無反動砲
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第二次世界大戦後の代表的な無反動砲の一つ、アメリカのM40 106mm無反動砲
砲中央部上にあるものは測距銃(スポッティングライフル)(後述

無反動砲(むはんどうほう、英語: recoilless rifle/recoilless gun)は、作用反作用の法則を利用して発射時の反動を軽減し、駐退復座機構や頑丈な砲架を省略した大砲である。ごく一部で「不反衝砲」という訳語が当てられたこともある[1]

また、「無反動迫撃砲(英語: recoilless mortar)」の名称で開発されたものも存在した(「#無反動迫撃砲」の節参照)。
概要カールグスタフ無反動砲を発射するアメリカ陸軍特殊部隊
発砲に伴い、後方に燃焼ガスが噴射され、周囲の地面の砂埃が浮いていることがわかる。

下記「#発射方式」で挙げられている構造を利用して、発射する砲弾が持つのと同じ運動量を持たせた物体や爆風を砲の後方に放出することで射撃時の反動を軽減する火砲である。従来の火砲のような強烈な反動が無いため、砲架に衝撃吸収機構を必要とせず、砲腔圧力の低さから砲身の肉厚を薄くできる。これにより小型軽量の発射装置で大口径砲弾を発射することができ、歩兵や軽車輛にも高い火力、特に対戦車能力を付与することができた。

いずれの方式でも発射薬が発生させるエネルギーを反動軽減に消耗するため、同規模の砲弾を使用する通常の砲よりは弾速と射程が劣る。この欠点はロケット推進弾による増速の他、対戦車用の無反動砲の場合、弾速と無関係に威力を発揮できる成形炸薬弾粘着榴弾を使用することで補われている。特に成形炸薬弾は威力が口径に依存するため、無反動砲の口径比で通常火砲よりもはるかに軽量にできる点とは相性がいい。

砲の後部に放出機構を持つため、連続的な装填装置を配置することは難しく、連射性に劣るという難点があるが、ドイツでは放出機構を砲の側面方向にした方式を開発することで自動装填装置を装備できるものを開発している。また、ソ連では従来型の構造ながら自動もしくは手動式の次発装填装置を持つものの開発が進められたが、信頼性が低く、実用性には難があった。第二次世界大戦後のドイツでは装弾方向の自由度の高いリヴォルヴァーカノン型機関砲の機構を活かした自動装填式の連発砲(無反動機関砲)も開発されている[注 1]アメリカM50オントス自走無反動砲日本60式自走無反動砲では、1両に複数の無反動砲を搭載し、連続して射撃することで連射性の低さを補う方式としていた。

なお、“無反動”とは謳われるものの、実際には砲の構造や規模によってある程度の反動が発生し、砲身内部に施条(ライフリング)があるものは、砲弾が通過する際の反作用で砲に対して捻るように横方向の力を受ける。これに対処するため、ノズルやガスを導く尾栓の小孔に角度をつけ、噴射の反動でカウンタートルクを軽減させる構造を持っているものが多い。
発射方式

無反動砲の発射方式には、発射する主砲弾と同じ運動エネルギーを持つカウンターマス/カウンターウエイトと呼ばれる重量物を後方に射出して反動を相殺するデイビス式と、発射ガスを後方に高速で噴出させて反動を相殺するクルップ式、バーニー式、クロムスキット式、および、ソビエト連邦で開発された通称“クルチェフスキー砲”とドイツの"Dusenkanone[注 2]がある。

デイビス式は“イギリス式”、クルップ式には“ドイツ式”、クロムスキット式には“アメリカ式”の通称もある。これはそれぞれの方式が初めて用いられた火砲を開発、装備、運用した国に由来している。

なお、ガス噴射式の無反動砲や対戦車擲弾発射器の中には、閉鎖器に尾栓がなく、薬莢底の構造とノズルのみで反動を軽減する構造のものがあるが、これらは基本的には作動形式としてはクルップ式に分類される。しかし、例えば前述のパンツァーファウストとその発展型であるソビエトのRPG-2/-7は、クルップ式の特徴である噴射孔のある尾栓も、それに相当する薬莢底にあたる部分もなく、発射薬がそのまま燃焼して発射筒の後方に噴出するのみで、むしろ後述のクルチェフスキー砲(ガスを後方に噴射するが作動原理や構造としてはデイビス式に準じる)に近いものである。これらの他にも、第二次世界大戦後に各国で開発されたガス噴射式の無反動砲は、作動原理はクルップ式に準じていても構造は独自のものが多くあり、一概にクルップ式とは言い難いものが多い。しかし、発射薬の燃焼ガスを利用して反動を相殺する方式を確立させたのがクルップ社であることから、第二次世界大戦後の分類としてはクロムスキット式バーニー式(バーニー砲)のような特筆すべき薬室構造を持たないガス噴出式の無反動砲は、総じて“クルップ式”と呼称/分類されることが通例である。いずれにしても無反動砲単体で十分な初速を得ようとすると効率が悪いため、弾体自体にロケットを併用する複合推進式も少なくなく、方式による種別分類はしばしば曖昧である。
デイビス式デイビス式無反動砲の模式図
1.砲身 2.砲弾 3.装薬 4.カウンターマス

世界最初の無反動砲で用いられた方式であり、1906年アメリカ海軍中佐であるクレランド・デイビス(Cleland Davis)が開発した事から「デイビス砲(英語: Davis gun)」と呼ばれる。砲身の後端を閉鎖せず、砲弾によって発生する反動と同じ運動エネルギーを持つカウンターマスを後方から射出して反動を相殺、軽減する。

詳細は「en:Davis_gun」を参照

初期のカウンターマスは金属の塊やワックス、あるいは小径の金属球をワックスで固めたものなどで、大きな後方爆風(バックブラスト)を生じないため、閉鎖された空間や狭い陣地から発射しても射手が爆風に巻き込まれにくいが、撃ち出されたカウンターマスの飛ぶ後方危険界は他の方式より細く長い形状になる。カウンターマスを撃ち出すエネルギーを得るため、同規模の通常の砲と比べると倍の発射薬が必要になり、砲弾とカウンターマスの加速距離を揃えて十分に反動を軽減するには、前方砲身と同程度の後方砲身も必要となるため、全長が長くなり、砲が大型化する欠点がある。
更に、実用上の大きな問題として、前後の砲身に挟まれる位置に薬室があるため[注 3]、通常の後装式火砲のような閉鎖器は設けることができず、装填時には砲身を中央で分割するか、砲身の中央部まで砲弾と装薬を押し込むしかなく、薬莢式にすることが難しい上、再装填に時間がかかった。

デイビス式無反動砲はアメリカで発明されたが、軍隊に正式採用されたのはイギリス軍の航空機搭載型対飛行船、対潜水艦兵器としてだった。米英両国で口径別に数種類が試作され、実際に航空機や艦艇に搭載してのテスト、小規模な部隊配備も行われていたが、機密兵器に指定されていたため、運用の詳細は判明していない。


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