深海生物
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「深海」のその他の用法については「深海 (曖昧さ回避)」をご覧ください。
海の垂直区分。
表層(epipelagic)

中深層(mesopelagic)

漸深層(bathypelagic)

深海層(abyssopelagic)

超深海層(hadal zone / hadopelagic)

深海(しんかい)とは、明確な定義はない[1]が、一般的には200m以深の海域帯を指す[2][3]

深海には光合成に必要な太陽光が届かないため[4]、表層とは環境生態系が大きく異なる。高水圧・低水温・暗黒などの過酷な環境条件に適応するため、生物は独自の進化を遂げており、表層の生物からは想像できないほど特異な形態・生態を持つものも存在する。また、水温や密度の相異のため、表層と深海の海水は混合せず、ほぼ独立した海水循環システムが存在する。

地球の海の平均水深は 3,729メートルであり、深海は海面面積の約80%を占める。21世紀の現在でも大水圧に阻まれて深海探査は容易でなく、大深度潜水が可能な有人や無人の潜水艇や探査船を保有する国は数少ないなどから、深海のほとんどは未踏の領域である[5]
深海の構造

深海とは水深200メートルより深いの部分を指す。これは必ずしも厳密な定義ではなく、これ以外の用法も存在するが、おおよその場合にこのように扱われている。普通はこれより浅い海の部分を表層(epipelagic)という[6]

これは特に生物に基づいての判断であり、この深さまでは太陽光によって植物(プランクトン)が光合成可能であることをその大きな理由としている。この深さでは可視光線はほぼ遮断され、暗黒の世界となる。ただし厳密な測定ではより深くまで通る光はあり、その深さは1,000メートルに達する。そのため200 - 1,000メートルを弱光層、それ以深を無光層と呼ぶ例もある[7]

深海は深度によって次のように区分され、この区分は漂泳区分帯と呼ばれる。区分者により数値が異なることがある。また、深海層を含めない場合もある。

中深層 200 - 1,000メートル

漸深層 1,000 - 3,000メートル

上部漸深層 1,000 - 1,500メートル

下部漸深層 1,500 - 3,000メートル

深海層 3,000 - 6,000メートル

超深海層 6,000メートル以深

深海帯

水深4,000 - 6,000メートルには地球の表面積のほぼ半分を占める広大な深海底が存在し、ここまでを深海帯としている。これより深い超深海帯は海溝の深部のみが該当し、海全体に占める割合は2%に満たない。

世界最深地点は、西太平洋に位置するマリアナ海溝チャレンジャー海淵で、海面下10,920±10メートルである。
特徴
水温深海の海水温度
1. 高緯度海域、2. 低緯度海域。色のついた部分が水温躍層

上部漸深海帯では水温が急激に降下し、下部漸深海帯ではさらにゆるやかに下降する。深海帯では水温はほとんど変化せず、水深3,000メートル以深では水温は1.5℃程度で一定になる[8]

低緯度海域では水深200 - 1,000メートル付近で水温が急激に変化する水温躍層(thermocline)が存在し、中緯度海域では暑い時期だけ生まれる。高緯度海域では存在しない。

水深300メートル付近まで混合層と呼ばれる海水が上下に移動できる領域があり、ここでは低緯度海域の赤道直下では30℃付近、中緯度海域は10 - 20℃となり、高緯度海域は表層から深海まで2 - 3℃前後で一定となっている。低・中緯度の両海域では1,000メートルより深い深海は2 - 3℃前後となって一定となる[5]
水圧

水深が深くなればなるほど大きな水圧がかかることになり、有人潜水艇などの内部気圧を地上と同じに保つためには、10メートルごとに1気圧ずつ増える周囲の圧力に抗するだけの強度が求められる。深海生物はすでに体内の圧力が周囲の水圧と同じになっており、深海中では押しつぶされることはないが、逆に短時間で海上に引き上げられると体内に溶け込んでいたガスが膨張してしまう[5]
密度深海の海水密度
1. 高緯度海域、2. 低緯度海域。色のついた部分が密度躍層

海水は塩分をはじめさまざまな物質が溶け込んでおり、純水より密度は高く1.024 - 1.028 g/cm3程度になっている。海水密度は塩分濃度などとともに温度にも影響を受ける。密度も水温同様に緯度と深度で異なっており、低緯度海域では水深300 - 1,000メートル付近で密度が急激に変化する密度躍層(英語版)(pycnocline)が存在し、中緯度海域では夏だけ生まれる。高緯度海域では存在しない。

