献血
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献血のピクトグラム

献血(けんけつ)とは、輸血血液製剤製造のために無償で血液を提供することである。
概説

代替血液は開発されてはいるが供給に限度があり、輸血は血を使用せざるを得ない。献血制度が整備される以前は売血によって血液の需要を満たしていたが、金銭を得る目的で過度に売血をする者が多数現れ、これらから得られる血液の低質な「黄色い血液」や供血者の健康面で問題が多かった。

「献血」の語は日本赤十字社中央血液センター所長の大林静男博士によって提唱された。クリスチャンの大林は、輸血可能血液量とその復活量の関係とキリスト教会における「什一献金」から発想のきっかけを得た。
安全性

安全性は以前より格段に向上しているが、ウイルス感染ののち一定期間は検出不可な検査空白期間の「ウィンドウ・ピリオド」があり、この期間に献血された血液は検査をすり抜ける。未知の病原体はチェック対象とならない。

HIV感染によるエイズを心配する人が検査目的で献血する例が後を絶たず、輸血を受ける患者の感染リスクが高まったことから、検査結果が陽性でも献血者に通知されず[1]、感染血液は廃棄される。HIVをはじめとした感染症の検査および相談は、保健所や検査センターで、無料かつ、匿名で、住所にかかわらず遠隔地でも受けることができる。日本赤十字社も献血時の問診表に「エイズの検査を受けるための献血ですか」の問いを設けてエイズ検査目的の献血をスクリーニングしている。ポスターなどでも注意を促している。

問診は、服薬・体調・病歴や海外渡航歴などプライバシーに関わることも含まれているため、個室にて行われる。医師が事前検査や問診を通じて献血者保護と血液製剤の安全性が確保できると判断できない場合は、献血ができない場合もある。自己血以外の輸血歴の有無やヒト由来プラセンタの投薬の有無が不明な場合も次回に献血を延期してもらうことがあるため注意が必要である。
血小板献血におけるCD4+リンパ球低下の懸念

成分献血では、白血球を濾過除去して返血する過程がある。この影響により、概ね100?200回以上の血小板成分献血をした者には細胞性長期記憶免疫に肝要なCD4+リンパ球数が200/μl以下になる例が見られる、という報告がここ数年出されている[2][3][4]

しかしこれらの論文でも、「血小板献血をやめるべきである」という意見は一切出されていない.上記いづれの論文でも、下記の注記が付されている。

まず、CD4+リンパ球が200/μl以下であるのが問題になるのはHIV感染者に見られる知見からである。なぜならHIV感染者は、外部から病原体が侵入してもHIVによってCD4+リンパ球の活性化が阻害されるからであり、HIVに感染していない血小板献血者にはそうした懸念が無い。

つまり健常者のCD4+リンパ球が200/μl以下になるのはとりわけ異常とは言えず、それに伴う各種罹患率・死亡率の上昇は報告されていない。

特にコロナ禍以降重視されているワクチンへの免疫獲得という点では、SARS-CoV-2だろうと他の(例えば髄膜炎菌)ワクチンだろうと、血小板献血者とそれ以外の間に差異は見られなかった[5]

ただし、これらの解釈は過去の知見の外挿であり、まだエビデンスであるとは言い難い。成分献血で白血球を除去するのが無害であると完全に結論づけるのは時期尚早であると言えよう[6]
日本における献血献血検診車による献血街頭活動(兵庫県神戸市須磨区名谷駅前)

日本日本赤十字社が全て手がけ、提供された血液は感染症の検査のあと、各医療機関などへ提供される。日本での輸血用血液はもっぱら献血でまかなう。

2005年以前の献血の根拠は1964年の閣議決定だったが、2005年の法改正で「採血及び供血あつせん業取締法」が「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律(血液法)」と名称を変更して大きく改正され、献血事業の主導権は日本赤十字社から厚生労働省に移った。
種類と基準

大別して、血液の成分すべてを採取する「全血献血」と、特定の成分のみを採取する「成分献血」がある[7][8]。基準を満たし同意を得た者は600ミリリットル (mL) の成分献血が可能である[9]

全血献血

200mL献血

400mL献血(条件を満たしていれば、200よりもこちらの400ccにするよう要請される。理由は後述)


成分献血

血小板献血

血漿献血

献血の種類全血献血成分献血
200mL献血400mL献血血漿献血血小板献血
一回当たりの献血量200mL400mL600mL以下[注 1]400mL以下
年齢16 - 69歳.mw-parser-output .plainlist--only-child>ol,.mw-parser-output .plainlist--only-child>ul{line-height:inherit;list-style:none none;margin:0;padding-left:0}.mw-parser-output .plainlist--only-child>ol li,.mw-parser-output .plainlist--only-child>ul li{margin-bottom:0}

