深海救難艇
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深海救難艇(しんかいきゅうなんてい、:Deep Submergence Rescue Vehicle、DSRV)は、海中で遭難・沈没した潜水艦の乗員を救助する専用の潜水艇である。ロサンゼルス級原子力潜水艦ラホーヤ」に搭載された深海救難艇ミスティックDSRV-1。パシフィック・リーチ2002に参加した2002年4月25日に佐世保港で撮影。
概要母艦から発艦するアヴァロンDSRV-2

深海救難艇は救難に特化した小型潜水艇であり、そのために必要な装備を持っている。潜水艦救難艦の装備の一部としてか、空輸の後に潜水艦や水上船舶に搭載されて、事故海域へ移動する。

潜水艦に対する救難手段を持つ事は、潜水艦乗員の士気を保ち、人命・人材や艦の喪失を防ぐために重要である。潜水艦事故に対する救難装備の調達には多くの費用と高い技術を要するため、潜水艦は保有していても自前の潜水艦救難艦・救難艇の保有は確認されていない海軍も多い。国際協力が行われることも多く、北大西洋条約機構(NATO)は独自に救難艦を持たない加盟国のために北大西洋条約機構潜水艦救助システムを構築している。平時に潜水艦が遭難した場合は、他国が上空や水上から捜索に加わるだけでなく、深海救難艇を搭載した潜水艦救難艦を派遣またはその準備をする場合もある[1]

アメリカ海軍では原子力潜水艦スレッシャー」の事故にあたって深海の沈没潜水艦に対する救難手段の不足を痛感し、その整備に着手した。以前に主流であったレスキュー・チェンバーによる救助では、海底に吊り下ろす救助チェンバーから作業員が飽和潜水によって海中に出て、人力で救助活動を行っていた。この方法では沈没艦の正確な位置捕捉が不可欠であるうえ、飽和潜水には深度限界があり人員の加圧・減圧に時間がかかるため、事故に対する迅速な対応が不可能であった。このため救難装備を持つ深海潜水艇を開発した。海中での自由行動を可能とすることで、おおよその位置に潜航して海底を捜索できるようになった。艇内が常圧であるため加圧の必要がなく、迅速な救助活動も可能となった。

海中は深度に比例して水圧が高まる。アメリカ合衆国日本の深海救難艇は相互に接続された三つの耐圧球からなり、これに外殻を張った複殻構造を持つ潜水艇である。前部耐圧球は乗員と操船設備からなり、中部耐圧球は下部に接続ハッチを持つスカートを備えた救難区画、後部耐圧球は機械室となっている。外部監視装置としてソナー、投光機、テレビカメラ、窓を備える他、必要に応じて障害物を除去出来る様にマニピュレーターを備えることもある。推進用のプロペラに加えハッチに正確に接近・接合するために前後左右にスラスターを持ち微妙な位置調整が可能となっている。機関は蓄電池により電動モーターで駆動する。移動は可能であるが低速で、広範囲の捜索には向かない。

深海救難艇は海中で遭難艦を捜索し、発見するとまず艇体下部のスカートと遭難艦の専用ハッチを接合(メイティング)する。スカート内部を減圧・排水した後に深海救難艇と遭難艦のハッチを開いて通路を形成し、遭難艦の人員を深海救難艇に移乗させる。負傷者は担架に載せられたまま移乗させ、その作業には深海救難艇の救難作業員と遭難艦の健康な乗員が行う。一度に全員を収容できない場合は、深海救難艇が支援艦と遭難艦の間を往復して遭難艦の乗員を救助する。深海救難艇は各国で整備されているが、その接合方法は共通とされている。これは任務の性質上、必ずしも自国艦との接舷のみを行うとは限らないためである。このため潜水艦の上部甲板には救難ハッチの位置を明示する塗装がなされている。これは隠密行動を主とする潜水艦における塗装の例外となっている。

DSRVは小型であるが故に単体での活動時間は短く、広域捜査を行なうには母艦との連携が不可欠となる。また自艦の活動時間や安全潜航深度の限界、遭難艦の傾き具合によっては接合そのものが不可能になるなど制約も多い。そのため米国や英国では活動に融通がきく無人潜航艇(ROV)との組み合わせによる救難態勢を整備している。
国際救難

大西洋では、NATO諸国が北大西洋条約機構潜水艦救助システムという、救難艇を共同利用する体制を構築している。

2000年から太平洋周辺の潜水艦を運用する国家の合同救難演習として、西太平洋潜水艦救難訓練(Exercise Pacific Reach、パシフィック・リーチ演習)が不定期で行われている。2000年の第一回はシンガポール、2002年の第二回の「パシフィック・リーチ2002」は日本がホスト国で東シナ海(カンファレーションなどは長崎県佐世保市)で行われた。第三回の「パシフィック・リーチ2004」は韓国済州島沖で開催され、日本、アメリカ、韓国、オーストラリアシンガポールの5カ国が参加した。ただし、DSRVを運用している国は日米韓3カ国のみで、オーストラリアは潜水艦のみ、シンガポールは艦艇を派遣する予定だったが、最終的に人員のみの参加となった。


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