炭塵(たんじん、英語: coal dust)は、破砕、研磨、粉砕などによって、石炭が微細な粉末になった状態。石炭は脆いため、その採掘や運搬、機械的処理の過程で炭塵が発生することがある。飛散粉塵
(英語版)のひとつである。石炭を粉砕して粉塵状にすると、燃焼の速度と効率が向上し、石炭の取り扱いも容易になる。しかし、管理の行き届いた粉砕の環境や燃焼機器の外部の空気に浮遊する炭塵は、労働者にとって危険を孕んだものである。空中に浮遊する炭塵は、爆発性をもつ深刻な危険物であり、また、長期的にはこれを呼吸によって大量に吸引した人々に肺の疾患を発症させる恐れがある。
炭塵に加え、岩石由来の微粒子などを含めた粉塵を総称して坑内粉塵といい、特に坑道内の空気中に浮遊しているものを浮遊粉塵、坑道の床などに堆積しているものを堆積粉塵という[1]。 アメリカ合衆国などにおいては、炭塵の粒子の大きさは、メッシュ
粒子の大きさ
炭塵とされる粒子の粒径は必ずしも明確に定義されていないが、通常は数百ミクロン以下と考えられている[1]。 アメリカ合衆国では、職業安全衛生局
危険性
暴露炭塵爆発の3段階。(上)連鎖する炭塵爆発の最初の段階。(中)衝撃波に次いで火炎が広がる。(下)衝撃波によって新たに舞い上がった炭塵が遅れて到達した火炎によって着火し更なる爆発が発生する。クリエール炭鉱事故を描いた『Le Petit Journal』の挿画。1913年10月、センゲニード炭鉱事故で炭塵爆発が発生した後、立坑坑口(英語版)に集まった群衆。
空中に浮遊する炭塵は、石炭の塊よりも重量あたりの表面積が遥かに大きくなるため、爆発しやすく、自然発火するおそれが大きい。結果的に、ほとんど空になっている石炭貯蔵庫は、石炭が満載された状態よりも、爆発の危険性が高くなる。爆発を防止するおもな手法としては、安全ランプ(英語版)の使用、坑道に設ける石材の覆いによる炭塵飛散の抑制、機材や人員への水かけ、効率的な換気の確保などがある。
また別の炭塵爆発防止策としては、岩石由来の粉塵を入れるという手法もあり、通常は、粉砕された石灰岩を用いて温度が高くなった坑内ガスの熱を吸収させる。この手法は1990年代はじめから使われ出したが、その後、技術的に大きな進歩があった[5]。
史上最悪の鉱山事故は、炭塵の粉塵爆発によって引き起こされており、1913年にサウス・ウェールズ(英語版)のセンゲニード(英語版)で起きたセンゲニード炭鉱事故(英語版)では 439人の坑夫が死に、1906年にフランス北部で起きたクリエール炭鉱事故(フランス語版、英語版)では犠牲者が 1099人にのぼり、1962年にドイツのルイゼンタール炭鉱(ドイツ語版)で発生した事故(ドイツ語版) 299人、そして最も多くの死者が出た1942年の中国の本渓湖炭鉱における事故では 1,549人が犠牲となった。こうした事故は、通常、坑内爆発性ガス(英語版)の爆発から始まり、その衝撃波が坑内の床に積もっていた炭塵を舞い上げ、爆発性の高い気体ができてしまう。このような仕組みについては、1844年の時点でマイケル・ファラデーとチャールズ・ライエルが、ダラム州ハスウェル(英語版) の炭鉱で調査をおこなって、すでに解明していたが、彼らの結論は同時代には無視されていた。 英語の表現では「炭鉱夫の塵肺 (coalworker's pneumoconiosis)」とか「黒肺病 (black lung disease)」と称される石炭塵肺 火力発電所で使用する石炭は、石炭粉砕機と称される機械で粉砕される[6]。こうして生産された微粉炭 (powdered coal, pulverized coal) は、化石燃料火力発電所
肺や皮膚の被害
エネルギー源として
脚注^ a b 世界大百科事典 第2販『坑内粉塵』 - コトバンク
^ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典『メッシュ』 - コトバンク - 3つ示されている mesh の語義の2番目
^ “技術情報 メッシュとミクロンの比較表”. 明治機械製作所. 2019年9月12日閲覧。
^ “CDC ? NIOSH Pocket Guide to Chemical Hazards ? Coal dust”. www.cdc.gov. 2015年11月27日閲覧。
^ Harteis, SP (2016年11月1日). “Review of Rock Dusting Practices in Underground Coal Mines” (英語). U.S. National Institute for Occupational Safety and Health. 2019年3月11日閲覧。