深発地震
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千島列島の震源断面図。太平洋側A'からオホーツク海側Aに向かって深くなるように深発地震面が分布する。
黄緑・青に着色されたのが稍深発地震、紫・赤に着色された震源が深発地震。

深発地震(しんぱつじしん、: deep(-focus) earthquake)とは、地下深いところで発生する地震のことである。深発地震は原則として、深く潜り込むリソスフェア(スラブ)内部の性質変化に起因するスラブ内地震(: intraslab earthquake)である。プレートテクトニクスの観点からは海洋プレート内地震(沈みこんだ海洋プレート内で起こる地震)に分類される。

観測史上震源が最も深い地震はUSGSがフィジーにおいて観測した深さ700 kmを超える地震とされており[1]、日本においては小笠原諸島西方沖地震 (2015年)余震である、震源の深さ698 kmが最も深い地震とされている[2]
定義

深発地震は震源の深さが深い地震であるが、明確な定義はない。だいたい深さ60 kmまでの地震を浅発地震(: shallow-focus earthquake)、60 kmから200 kmまでの地震を稍(やや)深発地震(: intermediate-depth earthquake)、200 km以深で発生する地震を深発地震という[注 1]。深さ500 - 670 kmで深発地震が発生することは多いが、670 km[注 2]以深ではほとんど発生しない。ただし、トンガ海溝や@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}小笠原海溝など[要出典]の特殊な地下構造となっている一部の地域では、これを上回る深さの深発地震も少数ながら発生している。

文脈によっては、沈み込む海洋プレート内(とくに、プレート間地震が起こらない、深さ数十 kmより深い場所)で発生する地震を深発地震と称することがある。たとえば芸予地震は、前者の定義では深発地震や稍深発地震には当たらないが、後者の定義では深発地震となる[注 3]
メカニズム対流の概念図マントルの構造

深発地震はプレート沈み込み帯の地下深くで発生し、それ以外の場所では海嶺下やホットスポット周辺も含めてまったく発生しない。そのため、世界で深発地震が発生する場所は限られている。

地下において深発地震が発生する地帯は、緩やかなカーブを描いた面状に分布している。これを深発地震面という。深発地震面は、断面図上に震源分布をプロットしていくと現れる。これを1927年に初めて発見したのが和達清夫であった[3]1930年代には日本の地震学研究者の間では広く認知されていた。一方、欧米では同時期に米国のヒューゴー・ベニオフが観測結果から深発地震の存在を予見しており、1950年代に研究成果を挙げて学界でも広く認められた。当時は地震は深くても数十 kmほどまでの浅いところでしか発生しないと考えられており、この発見が地震研究にも大きな影響を与えた。以前は欧米を中心に深発地震面を「ベニオフ帯(Benioff Zone)」と呼んでいたが、近年は和達の功績を含めて「和達-ベニオフ帯」と呼ぶことが多い。

深発地震の存在が定説となった1930年代には、諸説あったものの、地上の地震が地殻のごく表面で起こるのに対して、地下にはスラブという固い岩盤が存在し、そこで断層運動が発生しているのではないかと考えられた(スラブ内地震)。また、地下300 km付近に深発地震の少ない地帯が存在することから、その上下を「稍深発」と「深発」に区分するようになった。

1960年代に支持されるようになったプレートテクトニクスでは、プレートが海溝に沈み込んだ後の様子を示す1つの証拠として深発地震面が用いられた。この理論によりプレートの運動が深発地震と結び付けられたことで、深発地震のメカニズムに関して新たな考察がなされた。

主なものとして、古いプレートのスラブは新しいものより温度が低いことが知られているが、この冷たく剛性の高いスラブが沈み込むことで深発地震が発生するという説が唱えられたが、スラブの性質変化と矛盾する部分があり、さらに温度変化との対応にも疑問が投げかけられたことから否定されている。ただし、この研究によって、深発地震面の下や隙間にも、深発地震を起こさないスラブが分布していることが分かった。

現在は、以下のような説が支持されている。プレートの収束型境界で一方のプレートが沈み込むと、周囲のマントルに比べて低い温度を保ち剛体としての性質をもったまま深さ670 kmまで沈み込む。しかしそこは遷移層下部マントルの境界であり[注 4]、これ以深では周囲のマントル密度が急激に増加するため、プレートがそれ以深に沈むことが難しくなり、スタグナントスラブが形成され、プレートが反ることになる。このためプレートに応力が加わり、プレートがそれに耐えられなくなったときに地震が発生する。

プレートの重みでプレートが引きちぎられるような力が加わると正断層地震に、スタグナントスラブにプレートが押し付けられるような力が加わると逆断層地震になる。深さ670 km付近では後者が、それより浅い場所(200 - 500 km程度)では前者が多い。[要出典]

深発地震の震源は深さ500 - 670 kmに広く分布している。上部マントルを構成するかんらん石がおよそ500 km付近以深でスピネル型構造に、660 km付近以深でペロブスカイト構造に結晶構造の相転移を起こすことが知られており、鉱物の相転移が原因とする説が有力視されている[4]が、丸山茂徳らの説を疑問視するものもあり[5]、結論は出ていない。

このほかに、結晶質が非晶質化(アモルファス化)することが原因とする説、間隙水圧の上昇により脱水反応が起きてスラブの摩擦強度が低下すること(脱水不安定・脱水脆性化)が原因とする説がある。

このように複数の説がある背景には、沈み込み帯の深発地震面にもさまざまなタイプがあり、タイプによっては説明できない場合が生じるためである。
深発地震面の種類
二重深発地震面
東北日本(
東日本)の太平洋側で顕著である。


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