水深300メートル付近まで混合層と呼ばれる海水が上下に移動できる領域があり、ここでは低緯度海域では1.024 g/cm3付近、高緯度海域は表層から深海まで1.028 g/cm3強で一定となっていて、中緯度海域は両者の中間となる。いずれの海域でも2,000メートルより深い深海は1.028 g/cm3強の一定となる[5]
塩分深海の塩分濃度
1. 高緯度海域、2. 低緯度海域。色のついた部分が塩分躍層

塩分濃度は緯度によって異なっており、表層近くでは3.3 - 3.7%といくぶん開きがあるが、深度が深くなると緯度に関係なく3.5%前後の一定値に近づいていく。北と南の回帰線付近がもっとも塩分濃度が高く、高緯度では薄くなり、特に北極では3.3%を下回るまで薄くなる。赤道付近では3.5%付近となる。水深300 - 1,000メートル付近で塩分濃度が急激に変化する塩分躍層(英語版)がある[5]
太陽光と深海

光合成に必要な太陽光は深海には届かず、したがって植物プランクトンは深海には存在できない。しかし水深1,000メートル程度まではわずかながら日光が届いており、深海の生物はそれを感知できる大きなを持つものが多い。

赤い光は青い光より多く水分子に吸収されるため、10メートルより下では物がすべて青く見える。70メートルでは地上の0.1%の光しかなく、ヒトの目ではかなり暗くなる。200メートルではヒトでは色を感じられなくなり、灰色の世界になる。400メートルを限界にヒトの視覚では知覚できない世界になる[5]
海水の混合と分離

水深200メートルまでは海水が自由に混合するが、温度躍層を挟んで上下の海水は混合することはない。
深層水

深海には深層水と呼ばれる、表層とは異なった物理的・化学的特徴を持つ海水が分布する。表層と違い風の影響を受けないが、地球上の2か所(北大西洋グリーンランド沖と南極海)で形成される深層水(北大西洋深層水と南極低層水)は熱塩循環によってゆっくりと世界中の海洋を移動している。

また、北太平洋には深度数百メートルに北太平洋中層水と呼ばれる海水が分布することがわかっている。
深層流

水深数千メートルの深海でも秒速数センチメートルの海水の流れがあり、深層流と呼ばれる。深層流と日本で飲用水として販売されている「深層水」とはまったく関係がない。深層流は地球規模の熱塩循環を構成している。核実験のときに生じたトリチウム(三重水素)という放射性同位元素を利用して、一度深海に潜り込んだ海水が再び表層まで湧き上がってくる時間を測定した結果、平均して2,000年程度掛かっていることがわかった[5]
生物

深海は大きな水圧と低い水温、さらに光のない暗黒の世界と生物にとっては過酷な環境である。光合成に利用可能な太陽光は水深数十メートル程度までしか届かない。

深海では、深海魚など表層とはまったく異なった形態や生態を持つ生物が多く生息するほか、ウミユリシーラカンスなど以前は化石としてしか知られていなかった原始的な形態を持つ生物も生息している。しかし深海の生物は現代では意外と身近な存在でもある。サクラエビヒゲナガエビホッコクアカエビ(アマエビ)、タカアシガニズワイガニタラキンメダイアコウダイメルルーサなど、漁具や冷凍・運搬技術の発達により、食用として流通するようになった深海生物は数えきれない。

微生物にとっても深海はやや苛酷な環境であり、深度の増加にともない数が減少する。光合成を糧とするシアノバクテリア類は早々にいなくなり、表層ではほとんど検出されない古細菌類の割合が増加する(1,000メートル以下で細菌類と古細菌類の検出数がほぼ等しくなる[9])。これらは培養に特殊な条件を必要とするものが多く、ほとんどが培養不可能種である。たとえばカイコウオオソコエビの住むマリアナ海溝から発見された Moritella yayanosii は、増殖に500 - 1,100気圧もの高い圧力を要求する。
酸素極小層

水深600 - 1,000メートル付近には溶存酸素量が極端に少ない酸素極小層(Oxygen Minimum Zone: OMZ)がある。これは上層から降下してくる有機物細菌が分解するときに水中の溶存酸素を使うため、この深度では酸素が使い果たされてしまうのである。酸素極小層ではさすがに生物の姿もまばらになるが、ここを過ぎると溶存酸素量がわずかながら増え、生物の密度もわずかに上がる。
物質生産


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