無痛分娩
治療法
陣痛中の母親
診療科産科学
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無痛分娩(むつうぶんべん、英: epidural birth)とは、麻酔を用いて痛みを緩和しながら分娩(経膣分娩)を行うことである[1]。麻酔法は一般的に硬膜外麻酔である[2]。分娩前後の痛みを緩和する手段は、硬膜外麻酔以外にも数多くある。これらは硬膜外麻酔の代替として行われるだけではなく、硬膜外麻酔と併用されることも多い。本稿では、これらの鎮痛手段についても概説する。
概要(英語版)の強さ、出産に対する母親の見解に幾分かは左右される[3]。緊張は出産時の痛みを増大させる[4]。事実上すべての女性が、陣痛や分娩の痛みにどう対処するかを心配している。出産は女性一人ひとりによって異なるため、出産や分娩時に経験する痛みの強さを予測することはできない[3]。
痛みを和らげる「自然な方法」だけで大丈夫な女性もいる。多くの女性は、痛みを和らげる薬や医療介入と「自然な方法」を組み合わせている。出産を前向きにとらえ、恐怖心に対処することで、痛みに対処できる場合もある。陣痛は、病気やけがによる痛みとは異なり、子宮の収縮が胎児を押し下げ、産道から押し出すために起こる。言い換えれば、陣痛は目的を持ったプロセスによって引き起こされる[3]。
陣痛に対する鎮痛方法は、硬膜外麻酔が一般的であるが、亜酸化窒素吸入も欧米ではよく行われている。オピオイドの一種であるペチジンの注射も無痛分娩に適応がある。硬膜外麻酔に脊髄くも膜下麻酔を組み合わせる方法もある。これらの医学的鎮痛方法の代替、ないしは追加の鎮痛方法としては、非薬理学的鎮痛方法、すなわちラマーズ法などの呼吸法やマッサージ、水中出産や産後ドゥーラ(英語版)によるサポートなどが知られている。
欧米では硬膜外無痛分娩の普及率が高く7割を超えるが、日本では実施率は8.6%(2020年)である。欧米では大規模な医療施設での出産が多いのに対して、日本に多い小規模な産科での出産では麻酔科医が不足していることが、こうした格差の一因とされる[5]。
歴史上、分娩の痛みは手術と同様、有効な鎮痛手段を長らく持たなかったが、19世紀半ばに実用化されたクロロホルムやジエチルエーテルの吸入による全身麻酔で無痛分娩が可能となった。しかし、全身麻酔は手術に用いることは歓迎されたものの、出産に用いることは医学界や宗教界からは当初根強い反対があった。無痛分娩は、1853年にイギリスのヴィクトリア女王に対して行われたことで広く一般にも行われるようになった。20世紀初頭には薄暮睡眠安産法(twilight sleep)(英語版)、すなわちモルヒネとスコポラミンの注射による鎮静が麻酔方法に加わった。しかし、母体に対する全身麻酔は、誤嚥による肺炎(メンデルソン症候群)が1946年に報告されて以降問題視されるようになり、1960年代以降は硬膜外麻酔が主流となっている。 一般的[注釈 1]にも専門的[6]にも無痛分娩、との呼称が普及しているが、陣痛が始まってから鎮痛を開始する[7]、すなわち、多かれ少なかれ痛みを感じてからの鎮痛であるために、「無痛」分娩とはいうものの、必ずしも無痛ではない[8][注釈 2]。この意を表すために、日本では和痛分娩や減痛分娩[8]、産痛緩和などとも表現される。産痛緩和は厚労省のガイドラインや日本産婦人科医会では硬膜外麻酔のみならず非薬理学的鎮痛方法をも含めた鎮痛手段全般とされている[9][10]。語義の上では無痛分娩も産痛緩和も鎮痛方法までは指定していないため、硬膜外麻酔を明示するためには、硬膜外無痛分娩[11]と呼ばれる。 英語圏でも、無痛分娩に相当する言葉は多様であり、一般的にはepidural birth, painless delivery, painless labor[6]、医学英語ではlabor analgesiaなどと表記される。analgesiaはan:無+algesia:痛みと語源の上では無痛[12]だが、専門家の間では主として鎮痛の意味で用いられている[13]。すなわち、英語圏においても、無痛に関して一般人と専門家との間で、語義において認識の相違が生じる余地がある。硬膜外麻酔に留まらない出産前後の鎮痛全般を表す言葉としてはPain management during childbirth[14][15]やlabor pain relief[16]などがあるが、十分に定義されておらず[15]、対応する定訳も2023年現在確立されているとは言い難い[注釈 3]。
語義