物質量
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物質量
amount of substance
量記号n
次元N
種類スカラー
SI単位モル(mol)
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物質量(ぶっしつりょう、英語: amount of substance)は、物質の量を表す物理量のひとつ[注 1]である[1]。系の物質量(記号は n)は、特定された要素粒子の数の尺度である[2]。要素粒子(英語: elementary entity)は、原子、分子、イオン、電子、その他の粒子、あるいは、粒子の集合体のいずれであってもよい。

物質量は1971年に国際単位系 (SI) の7番目の基本量に定められた。表記する場合は、量記号はイタリック体の n、量の次元の記号はサンセリフ立体の N が推奨されている[3]。物質量のSI単位はモルであり、単位記号は mol である。熱力学的な状態量として見れば示量性状態量に分類される。
定義

物質量は、要素粒子の個数に比例する。ある物質の物質量を求めるには、まずその物質の要素粒子を指定しなければならない。化学式 X で指定される要素粒子を以下、要素粒子 X と記す。

要素粒子 X の個数を N(X)、アボガドロ定数を NA とすれば、物質量 n(X) は次の式で定義される。

n ( X ) = N ( X ) N A {\displaystyle n(\mathrm {X} )={\frac {N(\mathrm {X} )}{N_{\rm {A}}}}}

物質量のSI単位モルであり、モルの単位記号は mol である。少量の物質の量を表すときは、モルにSI接頭語をつけたミリモル (mmol, 10−3 mol)、マイクロモル (μmol, 10−6 mol)、ナノモル (nmol, 10−9 mol) などの単位が使われる。

N(X) は個数という無次元量であり、n(X) は物質量の次元 N を持つので、アボガドロ定数の次元は物質量の逆数 N−1 となり、その単位はモルの逆数 (mol−1) となる。

NA = 6.02214076×1023 mol?1 である。

また、物質量の歴史および単位の定義については「モル」の記事を参照のこと。
簡単な例
水溶液

容器に入った食塩水中の各物質の物質量を考える。

水の物質量 n(H2O) は、食塩水に含まれる水分子 H2O の数を NA で割ったものに等しい。

水素原子の物質量 n(H) は、食塩水に含まれる水素原子 H の数を NA で割ったものに等しい。1個の H2O 分子は2個の H 原子を含むので、n(H) は n(H2O) の2倍に等しい。

ナトリウムイオンの物質量 n(Na+) は、食塩水に含まれるナトリウムイオン Na+ の数を NA で割ったものに等しい。

塩化物イオンの物質量 n(Cl−) は、食塩水に含まれる塩化物イオン Cl− の数を NA で割ったものに等しい。食塩水にはナトリウムイオンと同数の塩化物イオンが含まれるので、n(Cl−) は n(Na+) に等しい。

塩化ナトリウムの物質量 n(NaCl) は、形式的には、食塩水に含まれる要素粒子 NaCl の数を NA で割ったものとして定義される。しかし、食塩水中には化学式 NaCl で表される粒子は実際には存在しない。なぜなら塩化ナトリウムは、食塩水中ではナトリウムイオン Na+ と塩化物イオン Cl− に分かれて溶けているからである[注 2]。この例のように要素粒子が仮想的な粒子であっても、食塩水中に含まれる塩化ナトリウムの質量 m と後述するモル質量 M(NaCl) とから物質量 n(NaCl) を求めることができる。

合金

ステンレス鋼板に含まれる各元素の物質量を考える。

原子の物質量 n(Fe) は、板に含まれる鉄原子 Fe の数を NA で割ったものに等しい。

炭素原子の物質量 n(C) は、板に含まれる炭素原子 C の数を NA で割ったものに等しい。

クロム原子などの他の元素 E の物質量 n(E) も同様に、板に含まれる原子 E の数を NA で割ったものにそれぞれ等しい。

化学反応

重曹熱分解 2 NaHCO 3 ⟶ Na 2 CO 3 + CO 2 + H 2 O {\displaystyle {\ce {2NaHCO3 -> {Na2CO3}+ {CO2}+ H2O}}}

