無給労働
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彼女の家族のための食事を調理することによって、無給労働に携わるひとりの婦人

無給労働(むきゅうろうどう)、または無償労働(むしょうろうどう)とは、何ら直接の報酬を受け取らない労働である。また、このような労働を行う者を無給労働者(むきゅうろうどうしゃ)、または無償労働者(むしょうろうどうしゃ)と呼ぶ。これは次の二つの範疇のうちのひとつに該当する、非市場労働の一形態である。[1]
国内総生産(GDP)のような、国民所得標準方式(英語版)(SNA)の生産境界に組み入れられる無給労働。

消費の為に家計内で起こる家庭内労働のように、国民所得標準方式(SNA)の生産境界の外部に該当する無給労働。

無給労働は多くの形態で見られ、家庭内での活動に限定されない。他の類型としては、慈善事業の形態としてのボランティア活動や、無給雇用の形態としてのインターンシップなどが挙げられる。

国連統計局(英語版)(UNSD)によって集計された時間利用調査(英語版)によれば、無給労働の主な担い手は女性であるとされ、家計内での家庭内労働の不平等な分割は、家計外での女性の労働にも影響を及ぼしているとされる。家庭内労働の多くは女性に当てはまり、無給である家庭内労働への多くの時間の寄与は、女性の労働市場への参加に影響を及ぼし、結果として子育てや社会活動に影響を及ぼすと考えられている。
種類
無給の家庭内労働

無給の家庭内労働には日常生活における調理や洗濯、掃除等の家事の他、生活のための買い物などが含まれる。更には育児や高齢者、傷病人や障碍者の介助、介護等の活動が含まれる場合もある。無給の家庭内労働は主として家庭のためのケアワークとして定義されるが、自分で消費する食料の生産や、水や燃料の採取といった、生産的な活動が国民所得標準方式(SNA)の生産境界に組み入れられる無給労働として存在する。[2]
生殖労働

無給の家庭内労働は生物学的なものではないが、リプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)の上では労働の一部とも言える。Debra Satz(デブラ・サッソ)は、生殖労働は「市場の規範に従って処理するべきではない特別な種類の労働」であると考えている。これには家族や子供の世話や育児を含むものである。[3]妊娠、出産という行為は女性生殖器を有する者のみが行うことができ、不可逆的に生物学的な女性の仕事と言える。既婚女性、シングルマザー、その他の女性家族は人々の生活の上では無給の生殖労働者である。[4]ただし、子育ては生殖と介護の両方に当てはまる労働であり、母乳による授乳期の後は別の世帯員が仕事を引き受けることも可能である。[5]
歴史

家庭内における男女の性役割は、植民地化帝国主義により時間をかけて強化された文化的価値に深く関係する。例えば、Patricia Grimshaw(パトリシア・グリムショウ)のハワイでの研究では、ニューイングランドの宣教師は、伝道者の女性が到着する前に高いステータスである複婚の許可を行っていたネイティブのハワイ人の女性にキリスト教の価値を説教をすることで、アイロンがけのような家庭の仕事を免れようとした。[6]キリスト教徒の女性たちは、本質的な女性の概念として家族を世話し、また夫に従順するよう家庭内に留まることを責任として教えられた。歴史をみると、家庭における女性の立場として「良き妻」が母親の必須条件とされてきた。[7]

しかし1960年代以降、グローバル化の進展により女性が市場活動に参加する新たな機会をもたらした。[7]グローバル化の進展は、女性の賃金労働を増やしたが、無給労働に費やされる時間は軽減されず、女性が労働市場に参加する間、有給雇用を確保する女性は労働の二重負担を強いられるようになる。[8]これはワーク・ライフ・バランスを考え、育児や介護をしながらも、自分自身のためにキャリアを積もうとする女性にとって、絶え間ない闘いであると言える。[2]女性の自身の能力の発揮に影響を与える時間は、国民所得会計の統計によって測定される家族の相対的な生活水準に影響する。

社会的規範と期待のために、無給労働の負担は主に女性にに充てられてきた。男性が賃金労働から帰宅後に介護や育児といった無給労働を行うことは可能であるが、女性がその労働の大部分を占めることが多い。従来の家庭では、世帯を支える無給労働には女性が関与する。[1]しかし共働きの傾向と高齢化に伴い、家事や育児、介護の商業化が進んでいる。無給労働者の疲弊を防ぐためには無給労働の価値を常に考慮し、正当な雇用とみなされるべきであるとの議論もある。また、無給の家事労働者を保護するために、「介護手当」を提供するべきであるとの議論もある。[9]

