熟語_(漢字)
[Wikipedia|▼Menu]
.mw-parser-output .hatnote{margin:0.5em 0;padding:3px 2em;background-color:transparent;border-bottom:1px solid #a2a9b1;font-size:90%}

この項目では、漢字の熟語について説明しています。その他の用法については「熟語」をご覧ください。

漢字文化圏において、熟語(じゅくご)と称する語は、2字以上の漢字が結合した言葉のことである[1]。構成要素が漢字であることを強調するために漢熟語あるいは熟字などと呼ぶこともある。日本語においては、複数の漢字で構成される単語として認識される[1]。本項目では、特にことわりのない限り、この意味での「熟語」について解説する。

中国語における「熟語(shuy?)」[註 1]という語は、常用される俚諺格言といったニュアンスで用いられることが多く、むしろ「複合詞(fuheci)」[註 2]や「合成詞(hechengci)」[註 3]あるいは単に「2字の並び」という意味の「駢字(べんじ、pianzi)」[註 4]などの語の方が日本語で言うところの「熟語」に近いが[2]、いずれも全く同義というわけではない。なお、中国語で「熟字(shuzi)」は、「よく知られている漢字」という意味になる[2]

なお、朝鮮語ベトナム語についても、漢字に相当する語彙要素(字音形態素)が結合した言葉が数多く存在している。これについては、漢語系語彙にある各項目を参照のこと。
熟語の形態論

原則的に漢字は、1字ごとに意味を有しているが、複数の漢字が結合して1つの意味をもつ言葉になることがある[3]。例えば、「鉛」「筆」という2つの漢字が結合した「鉛筆(えんぴつ、qi?nb?)」という言葉は、日本語でいうところの典型的な熟語である。以上のような漢字の造語機能を専門的には「漢字連接」と呼ぶこともある[4]

中国語においては原則的に1字が1単語を表し、特に文語である漢文においてはこの傾向が著しく、2字以上の漢字の結合もある種の連語的表現とみなすことができた。これが漢字が「表語文字」と呼ばれる理由である。なお、中国文学者の高島俊男は、このような2字の漢字の結合のことをやや諧謔的な文脈ではあるが「単語というより『くみあわせ語』などと言ったほうがふさわしかろう」と表現している[5]

言語学的には、語彙イディオムの一種とみなすことができる。漢字1字を取り出してみると、中国語においては、「鉛(qi?n)」[註 5]「筆(b?)」[註 6]がそれぞれ単独で1つの単語となることのできる自由形態素とみなすことができる。

これに対し、日本語の場合は、「鉛(えん)」も「筆「ひつ/ぴつ」」も単独では意味が通じない拘束形態素となっている。もちろん日本語においても、ほぼすべての漢字がそれぞれ個別に意味を持っているが、日本語における漢字は多くの場合、対応する和語による訳語(訓読み)が充てられるため、上記「鉛」「筆」の例のように、漢字の字音は、熟語を作るためのみに存在する拘束形態素となることが多い[6]。ただし、「肉体」における「肉(にく)」、「地球」における「球(きゅう)」など、自由形態素となる字音語も存在する。以上のような議論から、日本語において漢字を、意味をもつ最小単位であるとして、表意的な「形態素文字」と表現する者もいる[7]

また、中国語においても、近世以降の文章、とりわけ白話口語)では、「椅子(y?zi)」における「子(z?/zi)」のように語調を整えるのみの漢字も観察され、これに類する漢字は拘束形態素であるといえる。
熟語と複合語

言語学において単語は、単純語と複合語に分類されるが、漢字の結合という意味での熟語の概念をこれに適用する際、しばしば問題が生ずることがある[8]

例えば前記「鉛筆」について考えてみると、中国語では「qi?n」「b?」という2つの単語から構成されていると意識されるため複合語に分類可能であるのに対し、日本語の「えんぴつ」は2つの単語(あるいは内容形態素)に分割することができないため、複合語とはみなしがたい。また「銀行」のような語は、「銀」(通貨を意味する)、「行」(業者を意味する)から構成され「通貨を扱う業者」という語源をもつが、日本語において単に「ギンコー」と発音された場合、そのような語源が意識されることは少ないという[9]。同様に「国際」「生活」「意味」「政治」「文化」「理由」など、日常用いる熟語のうち機能的に単純語として意識される語は少なくなく、日本語文法の観点からも単純語として差し支えない[8]

また、言語学において、内容形態素に接辞が付加された語を派生語と呼ぶことがある。日本語における「長文」などの語は、「文(ぶん)」を内容形態素、「長(ちょう)」を接頭辞とみなせば、派生語とみなすことができる。一方で「大木(たいぼく)」のような語の場合、「ぼく」という単語が存在しないため、派生語とは言いがたい。このように日本語の漢字連接には派生の原理を適用しにくい場合が多く、一律な分類は難しい。

日本語においても明らかに2つの内容形態素に分割できる漢熟語には「鉄棒」「熱愛」などがあるが、例えば「頭脳」における字音「頭(ず)」が「頭が高い」のような一部慣用句においてのみ自由形態素となることもあり、漢熟語における単純語と複合語の境界は曖昧である。

欧米系の言語学においては、このように接辞と単語の中間的な形態素をもつ語を「連結形」(combining form)などと呼ぶこともある。例えば、英語の“biography”(伝記)という単語は、“bio-”(生活の)と“-graphy”(文書)という2つの要素に分析することができるが、通常これらが自立した語として用いられることはない[10]

大阪(おおさか)」と「神戸(こうべ)」をあわせて「阪神(はんしん)」と読み方が変わる現象がみられるなど、日本人は語の発音よりもむしろ、その語に対する漢字表記がもつ表意性を念頭に語彙化を行っているという報告がある。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:99 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef