狼男
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この項目では、オオカミの姿をした獣人について説明しています。1941年公開の映画については「狼男 (1941年の映画)」をご覧ください。

「人狼」はこの項目へ転送されています。人狼と略されるゲームについては「人狼ゲーム」を、その他の「人狼」については「人狼 (曖昧さ回避)」をご覧ください。
狼男 1722年のドイツの木版画より

狼男(おおかみおとこ)は、獣人伝説の生物)の一種で、または半狼半人の姿に変身したり、狼に憑依されるなどした人間男性である。同様の女性は狼女(おおかみおんな)で、男女を特定せず狼人間(おおかみにんげん)・人狼(じんろう)ともいう。
呼称「狼人間」となったリュカオーン(16世紀の画)

ウェアウルフ(英語: werewolf)、ワーウルフ(同)、ヴェアヴォルフ(ドイツ語: Werwolf)、ライカンスロープ(lycanthrope)、リカントロープ(同)、ルー・ガルー(フランス語: loup-garou)、ヴィルカシス(ラトビア語: Vilkacis)、ウルフマン(wolfman、現代の創作作品に限定されて用いられる)などとも呼ばれる。これらは語源的には男性を意味する語だが、男女を問わず使うことが多い。その起源は東ヨーロッパとされる。北欧神話にもウールヴヘジンと呼ばれる狼に由来した戦士がおり、ベルセルク(バーサーカー)と同種と言われ、狼男の伝説にも影響を与えている。
語源

ウェアウルフ(werewolf)のウェア(were-)は人間の男性を意味する古英語 wer に由来し、ラテン語: vir(ウィル、男)と同源の語である。ちなみに人間の女性を意味する古英語のwifeは後にを意味するようになった。ドイツ語Werwolfも同様(ただし、このwerの語源を古ノルド語vargr(犯罪者、追放者)とする説もある[1])。現代では were が獣人の意味で使われることがあるが、それはwerewolfからwereを取り出した逆成にもとづく。ウルフ(wolf)は狼なので、ウェアウルフは直訳すれば「男狼」である。なお、wereに対応する女性を意味する語はワイフ(wife)だが、ワイフウルフ(wifewolf)という語はなく、ウェアウルフが男女の区別なく用いられる。

ライカンスロープ(lycanthrope)はギリシア語のリュカントロポス(λυκάνθρωπος, lykanthropos)で、これは、狼を意味するリュコス(λύκος, lycos)と、人間を意味するアントローポス(άνθρωπος, anthropos)から来ている。つまり、直訳すれば「狼人」である。

ルー・ガルーにはloup-garou、loogaroo、rugaru、rougarou など多くの綴りがあるが、フランス語: loup-garou が本来の綴りである。ルー(loup)は狼、ガルー(garou)は古くは garulf で、これは古フランク語の warwolf に由来し(古フランク語のwはフランス語に借用されるとgに変わったり消滅したりする)、これ自体が werewolf と同起源の言葉である。つまり、本来はガルーだけで狼男を意味する。

これら狼と人の結合が意味した単語は、元々は人喰いを好むオオカミを指す言葉であった。それが伝承の影響によってオオカミに変身する人間の意味に変化したと考えられている[2]
歴史紀元前460年頃のドロンを描いたアッティカ赤像式レキュトスルーヴル美術館所蔵。

ヘロドトスの『歴史』(IV, 105)にあるネウロイ人(Νευροι)についての一年に一度狼になるという記述や、医学的な記述としてはローマ帝国末期に人が獣化する現象が初めて「症候群」として紹介され、ギリシア神話ゼウスリュカーオーン王をオオカミに変身させる話についても言及された。なお、プリニウスは、『博物誌』の中で狼男の記述をしているものの、彼自身は「狼に変身し、その後元の姿に戻る人間があるということ程、出鱈目なものは無い」と断言している。

また旧約聖書ダニエル書』には、ネブカドネザル王が自らを狼であると想像して7年間に及んで苦しむ話がある。ヴェンデル時代(英語版)のオオカミの毛皮を着た戦士の描写(動物の戦士(ドイツ語版))

