火薬類
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この項目では、燃焼物質について説明しています。飲食物の薬味については「加薬」をご覧ください。
無煙火薬

火薬(かやく)とは、や衝撃などにより急激な燃焼反応をおこす物質爆発物)のことを指す。狭義には最初に実用化された黒色火薬のことであり、ガン・パウダーの英名通り、銃砲に利用され戦争の歴史に革命をもたらした。

日本では江戸時代には焔硝(えんしょう)の語がよくつかわれ、昭和30年代頃までは、玩具に使われる火薬を焔硝と言う地方も多かった。

GHSにおける火薬類とは、Explosives(爆発物)のことである。
目次

1 分類

2 火薬の科学

3 用途

3.1 推進薬としての火薬

3.2 破壊用の火薬

3.3 点火用の火薬

3.4 花火

3.5 工業用途

3.6 発電

3.7 照明・信号用

3.8 エンジンの起動用

3.9 芸術


4 歴史

5 日本における火薬

6 火薬、爆薬の種類

7 法律

8 脚注

9 文献

10 関連項目

11 外部リンク

分類

Explosives(爆発物)であるが、日本の火薬類取締法上では「推進的爆発の用途に供せられるもの」を火薬、「破壊的爆発の用途に供せられるもの」を爆薬、火薬や爆薬を加工したもの(雷管導火線花火銃砲弾爆弾など)を火工品(かこうひん)と区別している。科学的な分類では、その燃焼速度が音速以下のものを火薬、音速以上のものを爆薬とする場合が多いが、まとめて火薬ということもある。また、さらに火薬を推進薬(すいしんやく)、発射薬(はっしゃやく)、爆薬を炸薬(さくやく)、起爆薬(きばくやく)、爆破薬(ばくはやく)、発光剤(はっこうざい)に分類することもある(日本以外の国では、容易に爆発しない安全な爆薬を「爆破剤」と分類することもある)。 いずれも爆発する物質であるため、本稿では火工品以外の全てを取り扱う。
火薬の科学

通常の燃焼と同様に火薬を構成している物質が酸素と結びつくことで(これを酸化という)、火薬に蓄えられていたエネルギーが解放され、熱や光や衝撃が発生する。火薬の燃焼が通常の燃焼と異なる点は空気中の酸素を必要としないことである。例えばニトログリセリンでは炭化水素に結合した硝酸エステル (-O-NO2) が酸化剤の役割になっている。また、黒色火薬のような混合火薬では、燃料に硝酸カリウムなどの酸化剤を混合している。つまり、黒色火薬の場合、黒色火薬に含まれる炭、炭素を燃料とし、硝酸カリウムは反応を高速にする役割を果たしているに過ぎない。ちなみに、黒色火薬は硝酸カリウム、炭素、硫黄を配合して作る。混合火薬の場合、高効率で酸化反応を起こすため、酸化剤の配合比率を最適化することが重要である。また、組成中に酸素を含まなくても、フッ素のように酸化剤として働き、酸化反応を引き起こすことができる物質が存在する。このような酸化反応で、大きな反応熱を発生する物質が火薬の材料に適している。こういった自己反応性物質は外部の酸素を必要としないため、二酸化炭素消火器のような酸素遮断による消火が不可能である。

火薬の反応には色々な種類がある。火薬にマッチなどで火をつけても、必ずしも爆発するとは限らない。一部の火薬では、マッチで点火してもロウソクのようにゆっくり燃えるだけだが、雷管で点火すると一瞬で全体が反応する(爆発)。またダイナマイトなどの一部の爆薬では、雷管の威力により低速爆発と高速爆発の2種類がある。ガソリンや木材が燃えるのを通常燃焼といい、火薬が高速で燃焼するのを爆発という。さらに音速以下の爆発を「爆燃」、音速以上の爆発を「爆轟(ばくごう)」と分類している。「爆轟」状態では燃焼速度が音速を越えるため、衝撃波を投射し周囲の物体を破壊する。「爆轟」発生の有無によって火薬と爆薬を分類することもある。「爆轟」によって生まれた衝撃波が弱まったものが「爆音」になる

火薬が燃焼を始めると、反応熱により酸化反応が促進され、継続的な燃焼が起きる。これに対し爆薬では、酸化反応は爆轟の衝撃波による断熱圧縮によって促進される。このため、熱伝導に律速されることのない急激な燃焼が発生する。

火薬類の最大の特徴はそのエネルギーの発生速度にある。単純な熱量の比較だけなら火薬類よりもガソリンなどの方が大きい。しかし、半径10cmの球体のトリニトロトルエン(TNT)を鋳造した場合、この塊が爆轟して反応が終わるまでの時間はわずかに 14.7ナノ秒しかかからない。

半径10cmの鋳造トリニトロトルエンの重量は6.49kgであり、この爆発熱は約1.17×107Jである。これだけのエネルギーがわずか 14.7ナノ秒の間に放出されるのである。

つまり、エネルギーの発生速度という点で見れば 1.16×1012J/秒となり、これは日本の総発電能力の数倍にもなる数字である。

こうした火薬の能力は主にその分子構造に依存している。一般に複雑で緻密な構造の分子ほどその中に蓄えられているエネルギーが大きく、高い爆発力を持つ火薬となる。近年ではヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン (HNIW) の様に、コンピューターシミュレーションにより理想的な分子構造を決定し、それを基に合成された高性能火薬も登場している。さらにより大きなエネルギーを持つ電子励起状態の原子を用いた電子励起爆薬も研究されている。

火薬は爆発力が強いだけでは実用化されることはない。爆発力が強力であっても安定性が低い場合、わずかな衝撃で容易に爆発が起こり、製造工場や輸送機関などに多大な損害を与えるためである。実際に、火薬の発明時から爆発事故はついてまわり、19世紀初頭に黒色火薬以外の火薬が開発されるとそれはより悪化した。こうした火薬は安定性が非常に低く、戦場や工事現場で使用する前に大爆発を起こすことが多発したためである。これら新火薬の実用化は、アルフレッド・ノーベルがニトログリセリンを珪藻土などの安定剤に混入して開発したダイナマイトのように、安全な取り扱いが保障されて初めて可能となった。こうしたことから、実際に使用される火薬の感度は低く抑えられ、製造や輸送などでは爆発しないようになっている。また、こうした安定した物質を爆発させるためには弱い火薬などを用い一度起爆を行い、その衝撃によって誘爆させることが必要となる。
用途

火薬は主に、以下の用途に用いられている。
推進薬としての火薬

大砲は火薬の燃焼により発生する圧力によって、銃弾砲弾)に大きな初速度を与え、目標物を破壊する。この用途は火薬のもっとも古くからの用途であり、現代においても大きな割合を占めている。

固体燃料のロケットでは火薬の燃焼が長時間持続し、燃焼ガスの反作用により飛翔する。所定の時間、所定の推力を安定して得るために、ロケット内部の火薬の固まり(グレイン)の形状を最適化することが非常に重要である。
破壊用の火薬

爆薬は「爆轟」によって発生する衝撃波や破片によって周囲の物体を破壊する。爆弾砲弾魚雷手榴弾等の弾頭および弾体・核兵器における爆縮レンズの構成部品として軍事用に用いられる他、発破(はっぱ)として鉱物資源の採掘やトンネルの掘削に用いられる。こうした使用法は黒色火薬時代には爆発力が限られるため限定的な使用にとどまり、19世紀に入って安全で高性能な火薬が多数開発されたことで初めて一般化された使用法である。外国ではビルや野球場のスタンドなどの建造物の解体に際して、内部に爆薬を仕掛け、崩すように一気に解体する手法が行われる。ただし、この方法は日本においては環境基準や、地震に備えるための耐震基準によって建築物が頑強に作られているため実用性がほとんどなく、ほぼ行われることはない。

通常、爆薬に火をつけてもゆっくりと燃えるだけで「爆轟」にはならない。爆薬を起爆するには、雷管信管を用いて爆薬に衝撃波を与える必要がある。これを応用し、不要な爆発物や不発弾などを専用の爆薬で火薬ごと爆破して処分を行うことが各国の警察や軍により行われている。

なお、軍事において単に火薬と呼ぶ場合は装薬(発射薬)を指し、破壊用の火薬は「爆薬」もしくは「炸薬」と呼ばれるのが普通である。
点火用の火薬

ほとんどの火薬は暴発しないよう感度が低く抑えられており、単に火をつけただけでは爆発しないものがほとんどである。そのため、感度が高く爆発力の低い火薬をはじめに小規模に起爆させることによって、本来の目的である高性能火薬を誘爆させるという方法が主に取られている。この目的の火工品としては導火線雷管などがあり、爆薬の起爆等に用いられる。
花火

花火は、火薬に金属塩や金属粉末を混合して燃焼させることで、その時に発する色や音、形を観賞するものであり、発射用と並んで火薬のもっとも古い使用法のひとつである。火薬をそのまま燃焼させるだけでは単色しか出ないが、火薬に炭酸ストロンチウム(紅色)や硫酸銅(青色)などを混ぜることで炎色反応により、様々な色で発光する。打ち上げ花火の場合、上空に打ち上げる際にも火薬の爆発によって打ち上げられる。この打ち上げに用いる火薬は現代においても黒色火薬のままである。これは、ほかの火薬では感度が低すぎるうえ威力が高すぎ、適切な速度や威力を実現できないためである。


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