生世話物(きぜわもの)とは、歌舞伎の演目の一種。「生世話」「眞世話」ともいう。当時の町人の生態を描いた現代劇である「世話物」のなかでも特に写実的な演出、演技が濃いものをいう。歴史的資料としても価値が高い。 主として舞台が商家、町人や農民の住居、遊郭、町中や田舎の一角などの場合に採用される。台詞回しや鳴物は従来のままだが、衣装、小道具、背景などはなるべく本物に近い物を使うことでリアリテイを強調する。また、当世風の言葉廻しや当時流行していた音楽、小物、風習などを使うこともあり、今日からでは貴重な風俗資料でもある。 18世紀末、初代並木五瓶
概要
演出の方法
発生と完成
幕末期には生世話物は三代目瀬川如皐などを経て、河竹黙阿弥によって洗練される。黙阿弥は写実を徹底させ、名優四代目市川小團次、三代目澤村田之助らの活躍で「都鳥廓白浪」、「三人吉三廓初買」、「鼠小紋東君新形」、「勧善懲悪覗機関
」「処女翫浮名横櫛」など市井の人々の哀歓を綴った名作が作られた。彼の生世話物には南北に見られる猥雑さは影をひそめ、抒情性や様式美に重点が置かれているのが特徴で、明治期になるとそれはより顕著になる。そんなときに黙阿弥と提携した五代目尾上菊五郎は若年期に小團次の薫陶を受けており、後継者として生世話物の伝統を守り続けた。旧作の上演を行う一方、新作でも、散切物で新時代の様を舞台に表そうとしたり、「神明恵和合取組」では、住居の再現に町火消のめ組関係者から子細な聞き取りを行い、「盲長屋梅加賀鳶」の按摩道玄の衣装を町の古着屋から買い求めるなど、リアリズムを追求する姿勢は最後まで崩さなかった。明治以降は以下の歌舞伎役者が、それぞれ当たり役をもって、生世話物の神髄を観客に堪能させた。
五代目尾上菊五郎……「東海道四谷怪談」お岩・小平・与茂七、「盲長屋梅加賀鳶」の道玄・梅吉、「梅雨小袖昔八丈」の髪結新三、「神明恵和合取組」の辰五郎
六代目尾上菊五郎……「盲長屋梅加賀鳶」の道玄・梅吉、「梅雨小袖昔八丈」の新三、「四千両小判梅葉
戦後は、六代目中村歌右衛門、十七代目中村勘三郎、松本白鸚らの名優のほか、二代目尾上松緑、七代目尾上梅幸らの菊五郎劇団と二代目中村翫右衛門、二代目河原崎長十郎、五代目河原崎国太郎らの前進座が南北、黙阿弥などの生世話物を積極的に上演し、現在に伝えた。
参考文献
平凡社「歌舞伎事典」1984年
東京創元社「名作歌舞伎全集 第九巻 鶴屋南北全集 一」 1971年
関連項目
散切物
時代物
四代目鶴屋南北
河竹黙阿弥