深海魚
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「深海魚」のその他の用法については「深海魚 (曖昧さ回避)」をご覧ください。
ホウライエソ (Chauliodus sloani)

深海魚(しんかいぎょ、: deep sea fish)は、深海に生息する魚類の総称。一般的に水深200メートルより深い海域に住む魚類を深海魚と呼んでいる[1]。2023年時点、生きた魚類が撮影により確認された最深記録は8336メートル(西太平洋伊豆・小笠原海溝)である[2]

ただし、成長の過程で生息深度を変える種類や、を求めて日常的に大きな垂直移動を行う魚類も多く、「深海魚」という用語に明確な定義が存在するわけではない[3]
概要20世紀初頭の百科事典『ブロックハウス・エフロン百科事典]』(1906年)に描かれた様々な深海魚

およそ1万5,800種[4][5]が知られる海水魚のうち、少なくとも2,000種以上が深海魚に該当すると見積もられている[6] [注釈 1]。これらは海底付近で暮らす底生性深海魚と、海底から離れ中層を漂って生活する遊泳性(漂泳性)深海魚の2タイプに大きく分けられ、それぞれに含まれる種数はほぼ同数と考えられている[6][7][8]。底生性深海魚と遊泳性深海魚の生活様式はまったく異なり、また進化上の系統分類をよく反映していることから[注釈 2]、深海魚の進化・生態を理解するために両者を区分して考えることは重要である[9]

太陽光の届かない深海には光合成を行う植物海草海藻植物プランクトン)が存在しないため、深海における食物連鎖の基礎を支えるのは浅海の動植物である[10]。浅海で消費されなかった生物の遺骸や排泄物はマリンスノーなどとなって沈降し、最終的に深海に降り積もる。これらの沈み行く有機物オキアミクラゲなど浮遊性の深海生物に消費されるほか、深海底に堆積した後は貝類ナマコクモヒトデなどの底生生物エネルギー源として利用される。彼ら自身は(深海魚を含む)さらに大型の深海生物によって捕食され、深海での食物連鎖を形成する。

深海は極度に高い水圧と低水温に阻まれた暗黒の海域である。また、利用可能な総エネルギーは浅海で生産されるうちのごく一部に過ぎない。深海魚はこの極限とも言える環境に適応するため、浅海の魚類には見られない特殊な身体構造および生活様式を獲得している[11]。地表面の7割を覆うの平均水深は約3,800メートルに達し、200メートル以深の深海は体積比で実に93%を占める。地球で最大の生物圏を構成する深海の環境と、そこに広がる生物多様性を理解するうえで、深海魚研究の果たす役割は大きい。
研究史
深海生物の存在

深海はその過酷な環境と広大な範囲のため、浅海と比べて観察・研究が困難であり、生物が存在するかどうかは長く不明であった。イギリス博物学者であるエドワード・フォーブスは、1839年に行った調査船による観測結果を元に、「深海(300ファゾム=水深548メートル以深)には生物が存在しない」という「深海無生物説」を提唱した[12]。しかし、その後の底引き網や海底ケーブルを用いた各国の調査により、深海から相次いで生物が採取され、この説はすぐに否定されることになる。

深海生物の存在を決定的に証明したのは、1872年から1876年にかけて行われた英国海軍チャレンジャー号による大規模な世界一周探検航海である[13]。この航海がもたらした膨大な海洋学的研究成果をきっかけとして、各国の海洋調査は本格化し、深海魚研究の歴史も幕を開けた。
深海探査艇の登場トリエステ号内部のジャック・ピカール(中央)とドン・ウォルシュ

生身の人間が直接大深度に潜行することはできないため、深海探査には常に困難がつきまとう。漁網中に混獲されたり、海岸に打ち上げられたりした深海魚も時として貴重な標本となったが[注釈 3]、彼らが実際に生きている姿(生息環境や生態)を伝える情報は損なわれていることが多かった。19世紀後半以降、ワイヤーロープや底引き網の改良により大深度からの標本採取が可能になったものの、深海魚を直接観察することは依然容易ではなかった。兵器としての潜水艦第一次世界大戦前には既に実用化されていた一方で、学術目的での潜水機器開発は遅れていたのである。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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