火星のプリンセス
[Wikipedia|▼Menu]

火星のプリンセス
A Princess of Mars(『火星のプリンセス』)表紙
著者エドガー・ライス・バローズ
訳者小西宏 厚木淳
イラストフランク・スクーノヴァ
発行日 1917年
1965年10月
発行元 A. C. McClurg
東京創元社
ジャンルサイエンス・フィクション
アメリカ合衆国
言語英語
形態ハードカバー
ページ数326
次作火星の女神イサス(The Gods of Mars)

[ ウィキデータ項目を編集 ]

テンプレートを表示

『火星のプリンセス』(かせいのプリンセス、: A Princess of Mars) は、エドガー・ライス・バローズSF冒険小説。初版は1917年。バローズのデビュー作であり、火星シリーズの第1作。
概要

主人公のジョン・カーターは、アメリカの元南軍大尉であるが、生まれ育った記憶がなく、年齢も不詳。幽体離脱火星(バルスーム)に瞬間移動した後、剣で火星生物や火星人と対決し、恋と冒険に生きる。

SFというよりも、ヒロイック・ファンタジーに似る。しかし、後に「剣と魔法」(Sword and Sorcery)と言われることになるヒロイック・ファンタジーの特徴のうち、「魔法」の部分はきわめて希薄である。火星の飛行船の飛行原理なども科学技術SF考証)によって説明されていて、魔術呪術の類は、シリーズを通してほとんど登場しない。惑星冒険ものの嚆矢である(後述)。

「カーターの手記(遺稿)」という形式をとっており、一人称小説として書かれている。好評につき続編が書かれ、全11巻となった。第3作『火星の大元帥カーター』までは3部作として構成され、ジョン・カーターが主人公、デジャー・ソリスがヒロインを務めている。シリーズ中期では両者とも出番が激減しており、後期で主人公格に復帰している。
掲載の経緯

1911年に、『デジャー・ソリス、火星のプリンセス』(Dejah Thoris, Princess of Mars)というタイトルで未完の原稿をオール・ストーリーズ・マガジン社に送ったところ、編集長のトーマス・ニューウェル・メトカーフがこれを気に入り、原稿を完成させるよう依頼。1912年2月号から6月号にかけて、『オールストーリー』に『火星の月の下で』(Under the Moons of Mars)というタイトルで連載された。原稿料は400ドルだったという。

この時のペンネームはノーマン・ビーン(Norman Bean)であったが、これは誤植であり、本来はノーマル・ビーン(Normal Bean)だったという(Normal Beanに「普通のそら豆」という意味だが、「正常な頭脳」の意味もある。これは、余りに突飛な作品のため、「正気なのか?」という読者のクレームをかわす意味らしい[1])。
執筆時のタイトル

My First Adventure on Mars

The Green Martians

Dejah Thoris, Martian Princess

Under the Moons of Mars

日本での反響・評価

日本においては、東京創元新社(現東京創元社)の編集者厚木淳の判断で、「火星シリーズ」全11巻が企画された。その第1巻として出版され、武部本一郎の美麗な挿絵が添えられた。海外でも武部の画は人気がある。なお、当初は小西宏が翻訳した(1965年)が、後に厚木淳版が刊行された(1980年)。また、小西訳であった第6巻までも厚木が訳すこととなった。

なお、厚木によると、本書の出版以前は、地球外を舞台としたSF小説はどまりだった[2]。「地球と火星と舞台にした雄大なスケール、怪奇冒険小説のスリルとSF的興味が渾然一体となったその面白さ」がスペースオペラの典型を確立、1920年代のSF隆盛と多くの後継者を生んだという[3]
あらすじ

エドガー・ライス・バローズ[4] の叔父、ジョン・カーターが突然亡くなった。遺言により、叔父の埋葬と遺産を管理することになったバローズは、次のような叔父の手記を手にした。ジョン・カーターは、過去の記憶が希薄な、元南軍騎兵大尉。金鉱探索中のある夜、彼はアパッチ族に襲われ、アリゾナの洞窟で幽体離脱し、忽然と火星に移動した[5]。火星(バルスーム)は、大気製造工場や飛行艇を持つなど、地球より発達した科学を持つものの、海は干上がり、惑星としては滅びの道を歩んでいた。最初に遭遇した火星人[6] は、六肢の緑色火星人で、部族間や他人種への略奪に明け暮れ、親子の情愛とは無縁の種族だった。次に出会った赤色人[7] も、それぞれに王国(都市国家)を作り、戦争や決闘に明け暮れていた。ジョン・カーターは、緑色人のサーク族に捕らえられる。ところが、驚異的な身体能力[8] で緑色人社会で一定の地位を得、タルス・タルカスという友人もできる。ある日、カーターは地球人そっくりの人間に遭遇する。それは科学調査の途上、野蛮な緑色人の捕虜となった、赤色人王国ヘリウムのプリンセスにして絶世の美女、デジャー・ソリスだった。いくつかの誤解を克服してデジャー・ソリスの信頼を勝ち得たカーターは、邪悪な緑色人皇帝タル・ハジュスの元からデジャー・ソリスを連れて脱走する。ヘリウムへ向かう旅の途中、緑色人ワフーン族の襲撃を受け、カーターは一人で敵を引き受けてデジャー・ソリスを逃がすが、その時、デジャー・ソリスはカーターに愛を告白する。紆余曲折の末、カーターは、ようやくヘリウムの隣国、赤色人王国ゾダンガにたどり着く。そこで目撃したのは、愛するデジャー・ソリスが、ゾダンガの王子サブ・サンと結婚の約束をする姿であった。カーターは、サーク族の新皇帝となったタルス・タルカスの助けを受け、戦いの末、デジャー・ソリスを取り戻す(緑色人が赤色人国家に協力するのは、極めて稀なことである)。カーターとデジャー・ソリスは結ばれ、愛の結晶の卵の孵化を待つばかりとなるが、「大気製造工場が停止し、大気が無くなる」という未曾有の危機が迫っていた。暗証番号を知るのは、今やカーターしかいない。彼は大気が薄くなる中、空気製造工場へ急行、大気を取り戻すための技師を工場に送り込み、意識を失う。目覚めた時、カーターがそこに見たのは、かつて地球を後にした時の見覚えのあるアリゾナの洞窟と、元の自分の体だった。彼は発見した金鉱で裕福に暮らすも、火星への思慕はつのるばかり。そして、2度目の火星への旅が迫っていることを、彼は感じていた。
主な登場人物

以下、主人公以外は火星人、及び火星生物である。
ジョン・カーター(John Carter)
主人公。地球人で、バージニア州の元南軍大尉。友情に厚く、信義を重んじる。剣の達人。
デジャー・ソリス(Dejah Thoris)
ヒロイン。赤色人で、ヘリウム王国の王女。絶世の美女。ヘリウムを救うため、交戦国のゾダンガに嫁ぐ決意をする。
ソラ
緑色人で、サーク族の娘。捕虜であるジョン・カーターや、デジャー・ソリスの世話役。緑色人としては例外的に、親子の情愛を持っており、両親のことも知っている。
タルス・タルカス
緑色人で、サーク族の副首領。カーターの親友となる。
タル・ハジュス
緑色人で、サーク族の邪悪な皇帝。
カントス・カン
赤色人で、ヘリウムの海軍士官。カーターの友人となる。
サブ・サン
赤色人で、ゾダンガの王子。デジャー・ソリスに想いを寄せている。
ウーラ
キャロット(犬に相当する火星の生物で、10本脚)。ジョン・カーターの愛獣だが、元はサーク族が、カーターへの「見張り」としてつけた。戦闘力は大白猿(4本腕)と互角。
日本語版

複数の邦題があるので、タイトル別に分類する。
火星のプリンセス

出版社/レーベル刊行翻訳画
創元推理文庫1965年10月小西宏武部本一郎
講談社1967年5月亀山龍樹司修
角川文庫1967年7月小笠原豊樹遠藤拓也
秋元書房<ヤングシリーズ2>1968年9月谷元次郎小松崎茂
偕成社<SF名作シリーズ15>1968年11月野田開作池田竜雄、武部本一郎
集英社ジュニア版世界のSF13>1970年2月内田庶岩淵慶造


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:39 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef