『烏賊川市シリーズ』(いかがわしシリーズ)は、光文社から刊行されている東川篤哉のミステリ小説シリーズ。
2014年に、7作目の『私の嫌いな探偵』(わたしのきらいなたんてい)のタイトルでテレビドラマ化された。 架空の地方都市(「千葉の東・神奈川の西」と『密室の鍵貸します』にある)である烏賊川市を舞台に繰り広げられる本格ユーモア・ミステリー。作風としてギャグが多いこと、野球に関連する話題(話によっては野球を知らないとちんぷんかんぷんなものも多い)や外国産高級車に関する記述が多いことが挙げられる(これはほかの東川作品にも当てはまるが)。ユーモラスな会話のなかに伏線が張り巡らされており、物理トリックよりはプロットと叙述の見せ方によって効果的な結末を演出することが多い。この東川の作風については、有栖川有栖が『密室の鍵貸します』の推薦文で「思わず含み笑いをしてしまうような楽しい小説でもあるのだが…その面白さも実は〈罠〉かもしれないのだ」と評している。 また、西澤保彦の「匠千暁シリーズ」などとおなじように、作品ごとに探偵役が変わるのも特徴である。おおむね、複数の人物がいくつかの推理パートを担当して、それを収斂させることで最終的な結末に向かっていく。主な探偵役は烏賊川市警察の砂川警部と、私立探偵の鵜飼杜夫のふたり。
概要
シリーズ一覧
密室の鍵貸します
新書:2002年4月 光文社カッパ・ノベルス ISBN 978-4334074678
文庫:2006年2月 光文社文庫 ISBN 978-4334740207
密室に向かって撃て!
新書:2002年10月 光文社カッパ・ノベルス ISBN 978-4334074906
文庫:2007年6月 光文社文庫 ISBN 978-4334742706
完全犯罪に猫は何匹必要か?
新書:2003年8月 光文社カッパ・ノベルス ISBN 978-4334075347
文庫:2008年2月 光文社文庫 ISBN 978-4334743802
交換殺人には向かない夜
新書:2005年9月 光文社カッパ・ノベルス ISBN 978-4334076207
文庫:2010年2月 光文社文庫 ISBN 978-4334748449
ここに死体を捨てないでください!
単行本:2009年8月 光文社 ISBN 978-4334926762
文庫:2012年9月 光文社文庫 ISBN 978-4334764708
はやく名探偵になりたい
単行本:2011年9月 光文社 ISBN 978-4334927776
文庫:2014年1月 光文社文庫 ISBN 978-4-334-76676-4
収録作品:藤枝邸の完全なる密室 / 時速四十キロの密室 / 七つのビールケースの問題 / 雀の森の異常な夜 / 宝石泥棒と母の悲しみ
私の嫌いな探偵
単行本:2013年3月 光文社 ISBN 978-4334928759
文庫:2015年12月 光文社文庫 ISBN 978-4-334-77207-9
収録作品:死に至る全力疾走の謎 / 探偵が撮ってしまった画 / 烏賊神家の一族の殺人 / 死者は溜め息を漏らさない / 204号室は燃えているか?
探偵さえいなければ
単行本:2017年6月 光文社 ISBN 978-4-334-91170-6
文庫:2020年1月 光文社文庫 ISBN 978-4-334-77958-0
収録作品:倉持和哉の二つのアリバイ / ゆるキャラはなぜ殺される / 博士とロボットの不在証明 / とある密室の始まりと終わり / 被害者とよく似た男
スクイッド荘の殺人
単行本:2022年4月 光文社 ISBN 978-4-334-91459-2
登場人物
鵜飼杜夫(うかい もりお)
烏賊川市で「Welcome trouble!」と看板を出した私立探偵事務所を営む、痩せた目立たない風貌の男。しかし、見方や格好によってはカッコよくも中年親父とも切れ者とも凡人とも取れる、変幻自在で探偵に向いた容姿。その風貌とは裏腹に、口はたいへんに軽く粗忽で無神経で図々しいだけが取り柄と評されている。無神経な言動でひとを軽口でからかうのが無自覚な趣味となっている。特技は即興変装と声帯模写。特に猫の鳴きまねが得意で、自らを「江戸家バケ猫」と称する(朱美らが言うに人間をやめているレベル)。ミステリーは大概のものを読破しており、それが事件解決のヒントになったりする。流平の姉と離婚歴があるが、それについては詳しく明かされていない。金を積まれても地味な内容の仕事はしたがらない、ようは依頼を選り好みする質である。また金銭感覚にも乏しいため、私立探偵としてはまったく儲かっていない。12か月連続家賃滞納の記録を達成している(「高橋慶彦の三十三試合連続安打が霞んでみえるほどの不滅の金字塔」と『完全犯罪に猫は何匹必要か?』にある)わりに、車はルノー・ルーテシアを乗り回している(曰く手ごろな値段とのこと)。この家賃滞納は事件解決によって目減りするが、結局はリバウンドしてしまう。探偵役としては有能で、『密室に向かって撃て!』では名探偵役となり、他作品でも事件解決に重要な役割を果たしている。まじめに仕事をしている素振りはあまり見せないが、探偵ということに矜持を持っており、カッコつけたがる。『交換殺人に向かない夜』以降一部地域で(猪鹿村・盆蔵山周辺限定だが)名探偵として有名人になる。朱美が男をナンパしていると誤解したとき平静をなくして妨害するなどしている。『交換殺人には向かない夜』では崖から朱美と落ちて助かったり、『はやく名探偵になりたい』で階段を数十段落ち、車にはねられて生きながらえたり、かなりの生命力をもつ。(地の文ではスタントマンと称される)
戸村流平(とむら りゅうへい)
ホームシアターでの殺人事件に巻き込まれたところを元義兄の鵜飼に頼って助けられ、以降弟子として事務所で働いている青年。タイガースファン。探偵サイドでは主に彼の視点で語られる。単純かつ短気であり激怒、もしくは泥酔すると癇癪を起して所構わず罵詈雑言を放ち大暴れをする悪癖を持つ。記憶力にも乏しく1週間前のこともすぐ忘れる。