無駄な医療
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無駄な医療(むだないりょう、英語: Unnecessary health care)、過剰利用(かじょうりよう、英語: over utilization)、濃厚診療(のうこうしんりょう)とは、適切な量や費用を超えている医療をさす[1]。過剰医療を招く原因には、医療機関への診療報酬を出来高払い制とし、かつ医療費が公的・民間医療保険により補償されるという事情が関係している[2]。このような制度の下では、医師と患者は、医療費や受診を抑えるという動機は働かない[1][3]。ただし「どこからが無駄か」「どの程度からが過剰か」を判断することは別途の課題である。

似たものに過剰治療(かじょうちりょう、英語: over treatments)があり、不必要な医学的介入(治療)を指す。過剰治療は、それを行っても症状にほとんど改善は現れない。また過剰診断とは、患者にとって症状がなく無害な状態に病名診断を下すことであり、これにより過剰治療がまねかれる。

2011年よりアメリカ合衆国では、不要であるばかりか有害である治療介入の一覧を示すChoosing Wisely(賢い選択)キャンペーンが始まったり[4]、2013年のG8認知症サミットでは、イギリスが国家戦略として、死亡の増加につながる不要な抗精神病薬の使用を低減してきたことを報告し[5]、日本でも、不要であるのに処方されている風邪薬を保険適用から外すことを検討するなど、無駄な医療への関心が集まっている[6]
背景OECD各国の一人あたり保健支出(青は公的、赤は私的) [7]OECD各国の人口あたり医薬品消費額 [7]

過剰医療の研究は、1970-80年代のJack Wennbergによる研究unwarranted variationが先駆けである。彼は受給できる医療が、臨床的必要性ではなく市民の居住地域に関係すると報告した[8]

過剰医療により、患者は無用な合併症リスクに晒されることとなるが(医原病[9]、しかし医療提供者(医師や医療機関)は、出来高払い制度であれば過剰治療により更なる収入を得ることができる[1]。出来高払い制度は過剰医療を行うことに大きな動機を与える[1]

米国の医療は1人あたり医療支出が世界で最も高く[7]、医療支出が高額となる最たる理由に過剰医療が挙げられている[1]。『ニューヨーク・タイムズ』は「米国は慢性的な過剰医療の国である」と述べている[10]。米国における医療の30%は、患者に明確な利益をもたらさない不要な医療であると推定されている[11]

殆どの医師は、臨床検査が行われすぎていることを認識しているが、しかし「臨床検査が過剰に行われている可能性について、その検討を説得するのは依然として困難である」とされている[12]

こうした背景にて、Choosing Wisely(賢い選択)キャンペーンが2011年には始まったが、これはアメリカ内科医学委員会(英語版)が創設したABIM財団(英語版)によるものである[4]。60以上のアメリカの専門機関が、不要で無駄であるばかりでなく、有害でさえありえるような治療介入を、2014年末までに一覧にする[4]

2009年にもイギリス政府は、年間約14万人の認知症患者が不要な抗精神病薬を処方され、毎年約1800人の死亡につながっているという報告をもとに、その使用の削減を国家戦略としており、2006年の約17%の使用率を、5年後の2011年には約7%まで減らしてきたことを認知症G8サミットにて報告している[5]

日本でも、2010年に厚生労働省が、うつ病などに対して安易に大量処方を行う薬漬け医療や、それによっておこる過量服薬事故に対する対策を開始している[13]。こうした問題はたびたび報道されてきた[14]。2014年6月に発売されたChoosing Wiselyを紹介している『絶対に受けたくない無駄な医療』という書籍が1か月で3刷りとなり、7月の社会保障制度改革推進会議では、風邪薬を保険適用から外すことを検討するなど、無駄な医療へと関心が集まっている[6]

2014年にBMJ(英国医学雑誌)でも、「医師たちは世界中の有害な医療の過剰使用を減らせるか?」といった記事にて、各国の取り組みを紹介している[4]。オランダはアメリカと同様のキャンペーンを持ち、イギリスは英国国立医療技術評価機構(NICE)が治療の費用と効果の根拠を精査しているし、イタリアでは国家による「スロー医学」の取り組みの一環として「より多くは、良いということではない」キャンペーンを実施し、ドイツや日本ではまだ計画段階である[4]
要因

過剰医療をまねく理由には、医師側の便益、患者側の希望、不適切な経済的要因、医療制度、ビジネス的の圧力、マスメディア、意識の欠如、防衛医療などが挙げられる[15]
保険制度および出来高払い制度「社会的入院」、「医薬分業」、「薬価差益」、および「多剤併用問題」も参照

患者の医療費が公的・民間医療保険で担われ、かつ医師の診療報酬が出来高払い制度である場合、治療費用を検討する動機が医師にも患者にも働かないため、無駄な医療を行うことに貢献することとなる[3]
画像診断「医療被曝」も参照

画像診断の過剰使用は、重要でない事象を病気と診断する過剰診断につながるとされる[16]。X線やCTといった画像診断の過剰使用によって、患者への医療が向上することはほとんどない[15]。カナダ放射線医師協会(英語版)は、カナダの医療における画像診断の30%は不要なものであると推定している[17]。米国放射線医学会(ACR)、王立放射線医学会(RCR)、WHOなどの団体は「妥当な基準」を策定している[15]

日本の医療においてはCTおよびMRIの設置台数の多さが指摘されており、人口あたりの台数は共にOECD各国中1位であった[18]ランセットには、日本は世界で最も年間の医療被曝が多いとする論文が掲載された[19]
医師自身への受診紹介

過剰医療をまねく理由の一つに、医師自身への受診紹介があるとされる[20]

複数の研究では、非放射線科医は、放射線設備の使用から収入が得られ、かつ自己への受診紹介が可能な場合、彼らは不必要な画像診断をより行う傾向にあるとされた[20]。米国における画像診断増加の主な要因は、非放射線科医による自己参照行為に起因するとされる[20]。米国ではこのような行為により、2004年で160億米ドルの年間医療費を発生させていると推定されている[20]
その他

救急部門受診の12-56%は不適切なものである
[21]

入院措置[22]。外来診療で十分な慢性疾患者を入院させる[23]社会的入院


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