火力発電所
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ベウハトゥフ発電所(ポーランド

火力発電所(かりょくはつでんしょ、thermal power station)とは、石炭石油天然ガスなどを燃料とする火力発電による発電設備がある発電所を指す。火発(かはつ)という略称が用いられることもあるものの[1]、報道での使用頻度は水力発電所を表す「水発」(すいはつ)と共に、原子力発電所の「原発」に比べると少ない。
火力発電所の歴史

世界初の商用発電所は、トーマス・エジソンにより建設され、1882年9月から稼働したニューヨークマンハッタンパール・ストリートの火力発電所であった。当時の動力は石炭燃料による175HPの往復動式蒸気機関であった。電灯需要地に近いエリアへ直流送電するため都市内に建設されたものである。

1880年代後期にはニコラ・テスラウェスティングハウス・エレクトリックによる高圧交流送電技術の実用化が進み、火力発電所も都市外縁部や郊外で冷却水の確保に有利な河川沿いや沿海部に展開されるようになった。またこれと軌を一にした水力発電技術の進歩、長距離高圧送電技術の向上に伴い、世界各国で火力発電と水力発電を併用して需給調整に応える手法が広まった。

その後、より高速で大型化に適した蒸気タービンが1890年代以降に実用化され、火力発電に利用されるようになると、火力発電所の大型化が進んだ。水力発電に比して立地の自由度が高いこと、石炭のほかに石油・天然ガスなど多様な燃料を利用し得ること、需要に応じた拡張が技術的に容易なことから、水力発電の好適地以外では発電手段の主流となっている。

1970年代には石油危機により石油代替エネルギーとして原子力発電の利用が促進されたものの、1990年代以降になると先進国での原子力開発が鈍化した結果、原子力発電の伸び率は年平均約0.6%と鈍化した[2]

2016年の世界の電源設備容量の発電設備構成の比率では火力発電が最も大きく61.6%となっている。また、2016年の世界の発電電力量では、石炭火力が38.4%、石油火力が3.7%、ガス火力が23.2%という比率となっている[3]

2010年代には地球温暖化対策の視点などから、二酸化炭素の排出量の多い石炭火力からの脱却が求められるようになった。2016年に行われた第22回気候変動枠組条約締約国会議(COP22)に合わせ、フランスは2023年、イギリスは2025年、カナダは2030年までに石炭火力を廃止する方針を打ち出したが[4]、日本は東日本大震災の影響で原子力発電所の再開ができず、代替エネルギーの確保に追われていた状況から抜本的な方針を打ち出せずにいた。ようやく2018年に新規石炭火力発電所の設置に規制を掛ける方針を示したが[5]、2019年の第25回気候変動枠組条約締約国会議(COP25)では、集中的な非難を浴びることとなった[6]

2017年に誕生したアメリカのドナルド・トランプ大統領は、地球温暖化問題に懐疑的で、従来型の経済活動を阻害するパリ協定から離脱するなど二酸化炭素の排出問題に後ろ向きな姿勢を示していたが、同時期、アメリカ国内ではコスト的な問題などから多くの石炭火力発電所が閉鎖されていった[7]。トランプ大統領が2020年アメリカ合衆国大統領選挙で敗れ、ジョー・バイデン政権が誕生するとアメリカも政策転換が図られ[8]、世界的に石炭火力発電所の風当たりは増すこととなった[9]
長所と短所「火力発電#長所と短所」を参照
火力発電所の分類
発電方法による分類
汽力発電所

燃料の燃焼で放出される化学エネルギーで水蒸気を作り、蒸気タービンを回転させることによる、汽力発電の設備を持つ発電所。発電技術の発展とともに大容量化が進み、現在では1基あたりの出力は105万kW級が日本国内で最大である[10]。なお単に汽力発電と言った場合には、原子力発電地熱発電太陽熱発電も含まれる。