宗教学的には、古代東ヨーロッパ地方のバルト・スラヴ系民族における「若者の戦士集団が狼に儀礼的に変身する」という風習(熊皮を着た狂戦士=ベルセルク)が、時代が下るにつれて民間伝承化されたものであると考えられている。バルト地方における獣人化伝承に取材した初期の小説として、プロスペル・メリメによる「狼男」ならぬ「熊男」(Lokis)がある。クマもギリシア神話における女神アルテミス及びその侍女カリストークマへの変身が結び付けられるなど、変身譚と結びつきの強い動物である。

また、エスキモーには「クマの毛皮には魔力があり、クマは家の中で毛皮を脱ぐと人間と同じ姿となる。反対に人間が家の外でクマの毛皮を身に付けると、たちまちのうちにクマに変身してしまう」という伝承を伝える部族がある[3]末期のナチスドイツで組織されたゲリラ隊「人狼団」の旗

更に民衆の間では狼男は森や畑を荒らしたりそこに立ち入る人間を襲撃する悪しき存在として捉えられる例がある一方で、フリウーリリヴォニアでは収穫の稔りを狙う悪魔や魔術師と戦って豊穣を取り戻す狼男・狼女の伝説(前者の地域では「ベナンダンティ」(Benandanti)と呼ばれた)が伝わっている。これは古来の農耕儀礼の伝承という側面と同時に魔女狩りの担い手であるエリート層に対する民衆の文化的抵抗と見ることも可能である。

東アジアや南北アメリカにおいては獣人化現象は自身の神聖な血筋と関連付けられることが多く、ヨーロッパのような恐怖や禁忌の対象ではない。モンゴル人の狼祖伝説、トルコ人の狼祖伝説(アセナ)、苗人の犬祖伝説(槃瓠)など、いずれも「狼の血筋」を持つことは彼らの民族的な誇りの源となっている。アラスカからカナダ、合衆国にかけ、インディアン民族には狼の氏族(クラン)を持つ部族も多く、トンカワ族を始め、部族名そのものが「狼」を意味するものもある。

日本では、狼祖伝説そのものは極めて希少であるが、オオカミの日本語による名称そのものが「大神」を意味し、モンゴルにおけるそれと同様に神性と知性の象徴として畏敬され、三峯神社など少なくない神社において祭神とされている。

ヨーロッパでは世俗のあいだで古くから変身譚が信じられていたが、中世の初期までのキリスト教では、神が関与しなくても変身が起こることを信じる者は不信心の徒である、として、公会議などで変身という概念そのものを公式に否定している[4]。しかし、中世後期に異端が問題になるにつれ、異端者と人狼が関連付けられて考えられるようになった[4]神学者たちは、獣人化現象を悪魔の仕業であるとして強く恐れた。特にオオカミは中世の神学においては、その容姿から悪魔の化身であると解釈された。13世紀のフランスにて動物誌の著作を書いたピエール・ド・ボーヴェル(Pierre de Beauvais)は、「オオカミの前半身ががっしりとしているのに後半身がひ弱そうなのは、天国で天使であった悪魔が追放されて悪しき存在となった象徴」であり、更に「オオカミは頸を曲げることが出来ないために全身を回さないと後ろを見ることが出来ないが、これは悪魔がいかなる善行に対しても振り返ることが出来ないことを意味している」と解説している。「狼人間」。ルーカス・クラナッハの木版画(1512年、ドイツ)

中世のキリスト教圏では、その権威に逆らったとして、「狼人間」の立場に追い込まれた人々がいた。その傾向は魔女審判が盛んになった14世紀から17世紀にかけて拍車がかかった。こういった者たちも、狼人間の原型と考えられる。墓荒らしや大逆罪・魔術使用は教会によって重罪とされ、その容疑などで有罪とされた者は、社会及び共同体から排除され、追放刑を受けた。この際、受刑者は「狼」と呼ばれた[5]

当時のカトリック教会から3回目の勧告に従わない者は「狼」と認定され、罰として7年から9年間、月明かりの夜に、狼のような耳をつけて毛皮をまとい、狼のように叫びつつ野原でさまよわなければならない掟があった(当時のフランスでは彼らを見て「狼人間が走る」と表現した)。人間社会から森の中に追いやられた彼らは、たびたび人里に現れ略奪などを働いた。時代が下るとこれが風習化して、夜になると狼の毛皮をまとい、家々を訪れては小銭(2スー[6])をせびって回るような輩が現れた[5]


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