獣の戯れ
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獣の戯れ
訳題The Frolic of the Beasts
作者
三島由紀夫
日本
言語日本語
ジャンル長編小説
発表形態雑誌連載
初出情報
初出『週刊新潮1961年6月12日号-9月4日号
刊本情報
出版元新潮社
出版年月日1961年9月30日
装幀東山魁夷
挿絵東山魁夷
総ページ数207
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『獣の戯れ』(けもののたわむれ)は、三島由紀夫長編小説。全5章から成る。3人の男女の間に生まれた奇妙な愛と、その共同生活と終局への決断が、西伊豆の村の豊かな自然や花を背景に高雅なタッチで描かれた物語。扇情的なタイトルとは裏腹に、静寂的な作品となっている[1]1961年(昭和36年)、週刊誌『週刊新潮』6月12日号から9月4日号に連載され(挿絵:東山魁夷)、同年9月30日に新潮社より単行本刊行された[2][3][注釈 1]。文庫版は1966年(昭和41年)7月10日に新潮文庫より刊行された[3]。翻訳版は、イタリア(伊題:Trastulli d’ animali)、イギリス (英題:The Frolic of the Beasts)、中国(中題:獣之戯)などで行われている[6]。1964年(昭和39年)5月23日に若尾文子の主演で映画化されている[7][8]

静岡県賀茂郡賀茂村(現・西伊豆町)の黄金崎公園には1973年(昭和48年)6月10日に建立された『獣の戯れ』の文学碑があり、沼津港から定期船に乗り黄金崎の断崖の下を通過する際に見た景観を描写した作中の一節が刻まれている。揮毫平岡梓[9][10]
あらすじ

2年の刑期を終え、幸二は草門優子の待つ西伊豆へ船でやって来た。2年前、大学生だった幸二は、草門逸平・優子夫婦の営む銀座の西洋陶磁店でアルバイトをしていた。幸二と同大学の独文科出身の逸平は家業の店を経営する一方、訳書や評論などを書いたこともある知的ディレッタントで、また退廃した遊び人でもあった。

何もかも恵まれた末に腐敗した逸平は、全くやきもちを示さない妻・優子への腹いせにヒステリックに浮気を重ねていることを幸二に語った。血気さかんな幸二は優子へ恋心を寄せた。実は優子は興信所に調べさせ、夫の浮気を全て知っていて苦しんでいたが、このことだけは主人に言わないでほしいと幸二に頼んだ。

優子と逸平の煮え切らない関係に苛立ちを覚えた幸二は、逸平が愛人と密会しているアパートへ優子を連れて行った。幸二は優子と待ち合わせた場所に落ちていたスパナを上着の内ポケットに入れていた。逸平が待ち望んでいた優子の嫉妬の行動にもかかわらず、彼の斜にかまえた冷静な態度に幸二は失望した。そして、慟哭して夫にすがろうとする優子に冷たく平手打ちをした逸平に向かって、幸二はその頭をスパナで殴打した。

それ以来、逸平は失語症と右半身麻痺の身体になり、幸二は傷害罪服役していたのだった。その間、優子は銀座の店をたたみ、知り合いの園芸会社の伝手で、西伊豆の伊呂村(安良里)に、花の温室を建てて草門園芸を営み始めた。そして、出所し身寄りのない幸二を引き取り、そこで3人の暮らしが始まった。

逸平は言葉が不自由になっただけでなく人格も変ったようになり、諦観したかのような微笑を常にしていた。自然に囲まれ、充実した仕事ぶりの幸二だったが、しだいに叶えられない優子への愛に満たされぬ思いを抱いた。幸二は、村に帰省した喜美という浜松の楽器工場で働いている娘を抱いた。喜美の父親は草門園芸で園丁をしている使用人の定次郎だったが、幸二は定次郎から、喜美が家出をした理由を聞かされ驚愕した。定次郎は娘を強姦したのだった。

町に帰る喜美が幸二に挨拶に来たときに、優子が示した嫉妬のような態度に幸二は喜び、その夜、自分の寝床近くにやって来た優子を抱こうとした。優子は主人がやって来ると言い、むしろ逸平の目にさらされることを望んでいたが、幸二は断固としてそれを拒んだ。逸平がゆっくり階段を上って来た。そして隣の客間で優子に、明日からここで寝たいと言った。後日、幸二は散歩の折に、自分たちを支配している達観したような空っぽな逸平に、あんたは何を望んでいるのか、と詰問した。逸平は、「死。…死にたい」と言った。

幸二と優子が逸平を絞殺する事件の数日前、3人は港の向う岸へ出かけ、仲良く一緒に写真を撮った。その写真は日頃、彼らと親交のあった泰泉寺の住職の覚仁和尚に預けられていた。幸二と優子が自首する前も2人は住職に、どうか3人のを並べて建ててほしいと懇願して行った。幸二は死刑が確定し、その約1年半後に刑死した。

逸平の墓の左隣りに優子の寿蔵、そのさらに左隣りに幸二の墓が建てられた。その墓の写真を見た無期懲役の優子は、面会に来た住職の使いの民俗学者に、「本当に私たち、仲が好かったんでございますよ。私たち3人とも、大の仲良しでした。和尚さんだけが御存知でした」と言った。
登場人物
幸二
2年間は快活で激しやすい21歳の青年。親も兄弟も親戚もなく、親の遺産で大学に通っていた。草門逸平の経営する銀座の西洋陶器の店でアルバイトをし、草門夫婦と知り合う。
草門逸平
大学の独文科を卒業後、私大の講師を務めたりしたのち、親の遺業をついで銀座の西洋陶器の店を経営していた。芸術愛好家で、
ホーフマンスタールシュテファン・ゲオルゲの訳書や評論本を出したこともある。痩せた白い腕。イタリア製の絹のシャツとネクタイを身につけていた伊達者。2年間の40歳の時、幸二に殴打されて右半身麻痺の失語症となる。
草門優子
逸平の妻。丸顔で大まかな花やかな顔立ち。


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