採用例

北海道電力 苫東厚真発電所 4号機 (70万kW)

JERA

姉崎火力発電所1号機(60万kW):日本初の超臨界圧ボイラーおよび蒸気タービンを採用。

碧南火力発電所3号機(70万kW):日本初の超々臨界圧ボイラーおよび蒸気タービンを採用。

鹿島火力発電所5、6号機(各100万kW):日本初の100万kW機。


電源開発(J-POWER) 橘湾火力発電所1、2号機(各105万kW):単機出力は火力発電所では日本国内最大[10]


内燃力発電所

燃料の燃焼で放出される化学エネルギーで内燃機関を回すことによる、内燃力発電の設備を持つ発電所。

使用される内燃機関はディーゼルエンジンが主流であり、ガスエンジンやガスタービンを使用している発電所もある。

始動性が良く、需要調整が最も容易であることや、小規模需要向けの発電施設を作りやすいことから、佐渡島沖縄諸島小笠原諸島など、離島の電源、発電所の非常用電源として設置されている。

1900年代-1920年代には石炭ガスを燃料に、気筒数の少ない巨大なガスエンジンを動力に用いた、当時の汽力発電所に比肩する出力の内燃力発電所が都市近郊に建設された時代もあった。だがこの当時の低速ガスエンジンは騒音・振動が大きく、発電所外にまで騒音が響いたり、発電所のコンクリート建築に亀裂が生じるほどの影響があったため、汽力発電を代替する存在とはならずに衰退した。内燃力発電所が広く用いられるようになったのは、内燃機関の高速・低振動化が進んで以降である。

採用例

東北電力ネットワーク 両津火力発電所1、3 - 9号機(計5.3万kW):内燃力発電所(ディーゼル発電)では日本最大級の発電規模。

北海道電力 音別発電所1、2号ガスタービン(計14.8万kW):ガスタービン発電所。

関西電力 関西空港エネルギーセンター1、2号ガスタービン(計4万kW):ガスタービン発電所。

東京電力 横須賀火力発電所1、2号ガスタービン(計17.4万kW):同発電所は汽力発電がメイン。ガスタービン発電設備は予備的な存在。1号ガスタービンは非常用。

沖縄電力 牧港火力発電所1、2号ガスタービン(計16.3万kW):同発電所は汽力発電がメイン。ガスタービン発電設備は予備的な存在。


コンバインドサイクル発電所

ガスタービンの排熱で汽力発電も行う、コンバインドサイクル発電の設備をもつ発電所。

2重に発電を行うため、他の発電方法と比べ熱効率が高く、ガスタービンであるため始動性も良い。

ガスタービンと、蒸気タービンを組み合わせた小容量のユニットを複数設置し、3 - 6台ずつグループとして運用するため、起動・停止や出力の変化が速い。

系列あたりの出力は大容量でありながら、上記運用方法により効率の低下が少ないという特徴がある。

採用例

北海道電力 苫東厚真発電所3号機(8.5万kW):商用では世界初の加圧流動床複合発電(PFBC)方式を採用。※2005年10月廃止

JR東日本 川崎火力発電所1号機(14.42万kW):日本初のコンバインドサイクル発電方式を採用。

東北電力 東新潟火力発電所3号系列(121万kW):日本初の大容量コンバインドサイクル(CC)発電方式を採用。

中国電力 柳井発電所2号系列(70万kW):日本初の1,300℃級改良型コンバインドサイクル(ACC)発電方式を採用。

JERA

川崎火力発電所1号系列(150万kW):日本初の1,500℃級コンバインドサイクル(MACC)発電方式を採用。

知多第二火力発電所1、2号機(各85.4万kW):ガスタービン発電設備を追設し排気再燃型1,300℃級ACC方式に変更。


中国電力 水島発電所1号機(28.5万kW):設備更新で1,400℃級ACC方式に変更。


燃料の種類による分類
石炭火力発電所詳細は「石炭火力発電所」を参照

火力発電の黎明期から使用されている。2017年時点で世界の電気の38%(最大の割合)が石炭で作られている[11]。日本ではかつて国内炭使用であったが、近年は海外炭であるほか、細かな粉末(微粉炭)にして燃焼している。オイルショック以降、石油火力から転換した発電所も多い。中には石炭から石油に転換後、石炭に再転換した発電所もある。