男性:17 - 69歳

女性:18 - 69歳
18 - 69歳

男性:18 - 69歳

女性:18 - 54歳

体重

男性:45kg以上

女性:40kg以上
50kg以上

男性:45kg以上

女性:40kg以上

最高血圧90mmHg以上179mmHg以下
最低血圧50mmHg以上109mmHg以下
脈拍40回/分以上100回/分以下
体温37.5℃未満
血色素量

男性:12.5g/dL以上

女性:12.0g/dL以上


男性:13.0g/dL以上

女性:12.5g/dL以上
12.0g/dL以上[注 2]
血小板数規定なし15万/uL以上
年間可能献血回数

男性:6回

女性:4回


男性:3回

女性:2回
24回[注 3]
年間総献血量

男性:1200mL以内

女性:800mL以内
規定なし
次回献血可能日男女とも4週間後

男女とも8週間後(成分献血)

男性:12週間後(全血献血)

女性:16週間後(全血献血)
男女とも2週間後


※全血献血は年間採血量に限度があり、男性では1,200mL・女性では800mL。

※成分献血は年間回数に限度があり、血小板は1回を2回に換算して合計24回。

65歳から69歳の献血は、献血者の健康を考え、60歳から64歳の間に献血経験がある人に限られる。

400mL全血献血および成分献血の実施以前は200mL全血献血のみであった。400mL献血はより多くの血液を1人の献血者から採血することによって、輸血時の発熱・発疹・感染等の副作用低減を期待できる。成分献血は回復に時間を要する赤血球を献血者に戻すため、全血献血に比べてより多くの血小板や血漿を採血可能となる。献血をする側の身体や臓器への負担は200mL献血もしくは成分献血が比較的軽いが、400mL献血であっても日常生活に支障はなく、健康体であれば身体的に害はない。

成分献血はいったん全血を採取し、遠心分離機で得た必要な成分を回収したあと、遠心分離機内で抗凝固薬クエン酸ナトリウム)を混ぜた残りの血液を体内に返血する手順を複数回(おもに3、4回。機械・体調などにより決定)繰り返す。そのため採血に時間がかかる(30 - 90分)。

上記の条件や採血設備、血液の需要、所要時間などが考慮されたうえでいずれかの献血への協力を要請されるが、決定は献血者の意思が優先される。通常、成分献血が可能であれば成分献血を勧められ、不可能な場合も400mLが可能であれば400mLを勧められる。成分献血で血小板献血・血漿献血の別は、献血者に知らされないこともある。学校や会社などによる献血の場合は、全血献血が行われることが多い[注 4]

血小板献血で採血に血漿を含まないときは、1週間後に血小板成分献血が可能になる。ただし4週間に4回実施した場合は次回までに4週間以上空けなくてはならない。血小板は採血してから保存可能期間が採血後4日間と短く、当日の血小板採血予定量を超えた場合に成分献血は血漿のみになることもある。

血小板成分献血は、通常1人から10単位血小板+血漿を採血するが、血小板数が多い献血者は「高単位血小板献血」を依頼される場合があり、20単位の血小板を採血することがある。この場合、まれにクエン酸反応で、唇のしびれ・寒気などが出現することがあり、予防としてカルシウム入りの菓子飲料が提供される。

2011年4月1日より、男性のみ400mL全血献血の対象年齢が18歳から17歳に引き下げられ、男女とも18歳から54歳に限定されている血小板成分献血は、男性のみ上限を69歳に引き上げた[10]

2018年4月1日から「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律施行規則」が一部改正され、献血における1年間の算定方法が「365日」から「52週(364日)」に変更された[11]

2020年9月1日に「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律」が改正され、献血者の健康診断基準(最高血圧の上限・最低血圧の上下限・脈拍数・体温)が新たに定められた[12][13]
献血の方法日本における街頭献血の様子(神戸市名谷駅前)
準備

献血にまず必要なものは自信を持って「標準的な範囲で健康」であると言える肉体である。そのうえで、初回の献血時もしくは2004年10月1日以降に血液センター身分証明書の提示がない場合、もしくは献血カードの献血履歴の血液センター名の右側に「1」、2006年10月1日のカード移行後に献血していない場合や、献血手帳に「確認1」、がそれぞれ記載されていない場合、献血者の本人確認のために身分証明書の提示を求める。


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