特異ホモロジー
[Wikipedia|▼Menu]

数学の一分野である代数トポロジーにおいて、特異ホモロジー (singular homology) とは位相空間 X の代数的不変量(英語版)のある種の集合、いわゆるホモロジー群 (homology group) H n ( X ) {\displaystyle H_{n}(X)} の研究のことである。直感的に言えば、特異ホモロジーは、各次元 n に対して、空間の n 次元の穴を数える。特異ホモロジーはホモロジー論の例である。これは今では理論のかなり大きな集まりに成長している。様々な理論の中で、特異ホモロジーはかなり具体的な構成に基づいているのでおそらく理解するのが容易なものの1つである。

手短に言えば、特異ホモロジーは標準単体から位相空間への連続写像の族σをとり、それらから特異チェイン (singular chain) と呼ばれる形式和を作ることによって構成される。単体上の境界作用素は特異チェイン複体を誘導する。すると特異ホモロジーはそのチェイン複体のホモロジーである。得られるホモロジー群はすべてのホモトピー同値な空間に対して同じであり、これがそれらの研究の理由である。これらの構成はすべての位相空間に対して適用することができるので、特異ホモロジーは圏論の言葉で表現できる。そこではホモロジー群は位相空間の圏から次数付きアーベル群の圏への関手になる。これらのアイデアは以下でもっと詳細に説明される。

なお「特異」という言葉はσが必ずしも良い埋め込みである必要が無いが、その像がもはや単体には見えないという”特異性”を強調する意味合いで使われている[1]
特異単体

特異 n-単体 (singular n-simplex) は標準 n-単体 Δ n {\displaystyle \Delta ^{n}} から位相空間 X への連続写像 σ n {\displaystyle \sigma _{n}} である。記号では σ n : Δ n → X {\displaystyle \sigma _{n}:\Delta ^{n}\to X} と書く。この写像は単射である必要はなく、X における像が同じであっても同じ特異単体とは限らない。

σ n ( Δ n ) {\displaystyle \sigma _{n}(\Delta ^{n})} の境界は、 ∂ n σ n ( Δ n ) {\displaystyle \partial _{n}\sigma _{n}(\Delta ^{n})} と表記され、標準 n-単体の面への σ {\displaystyle \sigma } の制限によって表現される特異 (n − 1)-単体の形式和 に向き付けを考慮した符号をつけたものと定義される。(形式和は単体上の自由アーベル群の元である。この群の基底は標準単体のあらゆる像の無限集合である。群の演算は「加法」であり、像 a と像 b の和は通常単に a + b と表されるが、a + a = 2a など。すべての像 a は負 ?a をもつ。)したがって、 σ n {\displaystyle \sigma _{n}} の値域を標準 n-単体 Δ n {\displaystyle \Delta ^{n}} の頂点 e k {\displaystyle e_{k}} によってその頂点 [ p 0 , p 1 , ⋯ , p n ] = [ σ n ( e 0 ) , σ n ( e 1 ) , ⋯ , σ n ( e n ) ] {\displaystyle [p_{0},p_{1},\cdots ,p_{n}]=[\sigma _{n}(e_{0}),\sigma _{n}(e_{1}),\cdots ,\sigma _{n}(e_{n})]}

によって表せば(これはもちろん σ n {\displaystyle \sigma _{n}} によって生み出された標準単体の像を完全には特定しない)、 ∂ n σ n ( Δ n ) = ∑ k = 0 n ( − 1 ) k [ p 0 , ⋯ , p k − 1 , p k + 1 , ⋯ p n ] {\displaystyle \partial _{n}\sigma _{n}(\Delta ^{n})=\sum _{k=0}^{n}(-1)^{k}[p_{0},\cdots ,p_{k-1},p_{k+1},\cdots p_{n}]}

は具体的に示された単体の像の面の形式和である。(つまり、個々の面はその頂点がリストされる順番に依存する Δ n {\displaystyle \Delta ^{n}} の面の指定に適用される σ n {\displaystyle \sigma _{n}} の像でなければならない。)したがって、例えば、 σ = [ p 0 , p 1 ] {\displaystyle \sigma =[p_{0},p_{1}]} の境界( p 0 {\displaystyle p_{0}} から p 1 {\displaystyle p_{1}} へ行く曲線)は形式和(あるいは「形式差」) [ p 1 ] − [ p 0 ] {\displaystyle [p_{1}]-[p_{0}]} である。
特異チェイン複体

特異ホモロジーの通常の構成は次のように進行する。単体の形式和を定義する。これは自由アーベル群の元として理解できる。そしてある種の群、位相空間のホモロジー群を、バウンダリ作用素を含めて、定義できることを示す。

まず位相空間 X 上のあらゆる特異 n-単体 σ n ( Δ n ) {\displaystyle \sigma _{n}(\Delta ^{n})} の集合を考える。この集合は自由アーベル群の基底として使うことができ、各 σ n ( Δ n ) {\displaystyle \sigma _{n}(\Delta ^{n})} はその群の生成元である。単体を位相空間に写像する方法はたくさんあるので生成元のこの集合はもちろん普通は無限で、しばしば非可算である。この基底によって生成された自由アーベル群は一般に C n ( X ) {\displaystyle C_{n}(X)} と表記される。 C n ( X ) {\displaystyle C_{n}(X)} の元は特異 n-チェイン (singular n-chain) と呼ばれる。それらは整数係数の特異単体の形式和である。理論がしっかりした基礎におかれるためには、一般にチェインは有限個だけの単体の和であることが要求される。

境界 ∂ {\displaystyle \partial } はただちに特異 n-チェインに作用するように拡張される。この拡張は、バウンダリ作用素と呼ばれ、 ∂ n : C n → C n − 1 , {\displaystyle \partial _{n}:C_{n}\to C_{n-1},}

と書かれ、群の準同型である。バウンダリ作用素は、 C n {\displaystyle C_{n}} とともに、アーベル群のチェイン複体をなし、特異複体 (singular complex) と呼ばれる。しばしば ( C ∙ ( X ) , ∂ ∙ ) {\displaystyle (C_{\bullet }(X),\partial _{\bullet })} やよりシンプルに C ∙ ( X ) {\displaystyle C_{\bullet }(X)} と表記される。

バウンダリ作用素の核は Z n ( X ) = ker ⁡ ( ∂ n ) {\displaystyle Z_{n}(X)=\ker(\partial _{n})} であり特異 n-サイクルの群 (group of singular n-cycles) と呼ばれる。バウンダリ作用素の像は B n ( X ) = im ⁡ ( ∂ n + 1 ) {\displaystyle B_{n}(X)=\operatorname {im} (\partial _{n+1})} であり特異 n-バウンダリの群 (group of singular n-boundaries) と呼ばれる。

∂ n ∘ ∂ n + 1 = 0 {\displaystyle \partial _{n}\circ \partial _{n+1}=0} であることを示すことができる。そして X {\displaystyle X} の n {\displaystyle n} 次ホモロジー群は剰余群 H n ( X ) = Z n ( X ) / B n ( X ) {\displaystyle H_{n}(X)=Z_{n}(X)/B_{n}(X)}

で定義される。 H n ( X ) {\displaystyle H_{n}(X)} の元はホモロジー類 (homology class) と呼ばれる。
ホモトピー不変性

X と Y がホモトピー同値な2つの位相空間であれば、すべての n ≥ 0 に対して、 H n ( X ) = H n ( Y ) {\displaystyle H_{n}(X)=H_{n}(Y)\,}

である。これはホモロジー群が位相的不変量であることを意味する。

とくに、X が連結可縮空間であれば、 H 0 ( X ) = Z {\displaystyle H_{0}(X)=\mathbb {Z} } を除いて、すべてのそのホモロジー群は 0 である。

特異ホモロジー群のホモトピー不変性の証明の概略は以下のようである。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:33 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef