生物多様性
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生物多様性に富むアマゾン熱帯雨林

生物多様性(せいぶつたようせい、英語: biodiversity)とは、生物に関する多様性を示す概念で、生態系生物群系または地球全体に、多様な生物が存在していることを指す。生態系の多様性、種多様性遺伝的多様性遺伝子の多様性、内の多様性とも言う)から構成される。

生物多様性の定義には様々なものがあるが、生物の多様性に関する条約では「すべての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態系その他生息又は生育の場のいかんを問わない。)の間の変異性をいうものとし、種内の多様性、種間の多様性及び生態系の多様性を含む」[1]と定義されている。
用語の沿革

「生物多様性 」(biodiversity)は、「生物学的多様性 」(biological diversity、1970年代から使われていた用語)を意味する造語である。

1985年に、全米研究評議会(National Research Council[注 1], NRC)による生物学的多様性フォーラム(National Forum on Biological Diversity, 1986年開催)の計画中に、W.G.ローゼンによって造語された。なお「Biodiversity」が初めて公式文書に使われたのは、1988年に出版された昆虫学者生態学者エドワード・オズボーン・ウィルソンによるこのフォーラムの報告の書名としてである[2][3]

1986年以降、生物多様性という用語とその概念は、生物学者、環境保護活動家、政治指導者、関心を持つ市民らにより、世界中で広く用いられることになった。これは20世紀最後の10年間に見られた絶滅種に対する関心の広まりとよく一致している。

日本において平成16年度(2004年度)に環境省が行った調査では、生物多様性の意味を知っている人は約10%、言葉を聞いたことがある人まで範囲を広げても約30%という結果であった[4]
定義

「生物多様性」は、いくつかの側面があるため、標準的な一義的な定義というものはないが、以下の3つの定義で説明ができる。
「生物学的構造の全てのレベルでの生命の多様性」
[5] - 最も簡単な定義

「異なる生態系に存在する生物間での相対的な多様性の尺度」 - この定義の「多様性」は、1種内の多様性、種間の多様性、および生態系間の多様性を含む。

「ある地域における遺伝子生態系の総体」 - この定義の長所は、実態をうまく表しているように思われることと、生物多様性として定義されてきた慣例的な3段階の切り口を統一的に扱える点である。

遺伝的多様性
ある1種の中での遺伝子の多様性。同じ種の中での個体間の違いと、個体群間の違いがある「集団遺伝学」も参照
種多様性
種間の多様性(簡単に言えば、多くの種が存在すること)。
生態系の多様性
より高次の水準、すなわち生態系(遺伝子が究極的に寄与する、異なった諸過程の豊富さ)における多様性。

上記の定義のうち最後のものは、生物学における伝統的な5つの生物の層(個体、個体群、生物群集、生態系、景観)と同じであり、複数のレベルでのアプローチに付加的な正当性を与えている。

1992年にリオデジャネイロで開催された環境と開発に関する国際連合会議(地球サミット)では、生物多様性は次のように定義された:「すべての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態系その他生息又は生育の場のいかんを問わない。)の間の変異性をいうものとし、種内の多様性、種間の多様性及び生態系の多様性を含む」

これは生物の多様性に関する条約で採用された定義であって、生物多様性に関して法的に認められた唯一の定義と言えるものに最も近い。この条約には、アンドラブルネイバチカンイラクソマリア東ティモールアメリカ合衆国を除く全ての国が締約国として参加している。

E.O.ウィルソンが言うように、遺伝子が自然選択における根本の単位であるならば、生物多様性は実質的には遺伝的多様性であるといえるが、研究の際に最も扱いやすいのは、種多様性である。

遺伝学者にとって、生物多様性とは、遺伝子や個体の多様性のことである。かれらは、DNAレベルで起きて進化を発生させる諸過程(突然変異、遺伝子の交換、遺伝子の動態)について研究する。

生物学者にとって、生物多様性とは、生物の個体群や種の多様性のことであり、さらにはそれらの生物が果たす役割のことでもある。生物は現れては絶滅する。すなわち、ある場所は、同種の生物によって占められたり、別種のものにとって代わられたりする。種によっては、生殖戦略を発展させるために社会構造を発達させる。

生態学者にとって、生物多様性とは、種間の持続的な相互作用の多様性のことでもある。このことは、'種'についてだけでなく、生物が直接接する環境(生息空間) および更に広範囲な地域についても当てはまる。各々の生態系の中で、生きている生物は全体を構成する一部分であり、個体同士のみならず、空気、水、土壌など彼らを包む全てと相互に影響しあっている。

生物多様性の評価

生物多様性は幅を持つ概念であるので、様々な目的に沿った評価尺度が作成されてきた。それぞれの尺度はデータの使い方にあわせて選択される。

遺伝学者は、この尺度は遺伝子の多様性と結びつけるのが適当であると主張している。どの遺伝子が有益あるかを常に立証することはできないので、多様性保全のための最良の選択はできるだけ多くの遺伝子を残すことである。一方、生態学者は、遷移を禁じることになるので、このアプローチは行き過ぎた制約であると、考えることもある。

通常、生物多様性は、短い時間スケールで地域の分類学的生物種の豊富さとして表現される。ホイッタカー[6]は、種の豊富さと均等度に注意を払いつつ、種レベルでの生物多様性を測るものとして3種類の一般的尺度について記述した(種多様性を参照のこと)。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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