狂つた一頁
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狂つた一頁
A Page of Madness
「笑いの面」をつけて踊る踊り子(演:南栄子
監督衣笠貞之助
脚本

川端康成

衣笠貞之助

犬塚稔

沢田晩紅

原作川端康成
製作衣笠貞之助
出演者

井上正夫

中川芳江

飯島綾子

撮影杉山公平
製作会社

新感覚派映画聯盟

ナショナルアートフィルム社[1]

公開

1926年9月24日

1975年4月27日(ニュー・サウンド版)

上映時間

79分(サイレント版、18fps[2][3]

59分(ニュー・サウンド版、24fps)[2][3]

製作国 日本
言語日本語サイレント、無字幕)
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『狂つた一頁』(くるったいちぺいじ[4]小書き表記:『狂った一頁』)は、1926年(大正15年)9月に公開された日本サイレント映画である。監督は衣笠貞之助、主演は井上正夫。衣笠が横光利一川端康成などの新感覚派の文学者と結成した新感覚派映画聯盟の第1回作品で、日本初の本格的な前衛映画(アヴァンギャルド映画)である[5]精神病院を舞台に、過去の心的外傷で精神を患い入院した妻を見守るために、その病院で小使として働く老人を主人公とする家庭悲劇の物語が、過去と現在、幻想と現実、狂気と正気を交錯させながら展開される[6]

物語は松沢病院を見学した衣笠の発案によるもので、川端、衣笠、犬塚稔、沢田晩紅の4人の共同で脚本が作成され、撮影終了後に川端名義でシナリオが雑誌上に発表された。衣笠がプロデューサーを兼任した自主製作映画として作られ、撮影は1926年(大正15年)5月に松竹下加茂撮影所を借りて行われた。同年9月に新宿武蔵野館などの洋画専門館で封切られ、映画評論家や識者から高い評価を受けたが、興行的には失敗した[7][8]。新感覚派映画聯盟は本作を残しただけで解散したが[7][8]、本作はその後の横光や川端のいくつかの作品描写や文体に影響を与えた面もあった[9][10]

1920年代のヨーロッパの前衛映画運動の潮流と呼応する作品であり、『カリガリ博士』(1920年)などのドイツ表現主義映画(英語版)や、フランス印象主義映画(英語版)から強い影響を受けている[5]。光と影のコントラストを強調した表現主義的な照明、短いショットをリズミカルにつなぐ手法のフラッシュ、フラッシュバック、オーバーラップ(英語版)、クローズアップ多重露光などの映画的技法が駆使され[5][11]、純粋な映像だけによる表現が追求されている。映像の純粋性をねらう横光の提案により、サイレント映画でありながら全編が無字幕となっているが、実際の上映には活動弁士の説明が伴っていたため、映像の純粋性を保持することはできず、その点は公開当時に識者から批判された[12][13]

公開後、本作は長らく失われた映画と考えられていたが、1971年(昭和46年)正月に衣笠の自宅の蔵から偶然フィルムが発見された[6]。衣笠は自らこれを再編集し、新たに伴奏音楽を付けた「ニュー・サウンド版」を製作し、1975年(昭和50年)10月に岩波ホールで一般公開された[6]。フィルムの発見以後、フランスイギリスアメリカなどの欧米各国でも上映されており、国際的にも高い評価を受けている。今日まで多くの映画史研究者により、世界映画史における記念碑的作品として認められ[5]、多くの国々の映画界でよく知られている作品である[14]
ストーリー『狂つた一頁』の本編動画。

参照:[15][16][17][18]

深夜の精神病院。外では激しい雨が降る中、女性患者の踊り子は何かに取り憑かれたように踊り続けている。この病院で小使として働く老人は鉄格子の付いた病室の前にたたずみ、ひとりの狂人の女性を見つめている。この女性は小使の妻であるが、狂気のせいで夫を識別することができない。小使は元船員で、長い航海生活で家庭を顧みず、そのせいで妻は孤独にさいなまれ、幼い子供と投身自殺を図ったが、子供だけ死なせて生き残ったことから発狂し、この病院に収容された。老人は自責の念にかられ、妻を見守るためにこの病院で働いているのだが、病院の人たちは全員、彼が患者の夫であるということを知らない。

翌朝、夫妻の娘が縁談を報告するために病院を訪ねるが、そこで自分の父親が病院で働いていることを知り、驚愕と怒りを覚える。娘は病室へ向かうが、何の反応もない母に失望し、母を狂わせた父を許す気にもなれずに病院を去る。病院では朝の診察が行われ、小使は妻を診る医師に彼女の容態を聞くが、相手にされない。一方、娘は病院に戻り、門番の少年に小使のことを聞く。小使は娘と再会し、過去の仕打ちに対して許しを請い、結婚について尋ねる。朝の散歩を許された妻は、芝生を歩きながら静かに空を眺め、小使と娘は少し離れたところから妻の姿を見守るが、突然患者のひとりが娘に襲いかかろうとし、娘は走って病院を抜け出す。

このあと、病院では患者の踊り子がふたたび踊り出し、それを見た他の患者たちが興奮して騒ぎ出し、看守や看護婦たちが患者たちを連れ戻そうとする。そのさなかにひとりの狂人が小使の妻を誤って殴り、激昂した小使と大喧嘩となり、小使は医師に叱責される。昼、うたた寝をした小使は、街の福引きで一等賞の箪笥を引き当て、娘の婚礼のお祝い品ができたと喜び、娘が嬉しそうに父に飛びつくという幻想を見る。昼食の時間のあと、娘が父のもとを訪ね、結婚の話は母親が狂人だと判明して崩れかけていると言うが、小使は結婚を断念するよう諭したため、娘は反抗的な態度で出て行ってしまう。

その夜、小使は妻を病院から脱出させようと図り、人目を避けて妻を病室から連れ出すが、妻は暗闇を怖がって病室へ戻ってしまう。小使は看守の足音に気付き部屋へ逃げるが、その時に扉の鍵を落としてしまう。その後、小使はふたたび妻を連れ出そうとする幻想を見る。その幻想では、小使が院長や狂人たちを殺し、そこへ花嫁衣装を着た娘と花婿然とした狂人の乗る自動車が駆けつけ、妻が車の前に立ちはだかると、娘は夫に母親の姿を見せまいと努め、さらに殺されたはずの院長たちが霊柩車に乗り込むといった、悪夢のような状況が繰り広げられる。続けて小使は、狂人や妻の顔に次々と「笑いの面」(能の面など)をかぶせ、自身にも面を付けるという幻想を見る。翌朝、妻は安らかに眠り、踊り子もいつものように踊っている。鍵を失くした小使は妻の顔を見に行くことができなくなり、いつものように黙々と廊下を掃除する。
キャスト

特記がない限りは本編(ニュー・サウンド版)のクレジットに基づく[19]

小使:井上正夫

妻:中川芳江

娘:飯島綾子

青年:根本弘

医師:関操

狂人A:高勢実

狂人B:高松恭助

狂人C:坪井哲

踊り子:南栄子


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