石炭は世界に広く分布するため、燃料の安定供給性や経済性に優れ、ベースロード電源として運用されている[12]。近年は石油火力に代わって建設された60 - 100万kW級の大型火力が主力である。

発電効率向上のため、近年では超々臨界圧(蒸気温度593℃以上、蒸気圧力24.1MPa以上)のボイラーおよび蒸気タービンを採用している[13]

石炭を燃焼させた後の灰(フライアッシュ)はセメントの原料として外部に売却されるほか、埋立用としても使用される[14]

石炭火力は二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量が最も多いため、地球温暖化対策の足かせになっている[12]。その対策として発電効率の向上やCO? の分離・回収・貯留技術の推進などが行われている[12]。「火力発電#長所と短所」を参照

また、煙突よりばい煙を噴出し公害をイメージするものとして描かれる事が多かったが、日本では集塵装置を始めとする諸設備により大気汚染防止対策が採られている[15]。一方、こうした対策が講じられていない国も多くあり、中国の例では2011年に北京市天津市河北省に存在する発電所のばい煙により、呼吸器疾患等で9,900人が死亡したとするデータもある[16]

採用例

北海道電力 苫東厚真発電所1,2,4号機 (総出力165万kW)

JERA 碧南火力発電所1 - 5号機(計410万kW):石炭火力では日本最大の発電量。3号機は日本初の超々臨界圧ボイラー[13]および蒸気タービンを採用。

電源開発(J-POWER)

松島火力発電所1、2号機(各50万kW):石炭火力では日本初の超臨界圧ボイラー[13]および蒸気タービンを採用。日本で初めて海外炭を使用。

松浦火力発電所1号機(100万kW):1号機は石炭火力では日本初の100万kW機[13]。2号機は主蒸気圧力24.1M?、主蒸気温度593℃、再熱蒸気温度593℃を達成した世界初の大規模超々臨界圧火力発電所[13]

橘湾火力発電所1、2号機(各105万kW):単機出力は火力発電所では日本国内最大。


石炭火力発電所模式図 1. 冷却塔 10. 蒸気調圧弁 19. 過熱器
2. 冷却水ポンプ 11. 高圧タービン 20. 強制通風ファン
3. 送電線 (三相) 12. 脱気器 21. 再熱器
4. 変圧器 (三相) 13. 給水加熱器 22. 空気取入口
5. 発電機 (三相) 14. 石炭コンベア 23. 節炭器(エコノマイザ)
6. 低圧タービン 15. 石炭ホッパー 24. 空気予熱器
7. 復水ポンプ 16. 微粉炭機 25. 集塵装置
8. 復水器 17. ドラム 26. 誘引ファン
9. 中圧タービン 18. 灰貯留ホッパ 27. 煙突

日本の発電用石炭の輸入相手国は、オーストラリア 72%、ロシア 13%、インドネシア 9%、アメリカ合衆国 3%、カナダ 2%、その他 1%である[1]。
石油火力発電所

主に重油を燃料とする発電所が大半を占める。原油軽油灯油を燃料とする発電所も存在する。かつてはナフサも使用されていた。アスファルト・ピッチの利用も進められている[17]

日本では第二次世界大戦以降、急速に普及し1970年代前半には石油火力が大半を占めていたが、オイルショック以降、他の燃料への代替が進んでいる。

現在では石油火力発電所の新設が原則として禁止されており(後述)、老朽化した旧式の発電設備が多く効率も悪いため、稼働率低下の一因となっている。


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