家庭での無給労働の負担を、夫婦の妻に負わせていることが様々な研究で示されている。しかし結婚した世帯の男女間の格差はある程度縮小していることも示されている。[10]例えば、2000年代半ばの不況時には、低所得の男性は無給の家事労働に多くの時間を充てることで、世帯への貢献を高めた。[11]
「女性的な質」による家事労働

世界的に無給労働の主な提供者である女性への期待が性別基準によって社会的に構築され、実施されている。女性が家庭外での賃金労働を行う場合でも、家事や育児活動が大きなシェアを占める。[10]結果として、グローバル化によって無給労働の主な提供者である一方で賃金労働としての雇用も増え、家計収入への貢献は更に増えている。[12]この不平等は、グローバル化による雇用形態の変化に伴い男女別の労働がどのように変化したのかを表す。また、社会的に構築されたジェンダーの規範が、女性の「二重負担」の構造を引き起こし、女性の経済の脆弱性、金融危機や貧困、失業、健康状態への影響や学業への影響に寄与している。女性はこれを自分の中に抱えてしまうことが多く、特に金融危機の間に苦しむ人が多い。[13]
二重負担
定義

二重負担とは、市場活動への参加による賃金労働の後、帰宅後に家庭内で家事や育児などの無給労働を終日行わなければならない状況。[14]無給労働については、男女が同じ賃金労働を行ったとしても、社会的規範と期待のために主に女性がその多くを負担する。[14]
女性への影響

賃金労働と無給労働のバランスをとることは、主として女性に課される。増加したストレスレベルの報告も珍しいことではない。[15]低い生活満足度や主観的な幸福など、うつ病や精神不安に関連した高いレベルの症状が報告されている。[5]女性が賃金労働時間を増やすにつれて、無給労働時間のそれに対応する減少はなされない。更には男性は女性が賃金労働の割合を増やしたのと同じ割合で無給労働を増加させてはいない。[10]2015年の「The Human Development Report」によれば、63か国で、男性は無給労働に10%の時間しか費やしていないのに対して、女性は31%の時間を無給労働に費やしているとされる。[16]特に女性が貧困に晒され、基本的なインフラが不足している地域社会においては二重負担は更に激しくなる。[1]食料と水に簡単にアクセスできない地域では、家庭内労働には更なる時間を要する。
データ

無給労働の測定に最も一般的に使用される方法は、時間利用調査によるものである。[2]これらの調査では、賃金労働に費やされた時間対、料理などの家事に費やされた無給労働の時間を評価しようとするものである。[2]Sarah Gammage(サラ・ガンマージュ)は、家庭内や家族間で無給の家事労働を行う時間を測定するために、グアテマラでの時間利用調査を行った。[15]この調査で、無給の家事労働の約70%を完了した女性を発見した。[15]同様に、Debbie Budlengerは6か国で時間利用調査を行い、各国の女性が毎日無給の家事労働に大半の時間を費やしていることを判明した。[17]この調査の結果は以下の通りである。

無給労働に費やす1日当たりの分数国男性女性
アルゼンチン101293
インド36354
大韓民国38224
ニカラグア66318
南アフリカ91273
タンザニア44262

Liangshu QiとXiao-Yuan Dongによる別の時間利用調査では、中国の男性は平均58分の無給労働を完了しているのに対し、女性は平均139分との結果も得ている。[18]

国連統計局(英語版)が2000年から2015年までにに収集した時系列データは、女性が世界中の無給家事労働の半分以上を担っているという主張を直接支持する。男女の時間利用の最大の相違は発展途上国である。データは24時間の日記で収集され、80か国、期間は7日間に渡り、これが平均化された。上位10位には、3つのスカンジナビア諸国の他、スウェーデンノルウェーデンマークオランダフィンランドの北欧諸国がある。 調査対象の国のうち、スウェーデンは男女の利用時間の差が最も小さく、1日のうち3.33時間の差があった。[19]

これに対し、アルジェリアチュニジアメキシコイラクグアテマラにあたっては1日に18時間を超える女性と男性の時間差があった。


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