甲状腺ガン
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甲状腺癌

顕微鏡写真( ハイパワービュー)の甲状腺乳頭癌の診断特徴を示す( 細胞核のクリアリングおよび細胞核の重なり)。H&E染色済み。
概要
診療科腫瘍学
分類および外部参照情報
ICD-10C73
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甲状腺癌(こうじょうせんがん、英語: thyroid cancer)は、甲状腺の組織から発生するがんである[1]。甲状腺癌は大きく分けると、甲状腺癌の9割以上を占める甲状腺分化癌、周囲の臓器への浸潤や遠くの臓器への転移を起こしやすいなど悪性度が高い甲状腺未分化癌に分けられる[2][3][3]。そして、更には細かく分類すると主に乳頭癌、濾胞癌、低分化癌、未分化癌、髄様癌、悪性リンパ腫の6種に分別される[4][5]。乳頭癌(約90%)、濾胞癌(約5%)、低分化癌(1%未満)の3つを合わせて甲状腺分化癌と呼び、甲状腺癌の90%以上を甲状腺分化癌が占める[6][7]。診断は、超音検査が推奨されている[8]。穿刺吸引細胞診により鑑別診断される。年々、甲状腺がんの患者数は年々増加しているが、背景には検査法が進歩したことで、より小さながんが早期に発見できるようになったことがある。[5]。60歳を過ぎた女性はほぼ全例100%、甲状腺癌を持っている[9]。増殖が遅く一生症状が現れにくいものである分化癌が9割以上を占める。生涯にわたって健康に影響しなかったために、臨床的には発見できず、病理組織診断(死亡後の解剖(剖検)を含む)によって初めて発見される潜在癌が非常に多い[2][5]。そのため、癌の中でも5年相対生存率が高く、日本人男性は91.3%、日本人女性95.8%である。早期診断は必ずしも有益でなく、かえって過剰診断などの弊害をもたらすため、WHOのがん専門組織であるIARCは、たとえ原発事故後であっても、無症状の人をわざわざ集団検診することは非推奨としている[6][10][11]。「過剰診断#甲状腺がん」も参照

日本人罹患数(2017年)は男性4,642人、女性13,448人、合計18,090人[12]。日本人死亡人数(2019年)は男性619人、女性1,243人、合計1,862人[13]甲状腺乳頭癌が発生したリンパ節の顕微鏡写真。
甲状腺癌分類の変遷

同じがんでも、性質が異なっていれば検査、治療法、予後も変わる。癌に関し種々の研究がすすむため、分類は適宜更新される。
UICC-TNM分類

UICC-NM分類は国際的な分類である。UICC(国際対癌連合、Unio Internationalis Contra Cancrum、2010年より英名はUnion for International Cancer Control)1933年に設立された、世界的な広がりを持つ民間の対がん組織連合のTNM分類(UICCによる悪性腫瘍の進展度に関する国際的分類)。1950年代に欧州で始まる、その後、1974年の第2版、1982年の第3版、1987年の第4版、1997年の第5版、2002年の第6版、2009年の第7版、2016年のTNM分類第8版[14]
AJCC TNM分類

AJCC TNM staging (American Joint Committee on Cancer tumor?node?metastasis staging) 。米国癌登録委員会が作成するアメリカの癌登録の分類である。2017年に8版になり、甲状腺癌の分類がUICC TNMと同様に年齢区分が45歳から55歳にひきあげられた。1983年からTNM病期分類に年齢を組み込んでいる[15]
甲状腺癌取扱い規約

甲状腺癌取扱い規約はほぼ国内でのみ利用されているものである。1977年8月第1版、1983年10月第2版、1988年8月第3版、1991年10月第4版、1996年3月第5版、2005年9月第6版、2015年10月第7版、2019年11月第8版。

甲状腺癌取扱い規約 第8版(2019年)は臨床領域ではUICC(国際対がん連合)-TNM分類(第8版)(2017年)、病理診断領域ではWHO分類(第4版)(2017年)、細胞診に関しては第2版ベセスダシステムの発行(2018年)を受けての改訂。UICC第8版からは、Stage分類において、分化癌(乳頭癌、濾胞癌)における年齢の境界を45歳から55歳に引き上げ、N1症例を高齢群でもStageIIにとどめるなどの改定が行われた。病理診断では、第4版WHO分類で新たに取り入れられた境界病変 (FT-UMP、WDT-UMP、NIFTP) については日本の実臨床の状況に合わせ採用することはせず、詳細な解説を加え対応可能とした。また、WHO分類では低分化癌の定義をより限定的なトリノ基準に従うものとしたが、『甲状腺癌取扱い規約 第8版』では従来の基準を踏襲している。一方、濾胞癌の浸潤様式による分類についてはWHO分類に準拠して、微少浸潤型、広汎浸潤型に加え、被包性血管浸潤型を設けている。
甲状腺腫瘍病理組織分類 (WHO)

