パストラル(英語: pastoral、フランス語: pastorale、イタリア語: pastorale、パストラーレ)は、形容詞としては羊飼いのライフスタイルや牧畜、つまり季節や水・食糧の入手可能性のために広大な陸地を家畜を移動することを表す言葉である。さらに羊飼いの生活を描いた文学・音楽をも指し、それは非常に理想化されていることが多い。また名詞の「パストラル」は詩(田園詩、牧歌)・美術(田園画)・音楽(田園曲)・ドラマ(牧歌劇)のことを指す。文学の「パストラル」(名詞・形容詞両方)はブコリック(bucolic)とも言う。ギリシャ語の「牛飼い」を意味するブーコロス(βουκoλο?)に由来する言葉で、牧畜の伝統がギリシャ起源であることを反映している。
目次
1 文学
1.1 一般のパストラル文学(田園文学)
1.2 パストラル詩(田園詩)
1.3 パストラル・ロマンス
1.4 パストラル・ドラマ
2 音楽
3 美術
4 関連項目
5 脚注
6 外部リンク
文学では、形容詞の「パストラル」は、田舎の話題、あるいは羊飼い・牛飼いなどの農園労働者にまじっての田園地方での生活を指し、それはロマン主義化ならびに非現実的な手法で描かれることが多い。実際、パストラルな生活は人生の余生よりむしろ最盛期として描かれることが時々ある[1]。典型的なパストラルの雰囲気はクリストファー・マーロウの『若き羊飼いの恋歌』が手本となった。「一緒に暮らそうよ、僕の恋人になって/二人で楽しもう/丘、渓谷、谷、野原/そして岩山がもたらす喜びすべてを/岩の上に座って/羊飼いが餌をやるのを見ていようよ/浅い川のそば、流れに合わせて/鳥たちがマドリガルを歌ってるよ」。 パストラル文学に登場する「羊飼いと乙女」は普通「コリュドン」「フィロメーラ」というギリシャ人名で、それは「パストラル」というジャンルの起源を反映したものである。パストラル詩(田園詩)は美しい田園の風景、文学用語で言うと「ロクス・アモエヌス(locus amoenus)」((ラテン語で「心地よい場」)を舞台とする。これは例えば、ギリシャの田園地方であり、またギリシア神話ではパーンの故郷でもあるアルカディアのような場所である(en:Locus amoenus
文学
一般のパストラル文学(田園文学)
パストラル詩(田園詩)ウェルギリウス著『農耕詩』第3巻。羊飼いと家畜の絵。バチカン図書館所蔵
パストラル文学はヘレニズム期ギリシアのテオクリトスから始まった。テオクリトスの『牧歌(エイデュリオン)』の数篇は田園地方を舞台とし(おそらくテオクリトスの住んだコス島の景色を反映しているものと思われる)、牧夫たちの間の会話も含まれている[2]。テオクリトスはシチリアの羊飼いたちの実際の民俗伝承を集めたのかも知れない。テオクリトスはドーリア方言でこれを書いたが、使った韻律は、ギリシア詩で最も有名な形式、つまり叙事詩のダクテュロス・ヘクサメトロスだった。この素朴さと洗練さのミックスは、後のパストラル詩でも主要な要素となる。テオクリトスの詩は、ギリシアの詩人スミュルナのビオン(en:Bion of Smyrna)やモスコス(en:Moschus)に模倣された。
ローマの詩人ウェルギリウスはこの形式の詩を『牧歌』でラテン語に適用させた。ウェルギリウスはテオクリトス以上に理想化した田園生活を叙述し、後のパストラル文学が好んでその舞台としたアルカディアをはじめてその舞台とした。さらにウェルギリウスは政治的なアレゴリー(寓意)の要素をパストラル詩に含めた[3]。
パストラル詩は、14世紀前くらいからペトラルカ、ポンターノ(en:Iovianus Pontanus)、マントゥアヌス(en:Baptista Mantuanus)といったイタリアの詩人たちがラテン語で復活させ、その後、マッテーオ・マリーア・ボイアルドがイタリア語で書いた。
パストラルの流行はルネサンス期のヨーロッパ中に広まった。スペインでは、ガルシラソ・デ・ラ・ベガ(en:Garcilaso de la Vega)がその重要な先駆者で、そのモチーフは20世紀のスペイン語詩人ジャンニナ・ブラスキ(en:Giannina Braschi)が蘇らせた中に見ることができる。フランスの指導的パストラル詩人にはクレマン・マロやピエール・ド・ロンサールなどがいる。