燃焼室(ねんしょうしつ)は、燃料が燃焼する空間であり、熱機関においては燃焼(酸化)により熱エネルギーを発生する部位である。
内燃機関ジェットエンジンの内燃室の模式図
内燃機関における燃焼室は、内燃室と呼ばれることもある。
燃焼で発生した高熱のガス(排気ガス)は、元々の燃料や混合気よりも遙かに大きな容積に膨張し、大きな圧力と熱量を放出する。例えば、ガスタービンの場合にはこの圧力を利用して軸に接続されたタービンブレードを回転させることが可能であり、ロケットエンジンの場合には噴射ノズルによって圧力が解放される方向を指定することで、圧力を推力として利用出来る。
レシプロエンジンなどは間欠燃焼であり、吸気によっても燃焼室表面の温度が下げられるのに対し、ロケットエンジンやジェットエンジン、ガスタービンなどは基本的に連続燃焼であり、燃焼室の冷却は機関の寿命に大きく影響する。 レシプロエンジンの燃焼室は、上死点付近にある時のピストンやシリンダー、シリンダーヘッドなどで囲まれた空間である。 通常はシリンダーヘッドに点火プラグや吸排気バルブが設けた半球形の凹みが設けられ、ピストン冠面やシリンダー上端部とともに「混合気を燃焼させる部屋」である燃焼室を形成する。ピストン冠面は平面もしくは軽い膨隆があるが、バルブに対応する凹みが設けられることが多い。ターボチャージャーなどの過給機付きエンジンでは圧縮比を下げる目的で窪みが設けられる場合もある。 ガソリンエンジンの燃焼室には様々な形状のものが存在し、その形状によってそのエンジンの圧縮比が大きく左右され、エンジンの効率(出力や燃費)に影響する。 エンジン設計者は、燃焼室やシリンダー内の過熱(機械的強度を下げるとともに、NOxの生成を促す)を避けつつ冷却損失を小さくし、混合気の完全燃焼を目的に様々な燃焼室形状を考案してきた。そのために有効なのが、熱効率が低下する表面積の大きくなる細長く大きな燃焼室ではなく、できるだけ表面積が小さいコンパクトな燃焼室の採用であった。 こうした改良の中で混合気が燃焼室のなかで乱流を形成することが燃焼効率の改善に良いことも分かってきた。半球形
レシプロエンジン
ガソリンエンジンの燃焼室
通常、点火プラグは燃焼が伝播する速度を見込んで圧縮上死点の少し前で点火を行うが、それ以前にシリンダー内で自己着火するノッキングが発生することがある。ノッキングによる衝撃はピストンやシリンダーヘッドの損傷につながるため、通常は圧縮比を制限したりノッキングセンサーによりノッキングを検知すると点火時期を遅らせる方法がとられる。
燃焼室によるノッキングの起きにくさはメカニカルオクタン価と呼ばれ、これが高いエンジンはより高い圧縮比が実現できるため高出力で高燃費となる。メーカーはメカニカルオクタン価を上げるためにさまざまなシミュレーションや燃焼状態の観察を行っている。
初期のガソリンエンジンで多く見られたサイドバルブの燃焼室では、平たく横方向に長い形状を呈しており、この形状を指してフラットヘッドと呼ばれる場合が多かった。しかしこのような形状は燃焼室の表面積が大きいため燃焼効率に劣り、圧縮比もある程度までで頭打ちとなる一方、低オクタン価の燃料が使用可能なことから、発電機などでは依然として多く使われている。一方で出力を求めた頭上弁式(OHV、OHC)エンジンでは、下記のような燃焼室が登場した。 サイドバルブからOHVに移行した初期の段階で登場した形式で、燃焼室形状は文字通り洋式の浴槽のような長方形の形状を採っている。吸排気バルブはシリンダーヘッドに対して垂直に配置されるため、機械加工が容易で最低限の設計変更でサイドバルブをOHV化可能であったため、多くのエンジンでこの形式が採用された。しかし、燃焼室内の乱流形成が比較的容易な反面、燃焼効率に劣るため、次第に後述の形式に改良されていくことになった。また、トヨタの1E型、および2E型、3E型ガソリンエンジンのように1気筒あたり3バルブのSOHCでありながらバスタブ型燃焼室を採用したエンジンも存在する。 燃焼室の形状が、横から見て楔のような、細長い三角形状を呈しているもの。吸排気バルブがシリンダーヘッドに対して斜めに配置されるため、ターンフローエンジンにおいては吸排気ポートの曲がりがゆるやかに設計でき、圧縮比もバスタブ型と比較して高く採ることが可能となった。OHVのみならずOHC形式でも、ターンフローエンジンにおいては、後述の多球型燃焼室が登場するまで主流の形式であった。 燃焼室の形状が球を半分もしくは1/3程度に切り取った形状を呈しているもの。クロスフロー式シリンダーヘッドの登場と共に現れた形式で、燃焼室の表面積が容積に対して小さくなるので冷却損失を小さくでき、燃焼の圧力が均等に広がる流体力学的に理想的な形状のため、多くのエンジンでこの形状が使用された。 代表的なものとしてはHemispherical(ヘミスフェリカル:半球状の?)という燃焼室形状がそのまま名称となっているHEMIエンジンがある[注釈 1]。 変わった所では吸気をOHV、排気をサイドバルブで行うとなるローバーのIOEエンジン
バスタブ型
楔型(ウェッジ型)
半球型イタリア・Malossi
2ストローク用ヘッドは燃焼室と点火プラグのみを備えたもので吸排気バルブによる燃焼室形状の制約がないため今日でも大きなスキッシュエリアを持った理想的な半球型燃焼室を採用するものが多い
しかし、欠点として燃焼室内の流体効率が良すぎる故に乱流の形成が行いにくいという点が挙げられ、一部のエンジンでは吸気バルブ以外にごく小さな補助吸気バルブをおくなどの手法で乱流を強制的に引き起こす対策が採られることもあった(三菱・MCA-JETバルブなど)。
また大きな半球形状を取った場合、圧縮比を高めていくにはピストン側のピストントップを大きく盛り上げる加工も不可欠であったため、ピストン側の重量増加を嫌った設計者によっては、後述の多球型燃焼室を採用して燃焼室の燃焼効率低下を最小限に抑えながら、ピストンの軽量化と同時に圧縮比を高める手法が採られることもあった。
DOHCやSOHCマルチバルブの普及で吸排気バルブ2本ずつの4バルブ構成が登場してくると平たいポペットバルブの先端で半球の形状が崩れてしまいやすいことや、半球の曲線に合わせてバルブを配置するとバルブ挟み角が極端に広くなってしまいがちなことからマルチバルブエンジンでは後述のペントルーフ型が主流となった。なお、2019年7月にフルモデルチェンジを実施した4代目ダイハツ・タントから搭載が開始された第4世代KF-VE型(NA)及びKF-VET型(ターボ仕様)は、軽自動車を含む4輪車用の4バルブヘッドのガソリンエンジンとしては世界初となる半球型燃焼室を採用した。
RFVC
特殊な半球型燃焼室の採用例としては、本田技研工業のオートバイ部門が1982年にBaja_1000