2017年に内分泌腫瘍のWHO分類が改定された(第4版)。WHO Classification of Tumours of Endocrine Organs,4th ed. (WHO Classification of Tumours, Vol.10)

甲状腺腫瘍の分類を適切に理解するには,甲状腺腫瘍の他臓器腫瘍と異なる特徴を理解する必要がある。2017年に内分泌腫瘍のWHO分類が改定された(第4版)(WHO Classification of Tumours of Endocrine Organs,4th ed.(WHO Classification of Tumours, Vol.10))。変更点は4つある。第一は境界悪性腫瘍の概念が導入されたことである。悪性度不明のuncertain malignant potential (UMP) と称される分化型濾胞腫瘍の一群と乳頭癌様核を有する非浸潤性甲状腺濾胞性腫瘍noninvasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features (NIFTP) である。第二には、濾胞癌の亜分類に被包型血管侵襲性濾胞癌 (encapsulated angioinvasive follicular thyroid carcinoma) が設定され3分類となった。第三には、低分化癌の診断基準がトリノ合意に基づく厳しい基準に変更された。第4に濾胞性腫瘍の特殊型とされていた好酸性腫瘍がHurthle細胞腫瘍 (ハースル)が独立してまとめられた。[16][7]
ICD10 国際疾病分類第10版(2013年版)

世界保健機関 (WHO) は、保健医療福祉分野の統計について国際比較を可能とするため、複数の国際統計分類を作成し、その中心分類として、ICD(国際疾病分類)およびICF(国際生活機能分類)を位置付けている。ICD10(国際疾病分類)とは正式名称を『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』といい、英語では International Staistical Classification of Disease and Related Health Problemsである。日本では平成7年に「ICD-10(1990年版)準拠」、平成18年に「ICD-10(2003年版)準拠」、平成28年度からは「ICD-10(2013年版)準拠」[17]

甲状腺がん (ICD10: C73) 。甲状腺に原発する悪性腫瘍は ICD-O分類の場合、局在コード「C73.9」に分類される。UICC 第8版においては、癌腫の場合、「甲状腺」の項で病期分類を行うこととなった。 癌腫以外の悪性腫瘍が甲状腺に原発した場合、リンパ腫は Ann Arbor 分類に従った病期分類を行い、肉腫については軟部組織に従って病期分類を行う[18]
Thyroid FNA Cytology: Differential diagnoses and pitfalls(Springer)

2016年第1版、2019年第2版、2023年第3版 [19]。第3版では、Welchら[20]によって定義された増殖速度に基づいて、甲状腺乳頭がん(PTC)の予後を4つのグループに分けることができるとした。

1、再発、転移、およびがん死のリスクが高い(急速に)増殖するがん

2、早期に治療すれば治癒する可能性があるが、放置すればがん死の原因となる増殖の遅いがん

3、死亡リスクを増加させることなく臨床的に経過観察できる増殖の非常に遅いがん

4、安定しているか自然に退縮する非進行性がん

早期PTCの大部分は患者に害を与えないが、臨床的に重要なPTCと臨床的に重要でないPTCを術前に区別することは、個々の症例では必ずしも可能ではない。Welchは無症候性PTCの疾患リザーバー全体を検出した場合、99.7?99.9%の確率で過剰診断となると推定している[20]。また、過剰診断の原因となる病態として、転移や浸潤をきたすものの増殖に限界があり、癌死につながらないタイプの癌であるSelf-limiting Cancer(セルフリミティングキャンサー)の説明がなされている[21][22]
分類
甲状腺分化癌

乳頭癌と濾胞癌を合わせて甲状腺分化癌と呼ぶ、両者で甲状腺癌の大部分(97%)を占める。[7]甲状腺がんでは、がんの種類、進行の程度によって治療法が異なるため、組織型や病期を正確に把握することが重要である。乳頭がん、濾胞がんの病期は、年齢によって異なる。55歳未満の場合には、遠くの臓器への転移の有無によってI期、II期に分類する。55歳以上の場合は、がんの大きさ、広がり、リンパ節や別の臓器への転移の有無によって分類する[23]。UICC第8版からは、Stage分類において、分化癌(乳頭癌、濾胞癌)における年齢の境界を45歳から55歳に引き上げ、N1症例を高齢群でもStageIIにとどめるなどの改定が行われた。
乳頭癌

甲状腺分化癌である。頻度は全甲状腺癌の85%から90% [7]と、甲状腺癌のなかでは最多である。女性に多く(1:4)、若年から高齢者まで各年齢層にみられる[7]。画像診断としては超音波検査が推奨される[8]


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