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琥珀
バルト海産の琥珀
分類有機鉱物
シュツルンツ分類10.C その他の有機鉱物
化学式主成分 C10H16O+(H2S)>
結晶系非晶質
へき開なし
断口貝殻状断口
琥珀(こはく)またはコハク(英: Amber、アンバー)は、天然樹脂の化石であり、宝石である。半化石の琥珀はコーパル(英: Copal)、加熱圧縮成形した再生コハクはアンブロイド(英: ambroid)という[1]。
西洋でも東洋でも宝飾品として珍重されてきた。
鉱物に匹敵する硬度を持ち、色は飴色、黄色を帯びた茶色ないし黄金色に近い。 琥珀は純物質ではないが、主成分は高分子のイソプレノイドである。これは、樹液に含まれるテルペンが天然樹脂やその化石となる過程の高温・高圧の下で、酸化、蒸発、重合などの化学変化を起こし、その結果として生じた重合体である[2]。 200℃以上に加熱すると、油状の琥珀油に分解され、さらに加熱を続けると黒色の残留物である「琥珀ヤニ、琥珀ピッチ」という液体になる[3]。 「琥」の文字は、中国において虎が死後に石になったものだと信じられていたことに由来する[4]。日本の産地である岩手県久慈市の方言では、「くんのこ(薫陸香)」と呼ばれる。 英名 amber はアラビア語: ???? (?anbar、龍涎香のような香りがするもの)に由来する。 古代ギリシアではエーレクトロン(古希: ?λεκτρον)と呼ばれる。意味は「太陽の輝き」という意味である[5]。 英語で電気を意味する electricity は琥珀を擦ると静電気を生じることに由来している[6]。 古代ローマでは、 electrum、sucinum (succinum)、glaesum、glesum[7]などと呼ばれていた[8]。 ベルンシュタイン(ドイツ語: Bernstein)はドイツ語で「燃える石」の意で、琥珀を指す。これは可燃性である石であることから名づけられた。 ネックレス、ペンダント、ネクタイピン、 ボタンやカフリンクス、指輪などの装身具に利用されることが多い。人類における琥珀の利用は旧石器時代にまでさかのぼり、北海道の「湯の里4遺跡」、「柏台1遺跡」出土の琥珀玉(穴があり、加工されている)はいずれも2万年前の遺物とされ、アジア最古の出土(使用)例となっている[9](ゆえに真珠や翡翠と並び「人類が最初に使用した宝石」とも言われる[10])。また、ヴァイオリンの弓の高級なものでは、フロッグと呼ばれる部品に用いられることがある。宝石のトリートメントとして、小片を加熱圧縮形成したアンブロイド、熱や放射線等によって着色する処理も行われている。 ロシアの琥珀なら宝飾品に使われるのは三割程度と言われ、宝飾品にならない物が工業用として成分を抽出して使われる。 熱で融解した琥珀にテレビン油またはアマニ油を溶解させた場合は、「琥珀ニス、琥珀ラッカー」と呼ばれる状態になり、木材の表面保護と艶出しとして塗布される[3]。 その他の利用法として、漢方医学で用いられることがあったという。 ポーランドのグダンスク地方では琥珀を酒に浸し、琥珀を取り出して飲んでいる。 樹脂の粘性に囚われた小生物(ハエ、アリ、クモ、トカゲなど)や、毛や羽、植物の葉、古代の水や空気(気泡)が混入していることがある。特に虫を内包したものを一般に「虫入り琥珀」と呼ぶ。昆虫やクモ類などは、通常の化石と比較すると、はるかにきれいに保存されることから、化石資料としてきわめて有用である。 小説『ジュラシックパーク』のフィクションの設定は、琥珀内の蚊から恐竜の血とDNAを取り出して復元するというもので、作品発表当時のバイオテクノロジーで実際にシロアリでできたという事例がアイデア元となっている。ただし、数千万年前ともなると琥珀に閉じ込められた生体片のDNAを復元することは実際には不可能である[注 1]。 市販の「虫入り琥珀」については、本物偽物も交えて、偽物には精巧稚拙いろいろある。年代の浅い生物入りのコーパルをあえて琥珀の名称で売っているもの、コーパルなどを溶解させ現生の昆虫の死骸などを封入した模造品、樹脂で作った偽物[12]、3Dプリント製[13]など。 特定の条件で琥珀を燃やした時に松木を燃やしたような香りがするが、近年の琥珀の香りと呼ばれるものは、人工的に再現された香が特許として取得され使用されている[14][15][16]。 それとは別に、近年のアンバーと呼ばれる香には、アンバーグリスを再現したものも指している[17][18]。このアンバーグリスは、琥珀と同様に浜に打ち上げられたマッコウクジラの結石である。 琥珀と似たような香木には、同様に樹脂の化石である薫陸
組成
名称
琥珀の利用
装飾
ニス
薬用
古生物学「アリ入り」琥珀
ビルマ琥珀
Lebanese amber(英語版)
香料
産地ポーランド、グダニスク琥珀製造業者組合のパレード
産地だけなら世界中にある。質と量が充実しているのはバルト海沿岸地域とドミニカ共和国。日本では岩手県久慈市で、質は良く、量は世界スケールで見れば少ない。
バルト海沿岸のプロイセンに相当する地域である、ポーランドのポモージェ県グダニスク沿岸とロシア連邦のカリーニングラード州が世界一の産地となっており、ポーランド・グダニスク沿岸とカリーニングラード州だけで世界の琥珀の85%を産出[19]し、その他でも、リトアニア共和国、ラトビア共和国など大半がバルト海の南岸・東岸地域である。 もっとも古い琥珀は、上部石炭紀の地層の物とされている[24][25]。 欧州では18世紀頃までは海洋起源の鉱物だと考えられていた。海に沈んで上ってくる太陽のかけらや、人魚の涙が石となり、海岸に打ち上げられたのだと広く信じられていた。琥珀と黄金の二宝石は、太陽の化身と特別視された。その一方で、紀元1世紀ローマの大プリニウスの著書『博物誌』には既に植物起源と知られていたことが記されている。 琥珀を擦ると布などを吸い寄せる摩擦帯電の性質を持つことは今日では有名であるが、歴史上最初に琥珀の摩擦帯電に言及をしたとされている人物は、現在は紀元前7世紀の哲学者タレスとされている[26][注 2]。 琥珀の蒸留物である琥珀油は、12世紀に知られていた。1546年にゲオルク・アグリコラは、コハク酸を発見した[27]。古代ローマの博物学者プリニウスは、既に琥珀が石化した樹脂であることを論じていたが[注 3][6][28]、その証明は18世紀のロシアの化学者ミハイル・ロモノーソフによってなされた[29]。1829年にイェンス・ベルセリウスは、現代的な手法で化学分析を行い琥珀が可溶性および不溶性成分からなることを発見した。 アンバー
琥珀の道
産地であるバルト海沿岸を中心に、琥珀の交易路が整備された。この交易路は琥珀の道(琥珀街道)という名称が付けられた。
ポーランド
白リン(表面は日光によって赤リン化)ポーランドは琥珀の生産において圧倒的な世界一を誇り、世界の琥珀産業の80%がグダニスク市にあり、世界の純正琥珀製品のほとんどがこのグダニスク地方で製造される[20]。毎年、グダニスクでは国際宝飾展 AMBERMART が催される。また、琥珀博物館も建てられている。
※注意
バルト海沿岸では、第二次世界大戦に使われた白リン弾から白リンが漏出し、琥珀と間違えて火傷を負う事故が起きている。白リンは海中では発火しないが、人体に接触すると発火発熱するため、注意が呼びかけられている[21]。ドミニカ産のブルーアンバー(英語版)。青い波長のない光の下では普通の琥珀に見えるが、太陽光では青く見える。
アジア
日本の岩手県久慈市近辺[22]。他には福島県いわき市や千葉県銚子市などで産出される。中国各地やミャンマー。インドネシアでは青色の琥珀も見つかっている。
中央アメリカ
ドミニカ共和国、メキシコ合衆国。ドミニカ産琥珀(英語版)には、歴史が新しめの熱帯林由来であるため虫や小型爬虫類などが入っている場合が多く、赤や黄色を帯びているものもあるが、有機物質のペリレン由来の青色も存在する[23]
歴史
琥珀色
amber
16進表記#FFBF00
RGB(255, 191, 0)
HSV(45°, 100%, 100%)
マンセル値0.5Y 8/14(?)
表示されている色は一例です
なお、JIS慣用色名や絵の具の色名などでアンバーを冠する「アンバー」「バーント・アンバー」「ロー・アンバー」等は、土壌由来の顔料「アンバー(英: umber)」に由来する茶系の色で、英単語としても別語である。
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 生物遺体のDNA情報は521年に半分の割合で欠損するという研究がある。