焼入れ
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AISI4140鋼(炭素含有量0.380 - 0.430%)の油焼入れによるマルテンサイト組織の拡大写真

焼入れ(やきいれ、英語: quenching)とは、金属を所定の高温状態から急冷させる熱処理である[1]。焼き入れとも表記する[2][注 1]

広義には、金属全般を所定の高温状態から急冷させる操作を行う処理を指し[1]、狭義には、鉄鋼材料(特に)を金属組織がオーステナイト組織になるまで加熱した後、急冷してマルテンサイト組織を得る熱処理を指す[4]。本記事では、狭義の方の鋼の焼入れについて主に説明する。

焼入れを行うことにより、鉄鋼材を硬くして、耐摩耗性引張強さ疲労強度などの強度を向上させることができる[5]焼入れ性がよい材料ほど、材料内部深くまで焼きを入れる(マルテンサイト化させる)ことができる。焼入れしたままでは硬いが脆くなるため、靭性を回復させて粘り強い材料にするために焼戻しを焼入れ後に行うのが一般的である。焼入れ処理にともなって割れやひずみなどの欠陥が起きる可能性があり、冷却方法などに工夫が行われる。
基本原理

物質は、組成温度圧力の条件により、液体固体などに代表されると呼ばれる物質の形態が変化する[6]。組成、温度、圧力などを縦軸や横軸として変化させて、どの相が存在するか示した図を状態図、平衡状態図、あるいは相図と呼ぶ[7]合金の場合は、圧力一定として温度変化と組成変化で状態図を示す場合が一般である[7]。また、合金の場合は、固体として存在する間でも種々の相に変化するのが特徴である[8]。このような相の変化を変態と呼ぶ[9]

ある1つの金属元素に別の1つの元素を加えたものを二元合金と呼ぶ[10]炭素から成る二元合金について、横軸に炭素の質量パーセント濃度、縦軸に温度を取り、相の変化を示した図を鉄-炭素系二元合金平衡状態図、あるいは鉄-炭素系平衡状態図などと呼ぶ[11][12]。ここで「平衡」とは、非常にゆっくり冷却・加熱したときの変化を表している[11]。鉄-炭素系二元合金平衡状態図は純鉄と純炭素のみを原料とした合金に基づくものであるが、一般的なは、不純物として、あるいは性質改善のために、炭素以外の成分も含んでおり、これらの他の成分により状態図が多少変化するので注意が必要である[12][13]合金鋼の場合で、横軸:炭素濃度、縦軸:温度の状態図で比較すると、合金元素の総量が5%以下の低合金鋼では鉄-炭素二元合金とほぼ同形だが、総量10%以上の高合金鋼になると大きく異なってくる[13]。以下では簡単のために鉄-炭素系二元合金平衡状態図を用いて鋼の相変化を説明する。鉄-炭素系二元合金平衡状態図
(鉄-セメンタイト系)
質量パーセント濃度2%まで

純鉄と呼ばれる炭素質量パーセント濃度が0.022%以下の領域を除いて、鉄-炭素系二元合金平衡状態図を見ていく(右図を参照)。室温では、鋼の相はフェライト相およびセメンタイトで構成される[14]。詳しく見ると、炭素濃度0.77%未満ではフェライト+パーライトで、0.77%丁度ではパーライトのみで、0.77%超過ではパーライト+セメンタイトで構成される[15]。この0.77%の点を共析点と呼び、共析点未満の炭素濃度の鋼を亜共析鋼、共析点丁度を共析鋼、共析点超過を過共析鋼と呼ぶ[16]硬さに注目すると、フェライトは軟らかく粘りのある組織で、パーライトも比較的柔らかい組織で、セメンタイトは非常に硬いが脆い組織となっている[17]

高温域を見ていくと、A1線と呼ばれる727の温度を超えた領域では、亜共析鋼はフェライト+オーステナイトに、共析鋼はオーステナイトのみに、過共析鋼はオーステナイト+セメンタイトになる。この温度では亜共析鋼にはまだフェライトが存在するが、さらに温度を上げてA3線と呼ばれる温度を超えると亜共析鋼もオーステナイトのみの相となる[18]。オーステナイトもフェライトに似て軟らかく粘りのある組織であるが、炭素固溶領域が大きい特徴を持つ[19]

オーステナイトあるいはオーステナイト+セメンタイトの高温状態から、逆に冷却していくとする。ゆっくり平衡的に冷やしていくと上記で説明した順序を逆にたどって変態が起こるだけだが、冷却速度を上げて冷やすと、パーライトやフェライトに変態する時間が足りず、マルテンサイトと呼ばれる平衡状態図には示されない相が現れる[20]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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