特定調停
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特定調停(とくていちょうてい)とは、日本の民事調停手続の一種であり、特定債務者の経済的再生に資するためになされる、特定債務者及びその債権者その他の利害関係人の間における利害関係の調整に係る民事調停であって、当該調停の申立ての際に特定調停手続により調停を行うことを求める旨の申述(特定調停法3条1項)があったものをいう(同法2条3項、2項)。

要するに、特定調停とは、借金の返済が滞りつつある借主について、裁判所が、借主と貸主その他の利害関係人(保証人など)との話し合いを仲介し、返済条件の軽減等の合意が成立するよう働き掛け、借主が経済的に立ち直れるよう支援する手続である。このような性質を有するため、民事調停の一種ではあるが、倒産処理手続の中の再建型手続の一種として位置づけられることがある。実際にも、多額の借金を抱える者が破産せずに返済の負担を軽減できる制度として広く利用され、その申立ては2000(平成12)年の特定調停法施行後急激に増加し続けた(特に大阪市の三セク。大阪ドームクリスタ長堀など)。もっとも、2004(平成16)年現在、申立件数は減少に転じつつある。
申立て

特定債務者は、自己に対して金銭債権を有する者その他の利害関係人との間における、金銭債務の内容の変更、担保関係の変更その他の金銭債務に係る利害関係の調整(特定債務等の調整、特定調停法2条2項)に係る調停の申立てをするときは、その申立ての際に、特定調停手続により調停を行うことを求める旨の申述をすることができる(同法3条1項、2項)。

ここにいう特定債務者(とくていさいむしゃ)とは、以下の者をいう(同法2条1項)。
金銭債務を負っている者であって、支払不能(破産原因を参照)に陥るおそれのあるもの若しくは事業の継続に支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することが困難であるもの。要するに、近々支払期日が来る借金を契約どおり支払っていては、最低限度の生活費にすら事欠くとか、運転資金が不足してしまうおそれが強い者である。

債務超過に陥るおそれのある法人

申立人は、申立てと同時に(やむを得ない理由がある場合にあっては、申立ての後遅滞なく)、財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料及び関係権利者(特定債務者に対して財産上の請求権を有する者及び特定債務者の財産上に担保権を有する者。同法2条4項)の一覧表を提出しなければならない(同法3条3項)。非事業者の個人であれば、こうした資料や一覧表は、各地の簡易裁判所が受付相談の際の資料として作成しているひな形を利用すれば、形式を一応整えることができる。
調停のための環境整備
民事執行手続の停止等

特定調停に係る事件の係属する裁判所は、事件を特定調停によって解決することが相当であると認める場合において、特定調停の成立を不能にし若しくは著しく困難にするおそれがあるとき、又は特定調停の円滑な進行を妨げるおそれがあるときは、申立てにより、特定調停が終了するまでの間、特定調停の目的となった権利に関する民事執行の手続の停止を命ずることができる(特定調停法7条1項本文)。
これは、一般の執行停止民事訴訟法398条、民事執行法36条、民事保全法27条など)よりも緩やかな要件で執行停止を認めるものであり、また、特定債務者が立担保の資力に乏しい事案が多いことから、無担保で発令されることも少なくない。

この他、調停委員会又は裁判官は、調停のために特に必要があると認めるときは、当事者の申立てにより、相手方その他の事件の関係人に対して、現状の変更又は物の処分の禁止その他調停の内容たる事項の実現を不能にし又は著しく困難ならしめる行為の排除を命ずることができる(調停前の措置。同法22条、民事調停法12条1項、15条)。
調停前の措置は、執行力強制執行の手続により命令の内容を強制的に実現し得る効力)を有しない(同条2項)とはいえ、無担保で迅速に発令されることから、不渡り及びそれに伴う銀行取引停止処分を回避すべく、手形の取立禁止命令の申立てがしばしばなされる。
調停委員会の組織と権限

裁判所は、特定調停を行う調停委員会を組織する民事調停委員として、事件の性質に応じて必要な法律、税務金融企業財務資産の評価等に関する専門的な知識経験を有する者を指定するものとされている(特定調停法8条)。地方裁判所ごとに管内の各種団体から有識者の推薦を受けて民事調停委員が選任されており、事件ごとに調停委員名簿の中から適宜調停委員会を組織する民事調停委員を指定しているようである。

特定調停においては、当事者は、調停委員会に対し、債権又は債務の発生原因及び内容、弁済等による債権又は債務の内容の変更及び担保関係の変更等に関する事実を明らかにしなければならない(同法10条)。調停委員会は、特定調停のために特に必要があると認めるときは、当事者又は参加人に対し、事件に関係のある文書又は物件の提出を求めることができる(同法12条)。当事者又は参加人が正当な理由なくこの要求に応じないときは、裁判所は、10万円以下の過料に処する。また、調停委員会は、職権で、事実の調査及び証拠調べをすることができる(同法13条)。

後述のように、特定調停においては特定債務者の返済総額を一定の基準に従って圧縮するのが通例であるが、その圧縮計算のために、特定債務者と債権者との間の取引経過を明らかにする必要がある。必要な資料はすべて特定債務者に交付されているはずであるが(貸金業法17条、18条)、実際にはそのほとんどを紛失している特定債務者が多い。このため、調停委員会は、上記の各規定を根拠に、貸金業者に取引経過の開示を要請し、必要な資料の収集に努めている(金融庁事務ガイドライン3-2-7(1)参照)。
関係権利者の参加

特定調停の結果について利害関係を有する関係権利者(特定調停法2条4項)が特定調停手続に参加する場合には、調停委員会の許可を受けることを要しない(同法9条)。
調停の成立・効力
裁判所の関与

特定調停法は、調停委員会や裁判所が公正妥当な調停の成立に向けて積極的に関与することを認めている。

まず、調停委員会が当事者に対し調停条項案を提示する場合には、当該調停条項案は、特定債務者の経済的再生に資するとの観点から、公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容のものでなければならない(同法15条)。
調停委員会は、この意味で適切な内容の合意が成立する見込みがない場合又は成立した合意が適切な内容のものであるとは認められない場合において、裁判所が17条決定(後述)をしないときは、特定調停が成立しないものとして、事件を終了させることができる(同法18条)。例えば、貸主が無登録貸金業者であることが判明したような場合、貸主に債務名義を付与するのは妥当ではないとして、事件を終了させることがある。また、特定債務者が一部の貸主との間で他の貸主に比して極端に有利な内容の合意をしたような場合も、公正ではないとして、事件を終了させることがある。

調停委員会が当事者に対してあらかじめ調停条項案を提示し、出頭することが困難であると認められる当事者(遠隔の地に居住しているなど)があらかじめその調停条項案を受諾する旨の書面(受諾書面)を提出しているときは、その当事者が期日に出頭しなくとも、他の当事者が期日に出頭してその調停条項案を受諾すれば、当事者間に合意が成立したものとみなされる(同法16条)。


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