を考える。熱分解前の重曹の物質量を n(NaHCO3) とする。

ナトリウムイオンの物質量 n(Na+) は、n(NaHCO3) に等しい。n(Na+) は熱分解の前後で変化しない。

炭酸水素イオンの物質量 n(HCO3−) は、熱分解の前は n(NaHCO3) に等しい。熱分解の後は n(HCO3−) はゼロになる。

一般に、化学反応式の係数の比は物質量の比(モル比)に等しい。よって以下のことが言える。

熱分解で発生する水の物質量 n(H2O) は、n(NaHCO3) / 2 に等しい。

熱分解で発生する二酸化炭素の物質量 n(CO2) は、n(NaHCO3) / 2 に等しい。

熱分解後に残る炭酸ナトリウムの物質量 n(Na2CO3) は、n(NaHCO3) / 2 に等しい。

炭酸ナトリウムに含まれる炭酸イオンの物質量 n(CO32−) は、n(Na2CO3) に等しい。よって熱分解前の n(HCO3−) の 1/2 に等しい。

物質の量を表す物理量
粒子の個数と物質量

日常的には、物質の量は「2 Lの水」のように体積で表すか、「5 kgの食塩」のように質量で表すことが多い。しかし、目に見える大きさの物質は、原子分子イオンなどの目に見えないほど小さな粒子(これらの粒子やこれら粒子の組み合わせを物質の要素粒子という)から構成されていて、不連続構造をもつ。そのため、物質の量を、物質を構成する要素粒子の数で表すことも可能である。目に見えるか見えないかくらいの少量の物質でも莫大な数の要素粒子からできているので、要素粒子の個数そのものではなく、要素粒子の個数を非常に大きな定数で割ったもので物質の量を表す[4]。この大きな定数をアボガドロ定数といい、要素粒子の個数をアボガドロ定数で割ったものを物質量という。アボガドロ定数は物質の種類や温度、圧力などにはよらない定数なので、要素粒子の個数と同様に物質量でも物質の量を表すことができる。

例えば、三千(= 3×1015)個の分子からなる物質の量は、物質量で表すと約 4.98 nmol(= 約 4.98×10?9 mol) になる。この関係は分子・原子の種類や温度にはよらない。三千兆個の水分子からなる水の物質量は約 4.98 nmolであり、三千兆個の炭素原子からなるダイヤモンドの物質量も約 4.98 nmolである。また、三千兆個の水分子を含む水蒸気の物質量は、三千兆個の水分子から構成される氷の物質量と等しく、約 4.98 nmolである。

粒子の個数そのものは不連続な離散量であるが、それが莫大な個数なので、物質量は体積や質量と同様に連続量として扱える。つまり、物質量を微分したり物質量で微分したりすることができる[5]。例えば反応速度論において、物質 X の生成速度は物質量の時間微分 dn(X)/dt や物質量濃度の時間微分 d[X]/dt で与えられる。あるいは熱力学において、ギブズエネルギーが温度 T、圧力 p、物質量 n(X1), n(X2),・・・, n(XC) の関数として与えられているとき、ギブズエネルギー G を物質量 n(Xi) で偏微分すると成分 Xi の化学ポテンシャル μi が得られる[注 3]
質量と物質量

物質量は、動力学に基づく量である質量に比例する。物質 X の質量が m であるとき、物質 X の物質量は

n ( X ) = m M ( X ) {\displaystyle n(\mathrm {X} )={\frac {m}{M(\mathrm {X} )}}}

で与えられる。ここで係数 M(X) は物質 X のモル質量である。モル質量 M(X) は要素粒子1個あたりの質量 m/N(X) にアボガドロ定数 NA を掛けたものに等しい。

モル質量は、アボガドロ定数と同様に温度や圧力にはよらないが、アボガドロ定数とは違って要素粒子の種類によって異なる。すなわち、モル質量は要素粒子に固有の定数である[注 4]。モル質量を g/mol の単位で表したときの数値は式量分子量原子量)に等しい。※2019年5月20日の定義変更までは原子量にg/molを付すと厳密にモル質量であったが、再定義以降、モル質量定数は定義定数でなくなり、CODATA2018推奨値では0.99999999965(30) g/molとなった。例えば、水のモル質量は M(H2O) = 18.02 g/mol であり、炭素のモル質量は M(C) = 12.01 g/mol である。したがって、1 gの水の物質量は 55.5 mmolであるのに対して、1 gのダイヤモンドの物質量は約 83.3 mmolとなる。ダイヤモンドの同素体であるグラファイトの要素粒子は、ダイヤモンドと同じく炭素原子である。よって 1 gのグラファイトの物質量も約 83.3 mmolとなる。また、1 gの水蒸気や氷の物質量は、どちらも H2O を要素粒子とする物質なので約 55.5 mmolである。

要素粒子 X のモル質量は、化学式 X と元素の原子量とから計算できる。


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