炭酸同化
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炭素固定(たんそこてい、: carbon fixation, carbon assimilation)とは、無機的に(主に二酸化炭素の形で)存在する炭素有機物質の形に変換して生体内に取り込む過程のこと。別名は、炭酸固定、二酸化炭素固定、炭素同化、炭酸同化など。生物が行う代謝活動の一部である。取り込まれた炭素は生体物質の一部となる。植物藻類シアノバクテリアなどが行う光合成(photosynthesis)による炭素固定のほか、ある種の微生物が行う化学合成(chemosynthesis)による炭素固定も知られている。

炭素固定を行う能力(autotrophy)をもつ生物は独立栄養生物(autotrophs)と呼ばれる。対して、自身では炭素を固定できず、外部から食べ物などの形で摂取する必要がある生物は従属栄養生物(heterotrophs)と呼ばれる(ヒトなど)。さらに独立栄養生物のうち、(ほとんどの場合、太陽光)をエネルギーとして利用するものは光合成独立栄養生物(photoautotrophs)、無機物からエネルギーを取り出して利用するものは化学合成独立栄養生物(chemoautotrophs, chemolithoautotrophs)と呼ばれる。環境に応じて、異なる炭素源やエネルギー源を組み合わせる生物も多く存在する(混合栄養生物)。ちなみに、光を利用する生物がすべて独立栄養生物であるわけではない(光合成従属栄養生物)。
炭素固定の種類

これまでに6種類の炭素固定回路が見つかっている[1][2]。もともと還元的ペントースリン酸回路のみが生物界に存在する炭素固定回路だと思われていたが、20世紀後半以降次々と新しい回路が発見されている。
還元的ペントースリン酸回路(カルビン回路):光合成生物のみに見られる

還元的アセチルCoA回路(ウッド・リュンガル回路):化学合成生物のみ

還元的クエン酸回路(逆TCA回路):光合成・化学合成生物

ジカルボキシレート/4-ヒドロキシ酪酸(DC/4-HB)サイクル:化学合成生物のみ

3-ヒドロキシプロピオン酸/4-ヒドロキシ酪酸(3-HP/4-HB)サイクル:化学合成生物のみ

3-ヒドロキシプロピオン酸(3-HP)二重サイクル:光合成生物のみ

還元的ペントースリン酸回路(カルビン回路)詳細は「カルビン回路」を参照

多くの光合成生物に利用されており、今日の地球環境において最も広く分布している炭素固定回路である。光合成は、光エネルギーによって起こる光化学反応(明反応)およびそれに続く炭素固定(暗反応)からなる。光合成を行うすべての真核生物および多くの光合成細菌では、還元的ペントースリン酸回路が暗反応を担っている。明反応の過程で発生するATPNADPHを利用して、暗反応では二酸化炭素(CO2)がグルコースなど有機化合物に変換される。CO2は、リブロースビスリン酸カルボキシラーゼ(RubisCO)によってリブロース-1,5-ビスリン酸(RuBP)と結合して3-ホスホグリセリン酸(G3P)に変換されることで生体に取り込まれる。還元的ペントースリン酸回路はRuBPの再生を伴う循環回路を形成する。ちなみにC4型およびCAM型光合成を行う植物は、CO2を炭酸イオン(HCO3-)に酵素的に変換したのち、いったんオキサロ酢酸の形で取り込む機構を有する。この機構により、生体内におけるCO2の濃度を高め、その後に続く還元的ペントースリン酸回路による本来の炭素固定の効率を高めている。還元的ペントースリン酸回路は古細菌からは見つかっておらず、現在この回路の起源はシアノバクテリアにあると考えられている[3]

酸素発生型光合成では、明反応において水が光分解して酸素が発生する。酸素非発生型光合成では、水以外の物質(水素硫化水素チオ硫酸など)が電子供与体として利用されるため、水の光分解は起こらず酸素も発生しない。物質収支を下に示す。

酸素発生型光合成の物質収支

6 CO 2 + 12 H 2 O ⟶ C 6 H 12 O 6 + 6 H 2 O + 6 O 2 {\displaystyle {\ce {{6CO2}+ 12H2O -> {C6H12O6}+ {6H2O}+ 6O2}}}


酸素非発生型光合成の物質収支

硫化水素利用
6 CO 2 + 12 H 2 S ⟶ C 6 H 12 O 6 + 6 H 2 O + 12 S {\displaystyle {\ce {{6CO2}+ 12H2S -> {C6H12O6}+ {6H2O}+ 12S}}}

水素利用
6 CO 2 + 12 H 2 ⟶ C 6 H 12 O 6 + 6 H 2 O {\displaystyle {\ce {{6CO2}+ 12H2 -> {C6H12O6}+ 6H2O}}}
光合成生物と炭素固定

酸素発生型の光合成を行う生物(真核生物およびシアノバクテリア)はすべて還元的ペントースリン酸回路で炭素固定を行っているのに対して、酸素非発生型の光合成を行う生物(嫌気性の細菌のみ)では、種によって炭素固定回路が異なる[4][5][3]

還元的ペントースリン酸回路

光合成真核生物

シアノバクテリア


紅色硫黄細菌(purple sulfur bacteria; ガンマプロテオバクテリア

紅色非硫黄細菌(purple non-sulfur bacteria; アルファプロテオバクテリア

一部の緑色非硫黄細菌(green non-sulfur bacteria; クロロフレクサス

(ただし、種によって部分的に差異がある)[6]

3-ヒドロキシプロピオン酸二重サイクル

一部の緑色非硫黄細菌(green non-sulfur bacteria)

還元的クエン酸回路

緑色硫黄細菌(green sulfur bacteria; クロロビウム[7]

上記以外の光栄養細菌は従属栄養生物で、炭素固定能力は持たない(ヘリオバクテリア、一部のアシドバクテリア、一部の緑色非硫黄細菌など)。また、光合成生物があまねく利用しているクロロフィル(またはバクテリオクロロフィル)を用いた光化学系とは別に、バクテリオロドプシンを用いた光化学系を利用する生物が存在するが(高度好塩菌など)、この中で炭素固定を行える生物は見つかっていない。
還元的アセチルCoA回路


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