代後半?二十代後半くらいまで進行していると考えられる。故郷は九州。中学校を卒業した後に東京に移り、アルバイトをしながら高等学校の定時制の課程の夜間部(夜間高等学校)に通っていたが、勤務先の工場をクビになった際、中途退学してしまう。それでもめげずに学校に戻ろうとしているが、状況は日々の生活を送ることで精一杯のようだ。ストーリーの最後にほぼ必ず「トリよ、おいどんは負けんのど!」と言う。それにたいしてトリさんは「なーにか」と返事をする。トリにしか心情を吐露することが出来ない彼の孤独感を強調しストーリーを締める。生活に困窮すると馴染みの中華料理店「紅楽園」でアルバイトをさせてもらう事もあるが、決まって丼に親指を入れて配膳してしまうため、店主からも客からも訝しがられている。下宿館には風呂があるがほとんど入浴せず、自身がインキンであるために水虫の治療薬に詳しく、自他共に認めるインキンの権威であるが、それが生活の足しになったことはない。夏場は蒸れてインキンが悪化するため、下宿内ではランニングシャツとサルマタだけでうろつくことがあり、新しく入った若い女性下宿人には些か不評だが、しばらく住んでいる女性下宿人にはほとんど気にされていない(むしろ同情される)という「人畜無害」ぶりである。


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