準男爵
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準男爵(准男爵、じゅんだんしゃく)、バロネット(baronet)は、イギリス世襲称号の1つ、またそれを持つ者。従男爵(じゅうだんしゃく)とも[1]男爵(baron)の下位、ナイト(knight)の上位に位置する[2][注釈 1]。準男爵は世襲称号の中では最下位で、貴族ではなく平民である[4]貴族院にも議席を有さない[5][6]

準男爵位は爵位と異なり、準男爵という肩書だけ与えられる(「○○準男爵」といった形では与えられない)。他の準男爵位と区別する必要がある場合には姓名を付けたり、由来する地名を付けたりして区別する。敬称はナイトと同様に「サー」や「デイム」である。女性形はバロネテス(baronetess)で、女準男爵と訳すことがある。これは女性が当主である場合である。準男爵の妻はレディ(lady)の敬称で呼ばれる[7]。短縮形は、baronetはBtまたはBart、baronetessはBtss。
歴史
創設の背景準男爵位を創設したイングランド王・スコットランド王ジェームズ1世(6世)(ジョン・ド・クリッツ(英語版)画)

ステュアート朝初期の17世紀初頭、イングランドの王庫は財政破綻の危機に瀕していた。16世紀末からの対スペイン戦争の負債が重くのしかかっていた上、王領地の払い下げもほぼ終了していたため、王領地売却による一時金も地代収入も期待できなくなっていた。この危機を打開するため様々な財政改革案が出され、その一つとして構想されたのが世襲の新位階を販売することだった[8]

最初に新位階の創設を考案したのは哲学者で下院議員だったフランシス・ベーコンであるが、彼の構想は販売ではなく、アイルランド入植を推進するために入植者に与えることを想定したものだった[9]。このベーコンの構想にヒントを得て新位階を販売すべきことを主張したのが尚古学者で下院議員のロバート・コットン(英語版)だった[10]1611年に「大契約」が議会で否決されると、コットンの提案はほとんど無修正でイングランド王スコットランド王ジェームズ1世(スコットランド王としてはジェームズ6世)と枢密院に採用された[10]
準男爵の創設

ジェームズ1世は、1611年5月22日に開封勅許状を公表し、準男爵位の販売を開始した[5]。この勅許状は、アイルランド北部アルスターへの植民を熱心に進め、兵士30人を3年間養える費用(1,095ポンド)を献納した地主たちにふさわしい名誉を与えるために男系継承される世襲称号の準男爵を創設すると宣言し、今後同様の貢献をした者にも授与していくことを示しつつ、価値の暴落を抑えるため200人に限定することを定めた[11]

また勅許状に付された文書によれば、年間1,000ポンド以上の地代がある土地を有する地主であって、父方の祖父が紋章を有していることという条件も設けられていたが、これらの制限はやがて破棄されることになる[12]。同文書は準男爵と他の位階との関係については、他の位階を現に所有している者たちへの配慮もあって曖昧な扱いにしている[13]。また同文書は集まった金の使途について、第一にアルスターへの植民と軍隊の経費に充てるが、その目的が達成された後は他の財源で賄えない問題の対処に宛てると定めている[13]
授与基準の変化

当初、購入希望者は1,095ポンドを財務省に通常3回の分納で支払うことになっていたが、金額も決済方法も厳密に守られ続けたわけではなく、需要と供給により変動があった。それでも準男爵設置後数年間はほぼ規定通りの額が支払われたようである[14]。1611年3月から1614年3月までに財務省に準男爵購入金額として90,885ポンドが払い込まれているが、この資金はアイルランドのイングランド軍駐屯費の約70%を充足した[14]

勅許状で曖昧になっていた準男爵の序列について男爵の下か、男爵のヤンガーサンの下か、1612年4月の枢密院において激しい論争が行われたが、結局国王の裁可で男爵のヤンガーサンの下、ナイトの上位と定められ、準男爵にはアルスター紋章「アルスターの赤い手」の使用が認められることになった[15]

1614年の議会では準男爵の創設に不安を持つ男爵とナイトの称号を持つ者たちが準男爵の廃止を要求している。実際に廃止されることはなかったが、準男爵への風当たりは強かったことが見て取れる[15]

1614年の議会の失敗で議会から補助金を得られず王庫が一層不安定になると、政府は貴族の爵位の販売を開始しはじめ、唯一購入可能な位階という位置づけだった準男爵が宙に浮くようになった[15]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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