珪肺
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珪肺
概要
診療科呼吸器学
分類および外部参照情報
ICD-10J62
ICD-9-CM502
DiseasesDB12117
MedlinePlus000134
eMedicinemed/2127
MeSHD012829
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珪肺

珪肺または硅肺(けいはい、Silicosis、Potter's rot)は、結晶シリカケイ酸)粉塵を吸入することで生じる職業性肺疾患の一種で、結節をともなう肺上葉の炎症と瘢痕を特徴とする。塵肺の一種に分類される。珪肺症、硅肺症、珪粉症、硅粉症などともいう。古くは「よろけ」と呼ばれた[1]

特に急性のものは、呼吸困難発熱チアノーゼを特徴とする。しばしば肺水腫肺炎結核と誤診されることがある。

silicosis(ラテン語silex「火打石」より)という語は1870年にアキッレ・ヴィスコンティによって初めて用いられたが、粉塵を吸い込むと呼吸器に問題を起こすことは古代ギリシアローマ時代から知られていた[2]。16世紀半ばにはゲオルク・アグリコラが粉塵吸入による鉱夫の肺病について記録しており、1713年にはベルナルディーノ・ラマッツィーニが、石切職人に気管支喘息様の症状がみられ、肺には砂のようなものがたまっていたと書き記している。産業機械の発達により、手作業の時代と比べ発生する粉塵の量は増大し、1897年の手持ち削岩機の使用開始と1904年頃のサンドブラスト導入[3]は、ともに珪肺有病率増加の大きな要因となった。
分類

珪肺は、疾患の重症度(X線画像による診断を含む)、発症までの期間、進行の速さによって以下のように分類される[4]
慢性単純性珪肺(chronic simple silicosis)
通常、比較的低濃度のシリカ粉塵への長期(10年以上)曝露の結果、最初の曝露から一般的には10 - 30年後に発症する[5]。最もよくみられるタイプの珪肺である。慢性単純性珪肺に罹患した患者は、特に初期のうちははっきりとした徴候や症状を示さないこともあるが、X線により異常が見つかることがある。慢性の咳や運動時の呼吸困難が一般的な所見である。慢性単純性珪肺ではX線画像により、通常丸みを帯びた多数の小陰影(直径10mm未満)が特に上肺部に顕著に認められる。
加速性珪肺(accelerated silicosis)
高濃度のシリカ粉塵に最初に曝露してから5 - 10年後に生じる珪肺。症状やX線所見は慢性単純性珪肺に似ているが、発症は慢性単純性珪肺より早く、進行も早い傾向にある。加速性珪肺の患者は進行性塊状線維症(PMF)などの合併症のリスクが大きい。
複雑性珪肺(complicated silicosis)
進行性塊状線維症(PMF)が重症化、瘢痕化すると複雑性珪肺となる。集合珪肺(conglomerate silicosis)ともいう。複雑性珪肺では微細結節が徐々に癒合し1cm以上の大きさになる。単純性珪肺と比べPMFは重症化し、より深刻な呼吸障害を伴う。結核、非結核性抗酸菌症、真菌症、ある種の自己免疫疾患肺癌など他の肺疾患によって複雑性珪肺になることもある。複雑性珪肺は慢性珪肺よりも加速性珪肺に多くみられる。
急性珪肺(acute silicosis)
高濃度の吸入性シリカ粉塵に曝露後、数週間から5年で発症する。シリカ蛋白症(silicoproteinosis)とも呼ばれる。急性珪肺の症状として、身体への影響が深刻な重症の息切れ、咳、衰弱、体重減少がより短期間であらわれ、ときに死に至る。X線画像は通常、スリガラス様陰影の気管支含気像を伴うびまん性肺胞充満を認め、肺炎肺水腫、肺胞出血、肺胞細胞肺癌に似る。
徴候と症状

慢性珪肺の進行は緩慢なため、曝露から徴候や症状の発現までには数年かかることもある[6]。徴候・症状には以下のものがある。

呼吸困難:激しい運動によってさらに悪化

多くは持続性でときに重度の咳

疲労

頻呼吸:多くは努力性呼吸

食欲不振と体重減少

胸痛

発熱

のひび割れ:はじめは小さく黒いひびができ、爪床部の蛋白繊維破壊に伴って徐々に拡大する

進行例では以下の症状がみられることがある

チアノーゼ

肺性心右心室の心疾患)

呼吸不全

珪肺患者には特に珪肺結核と呼ばれる結核感染が起きやすく、発症率は通常の3倍になる。リスク増大の理由についてはよくわかっていないが、シリカが肺のマクロファージを傷つけることで、マイコバクテリウム属を殺傷する能力を損なうのではないかと考えられている。長期にわたってシリカ曝露を受けた労働者で珪肺には罹患していない者の結核感染リスクは、通常の3?5倍の高さを示す[7]

珪肺に合併する肺疾患にはほかに気流制限を伴う慢性気管支炎(喫煙によるものとの鑑別は困難)、非結核性マイコバクテリウム感染症、肺真菌症、代償性気腫、気胸などがある。特に急性珪肺、加速性珪肺において、腎炎、全身性強皮症全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患と珪肺との関連性を示すデータもある。

1996年、国際がん研究機関(IARC)により医学データの検討が行われ、結晶シリカは「ヒトに対して発癌性がある」物質に分類された。癌の発症リスクは、珪肺を基礎疾患に持ち、肺癌の相対リスクが2?4倍の患者においてもっとも高かった。


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