獄門島
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獄門島
著者横溝正史
発行日1971年3月30日
ジャンル小説
日本
言語日本語
ページ数353
コードISBN 4041304032
ISBN 978-4041304037(文庫本)

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『獄門島』(ごくもんとう)は、横溝正史の長編推理小説、および作品中に登場する架空の島。「金田一耕助シリーズ」の一つ。1947年昭和22年)1月から1948年(昭和23年)10月まで、雑誌『宝石』に17回連載された。俳句を用いた見立て殺人を描いている。

横溝作品のみならず、国内ミステリー作品の最高峰と位置づけられている(後述の#作品の評価参照)。

本作を原作とした映画2作品・テレビドラマ5作品・舞台1作品が制作されている(2016年11月現在)。
概要

『獄門島』は『本陣殺人事件』に引き続いて雑誌『宝石』に連載されたもので、「金田一耕助シリーズ」ものとしては2番目の作にあたる。本作は金田一耕助の復員直後という時代設定になっており、作品世界としては時間的に『百日紅の下にて』の後ということになるが、執筆は『本陣殺人事件』の次である。作者は、欧米探偵小説の童謡殺人事件、特にヴァン・ダインが『僧正殺人事件』で描いたマザーグースに基づく連続殺人事件のようなものを書きたい、と考えていたが、二番煎じと批判されると諦めていたところ、アガサ・クリスティーが『そして誰もいなくなった』で同じようなことをやっているので、自分もやってみようと思い立ったと述べている[1]。俳句を用いたのは、それに代わる童謡が日本では見つからないからであったが[2]、それでも、童謡殺人を書きたいという思いは捨てきれず、それが『悪魔の手毬唄』につながったという[3]

作品全体に敗戦直後の混乱が描かれるのも1つの特徴で、復員詐欺、ラジオ番組の「復員だより」、「カムカムの時間」などと言った話題があちこちにみられる。

また、事件の内容は、歌舞伎『京鹿子娘道成寺』と関係があり、三姉妹の母親であるお小夜(既に故人)が『娘道成寺』を得意とする旅役者だったことが語られる他、第1被害者・花子は『娘道成寺』に登場する白拍子の名前であり、第2被害者・雪枝は『娘道成寺』の主要テーマである釣鐘の中で発見され、最後の被害者・月代は白拍子のような装束で殺害されており、さらに、被害者の死因は総じて日本手ぬぐいによる絞殺であるが、これも『娘道成寺』での小道具の1つである手ぬぐいと符合する。

この作品のヒロイン鬼頭早苗は、金田一耕助が生涯愛した女性の1人として知られる。金田一は獄門島を離れる際、早苗に東京へ出る気はないかとプロポーズとも取れる言葉を掛けている。しかし、早苗は「いいえ、あたしはやっぱりここに残ります。(中略)もうこれきりお眼にかかりません。」と島に残る決意を固めており、金田一は振られてしまうという結果に終わっている[注 1]

発表当初より高い評価を受けた本作は、後の本格推理派作家などに大きな影響を与えている。また戦後たびたび行われたミステリーランキングの国内部門では圧倒的にベスト1の回数が多い。横溝自身も週刊誌のアンケートで自作から本作を挙げている。

なお、金田一耕助の登場は前作『本陣殺人事件』だけの予定であったが[4]、『本陣』の連載中に『宝石』の編集長・城昌幸から「次の作品を書け」との依頼があり、新しい探偵を考えるのが面倒という理由で金田一を再登場させることになった[5]

早苗や了然という登場人物名は、本作に先立って執筆された短編『ペルシャ猫を抱く女』[注 2]から本作へと引き継がれたことを中島河太郎は指摘している。
作中に用いられた俳句

鶯の身をさかさまに初音かな (
宝井其角

むざんやな冑の下のきりぎりす(松尾芭蕉

一つ家に遊女も寝たり萩と月 (松尾芭蕉)

ストーリー

終戦から1年経った1946年(昭和21年)9月下旬。金田一耕助は、戦友・鬼頭千万太(きとう ちまた)の訃報を知らせるため、千万太の故郷である瀬戸内海に浮かぶ孤島、獄門島へ向かう船に乗っていた。金田一は、千万太が今際の際に残した「おれが帰ってやらないと、3人の妹たちが殺される…」という言葉を思い出していた。

その前年、千万太は引き揚げ船の中で、来たるべき事件を未然に防ぐため、マラリアのため余命いくばくもない自分の代わりに獄門島に行ってくれるように戦友の金田一に頼んでいた。千万太は金田一が本陣殺人事件を解決した探偵であることを知っていたのである。

金田一は獄門島へ向かう船の中で、戦争中供出されていた千光寺の釣鐘[注 3]が鋳潰されずに返還されることになったことと、出征していた千万太のいとこである一(ひとし)の生存情報を耳にする。 了然和尚像
倉敷市真備町川辺)

獄門島は封建的な因習が残っている孤島で、島の網元である鬼頭家は、本鬼頭(ほんきとう)と分鬼頭(わけきとう)とに分かれて対立していた。千万太は本鬼頭の本家、一は本鬼頭の分家である。

本鬼頭家には、千万太の異母妹である三姉妹、月代・雪枝・花子。そして美しくしっかり者の一の妹・早苗がいたが、当主である千万太の父・与三松は発狂して座敷牢に入れられており、千光寺の住職・了然と村長の荒木真喜平、医者の村瀬幸庵がその後見人となっていた。 千光寺梅の木
(倉敷市真備町岡田846)

それから10日あまり経って釣鐘が戻ってきた同じ日に千万太の正式な戦病死の公報が届き、葬儀が営まれた。その夜、末妹の花子が行方不明となり、了然の指示で捜索が行われたが見つからない。寺に戻ることにした金田一が千光寺の典座・了沢や潮つくり・竹蔵と合流し、提灯を持って先を行く了然の後を追っていたところ、境内に入った了然があわてて3人を呼びつけた。その指差す先を見ると、庭にある梅の古木に足を帯で縛られた花子が逆さまにぶら下げられて死んでいた。金田一は了然が念仏を唱える中「きちがいじゃが仕方がない」とつぶやくのを耳にする。了然が発狂した千万太の父を犯人だと思っているのなら「きちがいだから」であるはずが、なぜ「きちがいじゃが」なのかと疑問を抱く。

翌日、金田一は逗留させてもらっている千光寺で、千万太と一の祖父で本鬼頭の先代・嘉右衛門が揮毫した3句の俳句屏風を目にする。「むざんやな 冑(かぶと)の下の きりぎりす」「一つ家に 遊女も寝たり 萩と月」の2句は読めたが、残る1句が判読できなかった。

残る2人の姉妹も千万太の遺言通りになることを恐れた金田一だが、挙動不審者として清水巡査に留置場に入れられてしまい、その間に次の殺人が起こる。今度は三姉妹の次女の雪枝が首を絞められて釣鐘の中に押し込まれていた。勾留されていたためにアリバイがあり、釈放された金田一は現場に赴き、そこで了然が「むざんやな」の句をつぶやくのを聞く。金田一が釣鐘をテコの原理で持ち上げる方法を実演してみせた後、復員兵の海賊が潜入したとの報告を受けた磯川警部が島を訪れ、金田一と再会する。

花子や雪枝が殺された日、何者かが屋敷や寺に侵入した形跡が見つかる。海賊や殺人犯人の仕業ではないかと目され、山狩りが行われることになった。その最中、金田一は床屋・清公から、三姉妹の母のお小夜は「道成寺」が得意な旅役者で、与三松が見初めて後妻にしたものの先代の嘉右衛門との折り合いが悪く狂死、そのあと与三松もおかしくなり座敷牢に入れられたという顛末を聞く。その直後、復員兵が転落死するが、転落する前に何者かに頭を殴られていた。早苗はその男が兄の一かもしれぬと思い、ひそかに食物を差し入れていたのだが、別人と判明する。その夜、本鬼頭では雪枝の通夜が行われた。三姉妹の長女である月代は白拍子姿となり母から伝授されたという祈祷を行っていたが、祈祷の鈴の音は途中から猫が鳴らしており、月代は絞殺されて辺りには萩の花が撒かれていた。

金田一は、雪枝が殺された日に釣鐘が移動したという目撃情報を聞く。さらに月代がこもった祈祷所を先代が「一つ家」と呼んでいたことを聞かされて、月代の死が「一つ家に」の句の見立てであることに気付き、読めなかった屏風の句が「鶯(うぐいす)の身を逆(さかさま)に初音かな」であること、そして三姉妹はすべて屏風の句の見立てで殺されたことを知る。金田一は獄門島の人間は気がちがっていると興奮し、その瞬間「きちがい」という言葉に関する謎が解ける。

金田一はこの事件に先代の影が差していることから、分鬼頭の当主・儀兵衛に話を聞く。そこで嘉右衛門が見立て遊びを好んだこと、孫息子を2人とも戦争にとられ、忌み嫌っていたお小夜の血が残る本鬼頭の将来を憂い、島の三大長老である住職の了然、村長の荒木、医者の幸庵に何かを託したこと、また彼らも嘉右衛門に同情的だったことを知る。それまで金田一は警察が来たことで自分の素性が知れたと思い込んでいたが、かつて自分が関わった「本陣殺人事件」の新聞記事を村長が読み返しており、それを目撃した助役が儀兵衛にも耳打ちしていたことを知り、彼らがずっと以前から自分の素性を知っていたことに愕然とする。

金田一は磯川警部立会いのもと了然と面談し、一連の殺人事件の真相を語る。花子(と復員兵)は了然、雪枝は荒木、月代は幸庵に殺されたのであり、俳句の見立てによる殺害方法も含めて、すべては死んだ嘉右衛門の差し金によるものであった。了然が念仏を唱えながらつぶやいたのは「季違い[注 4]じゃが仕方がない」であり、「鶯の身を逆に初音かな」は春の句であるのに対し現在は秋で、季節が違うということを指していた。


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